その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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プロローグ

03.私だけが見えるモノ

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(――いる!)


 陶器の上。さっきまで何もなかった空間に、半透明な小人が立っていた。ダルマのようなまあるいフォルムで、ツルっと光を反射している。体の青い模様は陶器のツボとそっくりだ。
 手のひらサイズの小人はじっと私の方を見ていたようで、バチリと目が合う。瞬間、小人はひどく嬉しそうに駆け寄ってきた。手足が短いからほとんど転がって来たに近いけど。


『気づいてくれた、やっと気づいてくれた!とても綺麗な眼なのに全然応えてくれないから、ボクとうとう消えちゃったのかって思ったよ!』


 物は百年大切に使われ続けると、命が宿る。
 そうして意思を得たモノが付喪神と呼ばれる存在だと、私はおばあちゃんから聞いた。
 
「ごめんね、わざとじゃないの!ええと、あなたはあのツボの付喪神?」
『そうだよ!そうだよ!』


 この小人のように妖精のような姿のモノも居れば、人間と変わらない姿をしているモノもいる。中には動物も居たりするが、不思議なことに彼らが見えている限り、どんな姿をしていても言葉を交わせるんだけど……。


(この子、なんでこんなに透けてるんだろう)


 そう首を傾げた私に、小人は突然わっと泣き出した。
 付喪神はその成り立ちからか、人間に友好的なものがほとんどだ。こうして初対面で泣くなんてよっぽどのことがあるのだろう。私は小人をなだめつつ、声を潜めて話を聞いた。


『ボクはあの伊万里焼の付喪神だけど、このままだと消えちゃうの!』
「待って、落ち着いて。消えるってどういうこと?あなた達は本体が壊れない限り存在できるんじゃないの?」
『そうだけど、そうじゃない!ボクたちは実体がないから、存在があいまいなんだ。人間の想いから生まれたボクらにとって、その想いが全てなの。その想いが根底から揺らぐようなことがあれば、すぐになかった・・・・ことになっちゃう!』


 つまり、幽霊は居ないと思えば存在しない……みたいなことだよね?


「そうなんだ……じゃあ、あなたが消えそうなのも、その”想い”が揺らいだから?」
『うん。ボクは百五十年前に作られたけど、ずっと蔵に仕舞われていたから付喪神に成ったのは最近なんだ。だからまだ弱くて……あの男が偽物ってボクを否定する度に力が削れて、存在できなくなっていくの』


 存在の消滅は、付喪神にとっての死だ。


『お願い、助けて!もうボクが見えるキミにしか頼れないんだ!』


 状況を理解した瞬間、さっと頭から血のけが引いていく。
 さっきまで言葉を交わしていた相手が、次の瞬間に忽然と消えている。まるで最初からそこにいなかったように。
 私にしか感じ取れないから、彼らのことは他の誰の記憶にも残らない。
 それは、とても――。


「分かった!やってみる」


 気づけば、私はうなずいていた。
 この目に嫌な思い出があるけど、付喪神たちのことは大好きだ。友達がいなかった私の寂しさを埋めてくれた大事な存在だから、事情を知ってしまったからには助けてあげたい。


『……!本当にありがとう!』
「否定されて弱くなるのなら、逆にあのツボが本物だと証明できればいいんだよね?」
『うん!一番の原因は、所有者がボクを偽物だと思い始めたからだと思うんだ。だから颯馬……あの男の子さえ説得できれば大丈夫だと思う』
「でもそれって、結局あの男を先に説得しないとダメじゃない?」


 いくらあの男の子――ええと、颯馬君、かな?――が鑑定士を疑っていたとしても、ぽっと出の私よりは信用されると思う。いきなり付喪神の事を話したところで、信じてもらえるはずもないんだから。
 でも、小人は小さく頭を振った。


『あの男はボクをオークションに出そうとしているから、本物だって分かってるんだ。だからあいつには何を言っても無駄だよ』
「それって詐欺じゃん!」


 思わず声に出してしまって、慌てて口を押える。



(まずいっ、つい大きな声出しちゃった!)


 しかし、時すでに遅し。
 鑑定士と言い争いをしていた颯馬君が鋭い声を上げた。


「誰だ!」

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