【完結】就職氷河期シンデレラ!

たまこ

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第二部

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「……ねぇ、あんたは今まで何の仕事をしていたのよ?」


 ある休日、カスタードアップルパイを頬張りながらエラは尋ねた。ジャックが急に「甘いもんでも作るか」と言ったのでエラがリクエストしたのだ。エラはジャックが作っているのを見ているだけでは飽き足らず、自分も手伝いたいと強請った。手伝いどころか邪魔をしているような状態だったが、ジャックは馬鹿にはするものの「手伝うな」とは言わなかった。



「あ?」


「前に戦場がどうとか言っていたじゃない。でもこの国ではずっと戦争は無かった筈よ」


「おお、ちゃんと勉強しているじゃねーか。感心、感心」


 ジャックは揶揄うようにそう言って笑った。エラは「もう!」と声を上げたが、内心ではやっぱり聞かない方が良かったかと後悔していた。ずっと気になっていたので思い切って聞いては見たものの、戦争のことなんて話したくないのだろう。そうぼんやり考えていると、グイッと頬を引っ張られた。



「いっ……にゃにすんのよ!」


「変なことぐだぐだ考えてただろ」


「べ、べつに……」


 ジャックは手加減せずに引っ張ったのだろう。彼が手を離した後も、ヒリヒリと頬が痛む。エラが頬を擦っていると「わりーわりー」と全く反省していない声で謝った後「別に面白れぇ話じゃねーぞ」と前置きし話し始めた。



◇◇◇◇


 ジャックは物心ついた頃には既に身寄りが無かった。当時住んでいたのはイザードやナスタジアがいる隣国をいくつも越えた先にある小さな国だった。


 ジャックの祖国は、情勢が不安定で近隣の国と戦争を繰り返していた。争いばかりの貧しい国で、身寄りのない子どもに親切にしてくれる人間などいない。ジャックは自分と同じような身寄りのない子どもたちと共に空き家に住み、ぎりぎりの生活をしていた。


 ジャックが十代半ばになった時、彼は傭兵となった。まだ子どもほどの年齢でも傭兵に志願できるほど、その国は後がない状況だった。何年もの間、傭兵として戦場に立っても苦しい生活は変わらなかった。


 そして、ジャックの祖国はどんどん衰退していき、とうとう他国に侵略されてしまった。


◇◇◇◇



「……」



「だから面白くねーって言っただろ?」


 ジャックはあっけらかんとそう言ったが、エラは顔を青くしたまま言葉が見つからなかった。ジャックは何でもなさそうに語って聞かせたが、彼の人生はあまりに壮絶であり、エラには想像すらできないような苦しみばかり味わってきたのだろう。



「国が無くなって、俺の人生も終わりかとその時思ってたんだ。だが、物好きな貴族がいてな、何でか知らんが俺をこの国に連れて来た。それでこっちで騎士になったんだ。それも随分昔の話だがな」



「何で……」



「あ?」



「何でよ……」


 エラは怒っている。涙を流しながら怒りに震えていた。そんなエラを見て、ジャックは目を見開いた。



「何でそんなに苦しんだあんたが、こんな仕事させられるのよ!私みたいな犯罪者の面倒を見る仕事じゃなくて、もっと違う仕事があるでしょう!」


 ジャックにこの仕事を命じたであろう上司に文句を言いに行くのだと、エラは塔の出入口までずんずんと歩き始めた。森に掛けられている結界のことも頭から抜けるほどに怒りに満ちている。呆気に取られたジャックは反応が遅れ、少し経ってから慌ててエラの背中を追った。

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