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しおりを挟むはぁ、と今日何度目かの大きな溜め息をついた。仕事が全然手に付かない。カレンは前日のウィリアムとのデートのことを思い出していた。
ウィリアムがチケットを取ってくれた観劇はとても素晴らしいものだった。だが、行きの馬車でウィリアムに告げられたことばかり気になってしまい、ちゃんと集中出来ずに終わってしまった。
(ウィリアム、私のこと大好きな人って…………。)
あの言葉を何度も反芻してしまう。本当のことなのだろうか。また軽薄な嘘だろうか。もし本当のことなら、彼はいつから私の事を好きだったのだろうか。
そんなことをぐるぐる考えていると、あっという間にお昼休みになってしまった。
◇◇◇
簡単な軽食を摂った後、カレンは図書館へ向かう。王宮職員になった大きな理由は、この王宮図書館を自由に使える為だ。爵位が高いと、王宮職員で無くても利用を申請出来るようで、ケリーも利用しているが、カレンのような末端貴族は王宮職員になるしかないのだ。
(あれ?)
視界の端に見慣れたドレスが見えた。そちらの方を向くと、ケリーの後ろ姿だった。
(図書館に来たのね。)
まだお昼休みの時間は残っているし、ケリーへ声を掛けようとカレンは追いかけた。しかし、次の瞬間目に入ったのは、人目のつかない一角でケリーとウィリアムが楽しげに語らう様子だった。
カレンは咄嗟に物陰に隠れた。そして、こっそり覗くとウィリアムの嬉しそうな笑顔が見えた。
(なぁんだ。全然変わってないじゃない。)
カレンは小さく息を吐いて、その場を去ろうとした。ジクジクと痛む心の事は気付かぬフリをした。痛みを振り切りたくて足を速めた。
(あれ、もしかしてケリーも…………?)
歩きながら、ふと先程のケリーの笑顔が思い出された。ウィリアムだけでなく、ケリーもとても楽しそうに語り合っていた。
(お慕いしてる人って、まさか…………。)
ケリーがそれを話した時、カレンは家同士の事だと思い込み、深く追求しなかった。だが、好きな相手がウィリアムだったら?ウィリアムがカレンとあんなことになってしまい、好きな相手の名前を言えなかっただけなのではないか。
思い返せば、ケリーは昔からウィリアムを庇う言葉が多かった。カレンが、ウィリアムについての愚痴を溢せば「ウィリアムは貴女の事を思って、そう言ったんじゃないの?」等と言って、カレンの怒りに共感しなかった。これは、ケリーの方がウィリアムを理解していると言いたかったのかもしれない。
パチリ、パチリとパズルのピースが嵌まっていくように、考えれば考える程、ケリーとウィリアムが思い合っている理由ばかり思い浮かんだ。
(私、とんでもないことをしてしまったのだわ。)
あの夜、自分が軽率な事をしなければ、ウィリアムとケリーは結ばれたのではないか。婚約を嫌がっていた自分を二人はどう思っていたのか。カレンは顔面蒼白になり、二人への申し訳なさが募っていた。
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