蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ

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第一部 王立宮廷大学を目指そう!

32. 剣先から見えたもの

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 使用人たちの間から、大きな歓声が湧き上がる中、キリロスは自分の耳を疑っていた。

――自分が弱い……だと?

 同年代の中では敵なしとされ、周囲からも将来を嘱望されていたこの自分が、「弱い」と評された? 
 それも、つい最近剣を始めたばかりの、無能な姉上に?
 ……いや、ありえない。そんなはずがない。

 ……ああ、なるほど。そういうことか。
 姉上は兄上にしつこく付きまとい、僕に勝つためだけに、対策に特化した訓練を積んできたのだ。
 そして、次の試合を諦めさせるために、あえて「弱い」などと口にしたのだ!

 キリロスは、到底受け入れがたい敗北に、自分なりの納得できる理屈を無理やり探し出していた。

「次は本気だ! 刃引きの剣だ! 刃引きの剣で勝負しろっ!」
 怒声が決闘場に響き渡った。

「あ、あのね、キリロス。あなたはまだ11歳なのだから、今はまだ弱くても、これからいくらでも――」
 カテリーナの言葉は、最後まで届かなかった。

「黙れ! 軽い木の剣で早く動けるよう練習して、僕の癖だけを狙ったんだろう! 辞退させようとしても、そうはいかないぞ! この卑怯者め!」

「キリ――」
「口を慎みなさい、キリロス!」

 注意しようとしたアレクシオスよりも先に、義母カリスタが鋭い声を上げた。

「騎士を志す者が、“卑怯”などという言葉を軽々しく口にしてはなりません! 自らの強さは、言葉ではなく、剣をもって示しなさい!」
 カリスタは、激情に飲まれたまま戦えば再び敗北すると考え、あえて厳しい言葉でキリロスの頭を冷やそうとしたのだった。

 その叱責に、キリロスはハッと目を見開き、一瞬で顔つきが変わった。
 怒りの熱はまだ消えていなかったが、彼は冷静さを取り戻そうとしていた。
 無言のまま剣を手に取り、静かにカテリーナの方へと向けた。

「……では、私も刃引きの剣を使います」
 カテリーナも残念そうな表情を浮かべながら、落ち着いた声で応じて、自分の剣を取った。

 観客の間に、ぴんと張り詰めた空気が走った。

 刃が潰されているとはいえ、鉄でできているため、本物の剣とほぼ同じ重量である。
 打ち所を誤れば大怪我もするし、最悪命を落とすことすらある。

「……では、双方合意の上で、二本目は刃引きの剣で行うものとする」
 アレクシオスの厳かな宣言に、決闘場の緊張はさらに高まった。

 ゼノビアがぽつりとつぶやいた。
「あの子……大丈夫かしら?」

 カリスタはその言葉には応えず、黙ったまま鋭い眼差しでカテリーナを睨み続けていた。

「始め!」

 アレクシオスの号令と同時に、キリロスが細かく剣を動かしながら距離を詰めてきた。

――ピュッ、ピュッ!

 慎重に間合いを取って牽制を行う。
 先ほどの失敗を繰り返さぬように、彼は普段通りの「基本」を重視して戦っていた。

――シュッ、シュッ!

 だがその剣のすきを、カテリーナは見逃さなかった。
 彼女の突きは正確無比で、タイミングも位置も完璧だった。

「……なっ!」

 キリロスは思わず後退した。
 カテリーナはさらに追い詰めるように、静かに一歩、また一歩と進みながら、突きを繰り出していく。

――シュッ、シュッ、シュッ!

 その突きは、鋭さと美しさを兼ね備え、急所ばかりを正確に狙っていた。
 キリロスは受けるだけで精一杯となり、もはや前に出る余地すらなかった。
 剣を振る余裕すらなく、防戦一方となっていた。

――キン、シュッ、キン、シュッ!

 剣と剣がぶつかる甲高い音だけが、張り詰めた決闘場に響いていた。

「くっ、このぉ……!」

 焦ったキリロスが、反撃を狙って剣を振り上げた――その瞬間。

――シュッ!

 カテリーナの突きが、喉元すれすれに突き込まれた。

「うわっ……!」

 キリロスは思わず悲鳴を上げ、剣を振り上げたまま動けなくなっていた。

「一本、それまで!」

 アレクシオスの判定が響くと同時に、キリロスの手から剣がこぼれ落ちた。

――カラン、カラン……

 地面に落ちた剣が跳ねる音だけが、静寂を切り裂いた。

――ウワーーーッ!

 再び、使用人たちの間から大きな歓声が湧き上がった。

 キリロスは顔面蒼白のまま、呆然と立ち尽くしていた。
 格下と思っていた相手に、何もできずに終わった一方的な敗北は、もはや屈辱というより、現実感のない出来事になっていた。

「あーあ、もうこれで終わりねぇ」
 ゼノビアが溜息ためいき交じりに、淡々とつぶやいた。

 しかし、カリスタの視線はカテリーナに釘付けのまま、変わらず鋭いままだった。
 そして、唇が微かに動き、誰にも聞こえぬほど小さな声で何かを呟いたようだった。

「うわぁああああっ!」
 突如として、キリロスの絶叫が辺りに響き渡った。

 彼の首にかけられたネックレスの宝石が、まばゆい光を放ち始めていた――。
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