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第六章 新一年生オリエンテーション
54.運命のくじ引き1
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パンフレットなどでほとんどの生徒が知っていたおかげか、花園先生の大げさな言い方でも林間学校自体に驚く人はいなかった。
それでも学校行事は心を弾ませるものらしく、先ほどまで教室を満たしていた重苦しい雰囲気はあっという間に旅行への期待に塗り替えられていた。
(ほとんどの生徒には関係ない人間関係だしね……当の綾小路さんもワクワクしているし)
ひとまずみんなの注意が逸れたことにほっとしつつ、私も中学生活で初めて迎える行事に胸を膨らませた。
そんな私たちの反応に気をよくしたのか、花園先生はより顔を輝かせて説明を始める。
「場所は長野で、宿泊するのは学園が提携してるリゾートホテルだ。荷物なんかは後日配られるしおりに従って準備してくれ」
林間学校って言っているのに、リゾートホテルに泊まるのはうちくらいだろう。
家柄のいい子が多いから、防犯面で妥協できない事情があるらしい。
(颯馬くんとかが誘拐されたら、それこそ莫大な身代金を請求できそうだよね)
頭に思い浮かぶのは、前回の事件で行った颯馬くんの家。
時代劇でしか見ないような立派なお屋敷に、グランドよりも広い庭。桜二くんだってIT企業の社長令息らしいから、こういう宿泊行事とかすごく気を遣いそうだ。
ざわつく声を聞き流しつつ、私はページが切り替わったスライドに視線を向ける。
「二日目は5人で一グループに分かれて行動することになる。もちろんクラス別だから、他のクラスの生徒と組むのはダメだぞ」
先生の茶化すような言い方に、 女子グループから「えぇー!?」という声が上がる。
考えるまでもなく、A組にいる颯馬くんと桜二くんのせいだろう。
「せんせー、それじゃ好きにグループ組んで良いってことですか?」
「いいや、グループと宿泊部屋はくじ引きで決める。仲がいい友だち同士で固まったら結局意味がないからな」
花園先生がそう言い切った瞬間、教室の空気がピシッと張り詰めた。
ざわめきが止まったかと思えば、次に訪れたのは爆発するような大反発。
「ちょっと、それはひどくないですか!?」
「部屋まで強制する必要があるんですか?」
特に声を上げたのは、綾小路さんを筆頭とした内部生の女子たち。
日頃から一般家庭の子を何かと目の敵にしているから、同じ部屋で寝泊まりするなんてそれこそ耐えられないのだろう。
(プリントの説明だと、基本的に二人部屋になるみたいね)
うちのクラスは男女ともに偶数だから、三人部屋も一人部屋もなさそうだ。
雑魚寝じゃないのはさすがだが、二人だからこそ気の合わない子と一緒になったらそれこそ地獄である。内部生と外部生の親交を深める行事だが、これではむしろ溝が深まりそうだ。
だけど私たちの抗議も虚しく、花園先生は意に介さず悠々と続ける。
「毎年保護者からもぜひと声が上がっているくらい、実りのある伝統行事だぞ? どうしても嫌なら欠席でも構わないが……こういった大型行事は成績評価にも関わってくる。そこは理解して行動してくれよな」
淡々と、でも逃げ道のない言い方だった。
しぶしぶながらも抗議の声は引いていき、みんな逃れられないくじ引きに意識を向け始める。
かくいう私もその一人だ。今朝の騒動もあり、正直誰と相部屋になっても気まずい。
(グループの方はアキくんと一緒になれたらいいなぁ……最悪でもぼっちで過ごす三日間を回避できたら!)
ちらりとアキくんの方を見れば、向こうも同じことを考えていたようでバチリと視線がぶつかる。
幼馴染みに頼りっぱなしで申し訳ないけど、こういう時は本当に心強い。
「さて、さっそくくじ引きをするぞ。出席番号順に呼ぶから、一人ずつ前に来てくれ」
そう言いながら、先生は教壇の横にあるデスクから色が違う箱を二つ取り出した。
いつの間に用意したのかは分からないが、外でよく見かける上に穴が開いているタイプだ。全部の面が段ボールで作られており、外から中が見えないようになっている。
「この二つの箱の中から、くじを一枚ずつ引くんだ。赤い箱はグループ分けで青い箱は部屋分けになっている。くじには番号が書かれているから、同じ番号になった同士で組んでもらう」
簡潔な説明を最後に、先生はくじ箱を教卓の上に置いた。
出席番号が一番である綾小路さんは最初にくじを引くことになり、さすがにどこか緊張した様子である。
「……! わたくしのグループは四ですわね」
「くじを引いたやつは席に戻らず、後ろの方で同じグループで固まってくれ」
綾小路さんは続けて部屋分けのくじも引くと、取り巻きに自分の番号を見せながら先生の指示に従って教室の後ろに移動した。
英蘭学園の教室はとても広いから、全員が後ろに集まってもまだゆとりがある。くじが引かれるたびに空いていく座席にドキドキしながら、私はじっと自分の番が来るのを待った。
「次、七瀬だな」
「はいっ!」
私の出席番号はちょうど真ん中くらいだから、すでに半分くらいの生徒が決まっているということになる。
残念ながら綾小路さんのところはまだ空いており、私がそこに入ってしまう可能性はまだ残っているのだ。
(お願い、四番以外ならどこでもいいから……!)
それでも学校行事は心を弾ませるものらしく、先ほどまで教室を満たしていた重苦しい雰囲気はあっという間に旅行への期待に塗り替えられていた。
(ほとんどの生徒には関係ない人間関係だしね……当の綾小路さんもワクワクしているし)
ひとまずみんなの注意が逸れたことにほっとしつつ、私も中学生活で初めて迎える行事に胸を膨らませた。
そんな私たちの反応に気をよくしたのか、花園先生はより顔を輝かせて説明を始める。
「場所は長野で、宿泊するのは学園が提携してるリゾートホテルだ。荷物なんかは後日配られるしおりに従って準備してくれ」
林間学校って言っているのに、リゾートホテルに泊まるのはうちくらいだろう。
家柄のいい子が多いから、防犯面で妥協できない事情があるらしい。
(颯馬くんとかが誘拐されたら、それこそ莫大な身代金を請求できそうだよね)
頭に思い浮かぶのは、前回の事件で行った颯馬くんの家。
時代劇でしか見ないような立派なお屋敷に、グランドよりも広い庭。桜二くんだってIT企業の社長令息らしいから、こういう宿泊行事とかすごく気を遣いそうだ。
ざわつく声を聞き流しつつ、私はページが切り替わったスライドに視線を向ける。
「二日目は5人で一グループに分かれて行動することになる。もちろんクラス別だから、他のクラスの生徒と組むのはダメだぞ」
先生の茶化すような言い方に、 女子グループから「えぇー!?」という声が上がる。
考えるまでもなく、A組にいる颯馬くんと桜二くんのせいだろう。
「せんせー、それじゃ好きにグループ組んで良いってことですか?」
「いいや、グループと宿泊部屋はくじ引きで決める。仲がいい友だち同士で固まったら結局意味がないからな」
花園先生がそう言い切った瞬間、教室の空気がピシッと張り詰めた。
ざわめきが止まったかと思えば、次に訪れたのは爆発するような大反発。
「ちょっと、それはひどくないですか!?」
「部屋まで強制する必要があるんですか?」
特に声を上げたのは、綾小路さんを筆頭とした内部生の女子たち。
日頃から一般家庭の子を何かと目の敵にしているから、同じ部屋で寝泊まりするなんてそれこそ耐えられないのだろう。
(プリントの説明だと、基本的に二人部屋になるみたいね)
うちのクラスは男女ともに偶数だから、三人部屋も一人部屋もなさそうだ。
雑魚寝じゃないのはさすがだが、二人だからこそ気の合わない子と一緒になったらそれこそ地獄である。内部生と外部生の親交を深める行事だが、これではむしろ溝が深まりそうだ。
だけど私たちの抗議も虚しく、花園先生は意に介さず悠々と続ける。
「毎年保護者からもぜひと声が上がっているくらい、実りのある伝統行事だぞ? どうしても嫌なら欠席でも構わないが……こういった大型行事は成績評価にも関わってくる。そこは理解して行動してくれよな」
淡々と、でも逃げ道のない言い方だった。
しぶしぶながらも抗議の声は引いていき、みんな逃れられないくじ引きに意識を向け始める。
かくいう私もその一人だ。今朝の騒動もあり、正直誰と相部屋になっても気まずい。
(グループの方はアキくんと一緒になれたらいいなぁ……最悪でもぼっちで過ごす三日間を回避できたら!)
ちらりとアキくんの方を見れば、向こうも同じことを考えていたようでバチリと視線がぶつかる。
幼馴染みに頼りっぱなしで申し訳ないけど、こういう時は本当に心強い。
「さて、さっそくくじ引きをするぞ。出席番号順に呼ぶから、一人ずつ前に来てくれ」
そう言いながら、先生は教壇の横にあるデスクから色が違う箱を二つ取り出した。
いつの間に用意したのかは分からないが、外でよく見かける上に穴が開いているタイプだ。全部の面が段ボールで作られており、外から中が見えないようになっている。
「この二つの箱の中から、くじを一枚ずつ引くんだ。赤い箱はグループ分けで青い箱は部屋分けになっている。くじには番号が書かれているから、同じ番号になった同士で組んでもらう」
簡潔な説明を最後に、先生はくじ箱を教卓の上に置いた。
出席番号が一番である綾小路さんは最初にくじを引くことになり、さすがにどこか緊張した様子である。
「……! わたくしのグループは四ですわね」
「くじを引いたやつは席に戻らず、後ろの方で同じグループで固まってくれ」
綾小路さんは続けて部屋分けのくじも引くと、取り巻きに自分の番号を見せながら先生の指示に従って教室の後ろに移動した。
英蘭学園の教室はとても広いから、全員が後ろに集まってもまだゆとりがある。くじが引かれるたびに空いていく座席にドキドキしながら、私はじっと自分の番が来るのを待った。
「次、七瀬だな」
「はいっ!」
私の出席番号はちょうど真ん中くらいだから、すでに半分くらいの生徒が決まっているということになる。
残念ながら綾小路さんのところはまだ空いており、私がそこに入ってしまう可能性はまだ残っているのだ。
(お願い、四番以外ならどこでもいいから……!)
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