その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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第六章 新一年生オリエンテーション

53.気まずい朝

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 颯馬くんと桜二くんとはA組で別れ、私とアキくんは並んでC組に向かった。


「朝から災難だったね」
「あはは……まさか校門の前であんなことになるとは思わなかったよ」


 私の言葉に、アキくんも困ったように眉を下げた。
 綾小路さんとは同じクラスだから、正直この後の方が気まずい。


(最後にらまれちゃったし、しばらく根に持ちそうだよね……)


 考えるだけで沈んでいく気持ちのままに教室のドアを開ければ、私は予想が当たってしまったことを察した。
 だって教室に一歩足を踏み入れた瞬間、周りの空気がざっ……と変わったのが分かったもの。


(綾小路さん……もう朝のことを話したのね)


 いつもの取り巻きが綾小路さんを取り囲んでおり、落ち込んでいるところを励ましていた。
 それ以外の生徒たちは存在感を消すように自分の席に座っており、とても授業が始まる前の朝の時間とは思えない。
 綾小路さんと仲良くない子たちも私の方を見ようとせず、何人かとは目が合ってもすぐにそらされてしまった。


「ユキちゃん……」
「大丈夫だよ、気にしないで。こういう時はスルーが一番だから」
 

 あまりよくない空気を察したアキくんが心配そうに声をかけてくれたけど、小さく笑みを浮かべて安心させる。これくらいのことなら慣れているし、下手にアキくんを巻き込むわけにはいかない。
 それに本当に味方が一人もいなかった小学校のころに比べて、今の私には鑑定団の仲間たちがいる。


(変に綾小路さんの顔色を伺うより、普段通りに振る舞おう)


 後ろめたいことなんて一つもないから堂々としよう。
 そのうちこの話も落ち着くだろうと考えて、私はまっすぐ自分の席に向かって歩いた。途中、何人かとすれ違ったけれど、誰も声をかけてこない。
 何か言いたげなアキくんだったが、変に割り込むより私の考えを尊重して黙り込んだ。見るからに「納得していません!」という表情だったけど。


(完全に避けられてるけど……こればかりはしかたないね)


 机にカバンを置いて椅子に座れば、隣の席の女子が全力で顔をそらした。
 これが綾小路さんの影響力なのだと、今さらながら痛感する。彼女に嫌われたという事実だけで、私に近づくことをリスクと捉える人がいる。
 さすがに朝のことがあったばかりで綾小路さんは何もしてこなかったが、入学してから今までで一番空気が重い朝の時間になった。
 誰かに話かける気分にもなれず、私はホームルームの時間になるまで自習をして時間を潰した。


「おはよう……って、なんだこの静かさは」


 異様さは担任の花園先生にも伝わったらしく、いつも朗らかに入ってくるのに、今日は怪訝そうな顔で教室を見回した。もちろんそれに応えられる生徒はいなくて、なあなあのままホームルームが始まった。
 花園先生は気を取り直すように背筋を伸ばし、教壇に立って手元のプリントを掲げた。


「ま、気を取り直して本題に入ろうか。今日はみんなにいい知らせがあるんだ」


 パラパラと私たちにプリントを配りながら、先生はにっかりと笑う。


「うちは名門校だけあって、全国から生徒が集まる。知り合いばっかりの地元の学校に通うやつらと違って、ここにいるほとんどの生徒は初対面だ。だからまあ、お互いに気まずいのは当然だろう」


 英蘭学園はエスカレータ式の学校で、私が通う中等部には初等部からの持ち上がり組と受験組――いわゆる内部生と外部生が混ざっている。
 初等部は良家のご子息か、例外に才能を認められた子しか入学できないが、中等部からは一般家庭の子でも厳しい入学試験に合格すれば入学が認められるのだ。
 ただ生まれながらの価値観の違いはどうしても生まれてしまうため、一部の生徒を除いて基本的に内部生と外部生はお互いに距離がある。
 花園先生はオブラートに言っているが、要するにその溝のことを言っているのだろう。


(まあ、普通の学校じゃ「一条様に相応しくないわ!」なんて聞けないもんね)


 心の中で苦笑いを浮かべつつ、私は配られたプリントに目を落とす。
 雅なデザインにまとめられたそれはとても見やすく、もうすぐ行われる行事について説明されているのだとすぐに分かった。


「だが、そんな気まずさは毎年の新一年生に必ず起きることだ。当然、学校側も対策している」


 花園先生は自信満々な様子で胸を張ると、プロジェクターを起動した。
 そしてスクリーンにでかでかと映し出された『新入生向けオリエンテーション』というスライド。
 入学のパンフレットにも載っていた文字の羅列に、はっと行事の内容を思い出す。


「そういうわけでだ! 君たちの親睦を深めるべく、二泊三日の『林間学校』が月末に開催されるぞ!」


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