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第二章 いざ捜査へ
25.千代さんの使用人
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「――坊ちゃん」
パッと顔を上げると、そこには着物の上にエプロンを着た女性が私たちの進路を遮るように立っていた。黒い髪はきっちり後ろでお団子にしていて、私のお母さんより少し年上だと思う。使用人というより、女中さんという言葉が似合う人だ。
「あれ、葵さん」
「おかえりなさいませ、颯馬坊ちゃん。桜二様も、よくいらっしゃいました」
葵さんと呼ばれたその人はお辞儀をすると、私とアキくんの方を見た。
にらまれる、というほど鋭くないが、どこか冷たいまなざしだ。
「そちらの方たちは」
「俺の友達だ。二人とも骨董品が好きだから誘ったんだ。父さんたちには言ってある」
「……そうでしたか。坊ちゃんの大事なお客様とは知らず、大変失礼しました」
淡々とした感じで、葵さんはもう一度頭を下げた。
「ところで、この先は千代様のお部屋になりますが」
再び顔を上げた葵さんは、少し眉をひそめてそう言った。まるで私たちの言ってほしくないというような声色だ。
でも、颯馬くんはまるで気にしてないように朗らかに笑った。
「俺が無くなった寄木細工の話をしたら、こいつらも手伝うって言ってくれたんだ。もうそろそろ一年経つし、これでも見つからなかったら諦めるつもりで手を貸してもらうことにしたんだよ」
「さようでしたか。母屋の蔵の方がきれいで見やすいかと思って提案したのですが、要らぬ気遣いでしたね」
葵さんの雰囲気がわずかに柔らかくなったような気がした。すかさず白鳥くんが話題を変える。
「そうだ、葵さん。お昼も千代さんの部屋で食べちゃうから、十二時くらいに四人分持ってきてくれる?」
「承りました」
短く返事した葵さんは、微笑みを浮かべて私の方を見た。
「自己紹介が遅れました。私は吉田葵と申します。千代様付きの女中でした」
なるほど、私に冷たいのは千代さんを大切にしていたからかもしれない。見知らぬ子供に大切な人の部屋を荒らされたくないよね。
「三葉様、お荷物をお運びしましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。見た目より軽いので、自分で持ちますよ」
ボストンバッグに目をとめた葵さんに、アキくんはよそ行きの笑顔を浮かべる。断られた葵さんは軽く頭を下げると、静かに私たちの横を通り過ぎた。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから、颯馬くんが申し訳なさそうに振り返った。
「葵さんはずっとひいばあちゃんに仕えていた古株なんだ。……本当は悪い人じゃないぞ」
「オレはあの人のこと、あんまり好きじゃないけど」
「桜二!」
咎められても白鳥くんは撤回するつもりはないようだ。そのままさっさと奥に進んでしまった。
颯馬くんは大きなため息をつくと、仕方なさそうに笑って見せた。
「じゃあ、俺たちも行くか。ひいばあちゃんの部屋はこの角を曲がったらすぐだ」
パッと顔を上げると、そこには着物の上にエプロンを着た女性が私たちの進路を遮るように立っていた。黒い髪はきっちり後ろでお団子にしていて、私のお母さんより少し年上だと思う。使用人というより、女中さんという言葉が似合う人だ。
「あれ、葵さん」
「おかえりなさいませ、颯馬坊ちゃん。桜二様も、よくいらっしゃいました」
葵さんと呼ばれたその人はお辞儀をすると、私とアキくんの方を見た。
にらまれる、というほど鋭くないが、どこか冷たいまなざしだ。
「そちらの方たちは」
「俺の友達だ。二人とも骨董品が好きだから誘ったんだ。父さんたちには言ってある」
「……そうでしたか。坊ちゃんの大事なお客様とは知らず、大変失礼しました」
淡々とした感じで、葵さんはもう一度頭を下げた。
「ところで、この先は千代様のお部屋になりますが」
再び顔を上げた葵さんは、少し眉をひそめてそう言った。まるで私たちの言ってほしくないというような声色だ。
でも、颯馬くんはまるで気にしてないように朗らかに笑った。
「俺が無くなった寄木細工の話をしたら、こいつらも手伝うって言ってくれたんだ。もうそろそろ一年経つし、これでも見つからなかったら諦めるつもりで手を貸してもらうことにしたんだよ」
「さようでしたか。母屋の蔵の方がきれいで見やすいかと思って提案したのですが、要らぬ気遣いでしたね」
葵さんの雰囲気がわずかに柔らかくなったような気がした。すかさず白鳥くんが話題を変える。
「そうだ、葵さん。お昼も千代さんの部屋で食べちゃうから、十二時くらいに四人分持ってきてくれる?」
「承りました」
短く返事した葵さんは、微笑みを浮かべて私の方を見た。
「自己紹介が遅れました。私は吉田葵と申します。千代様付きの女中でした」
なるほど、私に冷たいのは千代さんを大切にしていたからかもしれない。見知らぬ子供に大切な人の部屋を荒らされたくないよね。
「三葉様、お荷物をお運びしましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。見た目より軽いので、自分で持ちますよ」
ボストンバッグに目をとめた葵さんに、アキくんはよそ行きの笑顔を浮かべる。断られた葵さんは軽く頭を下げると、静かに私たちの横を通り過ぎた。
その後ろ姿が完全に見えなくなってから、颯馬くんが申し訳なさそうに振り返った。
「葵さんはずっとひいばあちゃんに仕えていた古株なんだ。……本当は悪い人じゃないぞ」
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「桜二!」
咎められても白鳥くんは撤回するつもりはないようだ。そのままさっさと奥に進んでしまった。
颯馬くんは大きなため息をつくと、仕方なさそうに笑って見せた。
「じゃあ、俺たちも行くか。ひいばあちゃんの部屋はこの角を曲がったらすぐだ」
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