その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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プロローグ

04.嘘を見抜け!

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 意味がないと分かっていつつも、思わず扉の影で息をひそめる。
 するとしびれを切らしたのか、こちらに人が近づいてくる気配がした。


(よりによってこんな不審者満載の介入になっちゃった……)

 
 小さくなっていた私に、影がかかる。


「え、女の子……?」


 戸惑ったような声に、盗み聞きをしていたというのもあって罪悪感が膨らむ。
 素直に謝ろうと伏せていた顔を上げると、思ったよりもずっと近くに颯馬君がいた。少しかがんでいるせいで、サラサラの黒髪がその頬にふりかかる。まつ毛の長い、黒目がちな瞳に見つめられて少し心臓がざわつく。
 あの金髪の子が西洋の王子なら、彼は着物が良く似合う純和風イケメンだ。


「いや、そんなことよりお前、詐欺って言わなかったか!?」


 はっとした颯馬君は私の肩を掴む。あまりもの勢いに、肩にのっていた小人が転がり落ちる。そのあまりもの必死の様子に、このまま放っておこうという気持ちは完全に消え去った。


「――うん。あの人は、嘘をついてるよ」
「ほ、本当か!?どうやって分かったんだ?お前、たぶん俺と同じくらいだろ」



 まるで希望を掴んだように、颯馬君の表情が輝いた。その声色から期待がひしひしと伝わってくるけど、突然現れた私を怪しむような気配はまったくない。
 そのことに、無意識に強張っていた体から力が抜けていく。



「困りますね、遊びで邪魔されるのは。大人の仕事に口を出さないでいただきたいものです。__このガキが」


 だけど私の言葉を遮るように、鑑定士は舌打ち交じりにそう吐き捨てた。いつの間にか立ち上がってこちらを見ていたようで、不快そうに私を見ていた。
 大人の男の人に見おろされるってすごく怖いけど、ぐっと堪えて前に出る。



「その陶器は伊万里焼ですよね?それも最近作られた物じゃなくて、江戸時代に作られた古伊万里の方ではありませんか」
「ああ、俺もそう聞いてる。……近くで見たわけでもないのに、よく分かったな」


 颯馬君が驚いたように私を見る。それに反して、鑑定士の眉間のしわが深くなった。


「……まあ、伊万里焼は有名ですからな。しかし、これはとてもよくできた贋作なのです。プロでさえ判断するのが難しいのに、君はいったい何を根拠にこれを本物だと言っているんですか?」


 鑑定士は余裕ありげに薄く笑う。
 ふとズボンのすそを引っ張られたような気がしてそっと下を見れば、そこにはきりっとした小人がいた。


『ボクの模様は確かに見分けにくいかもしれないけど、染付の色と硬度なら誤魔化せないはずだよ。あいつ、受け渡しに来たのが子供だからとっさに嘘をついたんだ。すぐにボロが出るよ!』


 染付とは、陶器に絵の具で模様を描いて焼くことだ。本物と偽物じゃ、当然色が全然違う。
 変に思われないように、私は返事の代わりに小さく小人にうなずいてみせた。


「証拠ならあります」
「ふん、なら聞かせていただきましょうか」
「まず、白磁は硬度が高いんです。先ほど貴方が壺を机に置いたとき、ちゃんと重みがある音でした。それに、模様の色にしっかり深みが出ています。偽物であるなら、ここまでうわ薬が固まっているはずがありません」


 鑑定士が口を挟めないように、一気に最後まで言い切った。
 颯馬君から感心したような声が上がり、鑑定士は隠すことなく舌打ちをした。


「っち……私の言い方が誤解を招いてしまったようですが、贋作というのは、古伊万里を真似している現代の品という意味ですよ。これは偽物ではなく……そう、最近作られた本物の伊万里焼ではあるんです」


 江戸時代に作られた物だからこそ古伊万里で、見た目は似ていても最近作られた伊万里焼は古伊万里じゃないと言いたいのだろう。
 普通の子供なら誤魔化せるだろうけど、私にそんな屁理屈が通じるわけない。何年骨董品好きをやっていると思っているんだ!


(私には付喪神直伝の知識があるんだから!)


 鑑定士は私たちが子どもだと思って適当に誤魔化しているようだが、自分で墓穴を掘ったことに気づいていないようだ。そこをついてやれば、すぐに露呈するはず……!

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