蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ

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第一部 王立宮廷大学を目指そう!

36. 姉弟喧嘩

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 決闘から約三週間が過ぎた。
 キリロスの体調は無事に回復し、時にはカテリーナの練習相手を務めるようにもなっていた。

――カン、キン。

 カテリーナの剣とキリロスの剣がぶつかり合う音が、稽古場に響き渡る。

「……やはり姉上は、本当に強いです。手も足も出ません」
「いや、キリロスも強い……と思うよ。たぶん」

「……何ですか、それ。はっきりと言ってくださいよ」
「ハハハ、どう言っていいのか、分からないよ」

 練習中のふたりの笑い声が、周囲に和やかに広がっていった。
 あの決定的な敗北を経て、キリロスの態度は見違えるほど変わっていた。
 アレクシオスの言葉にも素直に耳を傾けるようになり、どんな相手に対しても敬意を持って接するようになった。

 中でも特に変わったのは、カテリーナに対する態度だった。
 以前のように馬鹿にしたり見下したりする姿勢は一切消え、むしろ自分よりも強い剣士として、明確な敬意を抱くようになった。

「……まったく、バッカじゃないの!」

 そんなキリロスの様子に苛立ちを隠せなかったのが、実姉のゼノビアだった。

「魔法の価値が分からない者同士で、仲良くなったってわけね」

 ゼノビアは、自分より格下で、貴族の恥とまで見なしている義姉・カテリーナとキリロスが、親しくしていることに不満を抱いていた。
 そして何よりも、カテリーナが兄・アレクシオスの時間を奪っていることに、今や弟まで加担し始めたことが、どうしても許せなかったのだ。

 カテリーナとの練習を終えたキリロスに、ゼノビアが声をかける。

「何、バカ同士で無駄なことをしてるのよ」
「無駄なことなんかじゃない! れっきとした騎士の訓練だ!」

 初めから喧嘩腰の物言いに、キリロスは怒りを露わにして声を張り上げた。

「じゃあ、『高貴なる血統の責務』はどうなっているのかしら?」
「もちろん、僕だって魔術の訓練をしているさ。身体強化魔法も、日に日に上達してるんだ!」

「お義姉ねえさまにも勝てない程度の強化魔法をね……。まさに魔力の無駄遣いって、こういうことを言うのよ」
「なんだとっ!」

 ゼノビアの挑発は止まらなかった。

「いい? バカでも分かるように説明してあげる。私たちが多くの魔力を持って生まれたのは、この国を導き、発展させ、将来、魔神のような存在が襲来したときに備えるためなのよ」
「そんなことは分かってる! だからこそ、剣技を磨いて、身体強化魔法を効率的に使えるように訓練してるんだ!」

「だからあなたはバカなのよ。その貴重な魔力を、ただの身体強化なんかに使うのは間違いだって言ってるの」
「はぁ? 約二百五十年前に魔神を倒したのは、身体強化された騎士なんだぞ!」

「それこそが、男たちが飛びつきがちな誤った道なのよ」
「何っ?」

「あの戦いの主役は魔導師たちなの。ありとあらゆる魔法を駆使して、魔神を弱らせ、動きを制限し、魔法も使えないようにした。そして、神聖魔法をはじめとして、複数の付与魔法を奇蹟的に賭け合わせることに成功した聖剣《ダイモノフォノス》を騎士に渡し、さらにその騎士にも絶えず支援魔法をかけ続けた。そこまでして初めて、魔神を倒せたのよ」
「だから何だっていうんだ! 最終的に魔神を倒したのは、剣の力なんだぞ!」

 ゼノビアは深くため息をついた。

「はぁ……。何度言っても理解できないなんて、ほんと救いようがないわね。いい? あの勝利は魔術師たちの支えがあってこその勝利なの。騎士は、ただ最後の『美味しいところ』を持っていっただけなの」
「姉さんは、騎士を侮辱するつもりなのか!?」

 キリロスは思わず腰の剣に手を掛けた。

「侮辱なんかじゃないわ。ただ事実を言ったまでよ」
「じゃあ、お兄さまはどうなんだ! お兄さままでバカにするつもりなのか!?」

 ゼノビアはその言葉に思わず動揺した。

「はぁっ? お兄さまは聖騎士なの! 神官なの! 分かるっ? 魔法が主で、剣は副なの! ……ま、まあ、お兄さまは魔法も剣もどちらも天才的な才能をお持ちだから、あなたが見誤るのも無理はないわね」

 顔を赤くして反論するゼノビアの様子に、キリロスは察した。

「……要するに、カテリーナ姉さまと、大好きなお兄さまが仲良くしてることが気に入らないだけなんだろ? そこに僕まで加わったから」

「な、何ですってぇ!」
「だって、完全にヤキモチじゃないか!」

 図星を突かれ、ゼノビアは怒りと恥ずかしさを爆発させた。

「我が魔力を火の力に変えて……!」
「我を守る魔法の盾を……!」

 ゼノビアは、火球の攻撃魔法の詠唱を始めた。
 キリロスも、それに対抗し、剣を構え、防御魔法の詠唱を始めた。

「――お止めなさい!」

 その鋭い声と同時に、沈黙と拘束の魔法がふたりを包んだ。

「……うっ」
「……むぐっ」

 呪文が詠唱できなくなり、動きも封じられる。
 母・カリスタが魔法をかけたのだ。

「こんな場所で、しかも魔法まで使うなんて何事ですか! あなたたちは貴族なのですよ。常に誰かに見られているという意識を持ちなさい!」

 その言葉に合わせて、遠巻きに様子を伺っていた使用人たちが、慌ててその場を離れ始めた。

「今回の件には、私にも責任があります。あなたを守るためとはいえ、付与魔法を施した宝石を渡してしまったのですから」

「……」
「……」

 二人は沈黙の魔法により、返答すらできない。
 カリスタは言葉を続けた。

「ただし、喧嘩は別です。貴族である以上、感情に任せるのではなく、理論と正しさをもって自らを語れるようになりなさい」

「……」
「……」

 言葉を発せないため、ふたりは苦しげに何度も頷くことで、理解を示すしかなかった。

「……以上です」

 カリスタはその場を去っていった。
 しばらくしてから、魔法の拘束がようやく解かれた。

「……ぷはぁ。お母さまの魔法は、ほんとすごいわね」
「……でも、お母さまって、大学にも魔法学校にも通っていなかったはずなのに、どこで魔法を学ばれたんだろう?」

「貴族の娘は良き跡取りを生むことが一番――それがお母さまの信条だからね。家にいながら、個人的に魔法の師匠についたらしいけど」
「えっ、そんな話、初耳だ!」

「あなたがば……いや、魔法より騎士に憧れてばかりだったから、きちんと聞かなかっただけでしょ」
「姉上だって、兄さまに憧れてばっかりだろ……」

「なっ!」
 一瞬、再び火花が散りかけたが、先ほどの母の叱責が脳裏をよぎり、ゼノビアは深呼吸して怒りを抑えた。

――でも、お母さまの師匠の話や、魔法のことって、ほとんど教えてくれなかったのよね。

 ゼノビアもまた、自分の母でありながら、母の魔法については何ひとつ詳しく知らなかった。
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