好きで好きで苦しいので、出ていこうと思います

ooo

文字の大きさ
1 / 6

1話

しおりを挟む
 君に愛されたくて苦しかった。目が合うとそっぽを向かれて辛かった。
 俺を愛していないなら、愛することが出来ないなら、なぜ俺と生涯を共にすることを誓った?

 きっとどうしようもなかった。

 彼の愛する人を守るためには、俺と結婚するしかなかったんだ。

 その代償が今ここに。
 俺は彼に愛されることは一生ないのに、俺は彼に愛されたくて仕方ないのだ。
 きっとこれは神様が俺に与えた試練。

 試練の中、俺は頑張った。

 少しでも彼に見てもらいたくて、苦手な料理を頑張った。掃除もした。最初は目も当てられないほどの出来だったと思う。それでも彼に褒められたくて、「美味しい」の一言が欲しくて。

 でも彼は1度も言ってはくれなかった。

 どうしても言って欲しくて、「美味しい?」と彼に聞いたことがあった。俺はその瞬間の彼の顔を忘れない。

 今まで見たこともないような顔。冷たい目をして俺を見ていたのだ。眉間にシワがよっていて、彼が不機嫌なのは嫌でも分かった。それ以来、ご飯を一緒に食べても会話をしなくなった。
 そしてその出来事は、忘れたくても忘れられない思い出になった。

 彼と俺に会話らしい会話なんてものは存在しない。「おはよう」も「おやすみ」も「おかえり」も。俺が一方的に彼に言っているだけ。彼から返事が帰ってきたことは1度もない。
 そう、俺は愛する人から「おはよう」すら言って貰えないのだ。




 ねぇ神様。俺さぁ、今まで頑張ったよね?「彼に愛されたい」その一心でよく頑張ったよ。でもさ、でも、もう終わりでいいと思うんだ。

 3日前に街で見かけた彼。俺はスーパーの帰り道だった。彼に作る料理のために買い出しに行っていた。

 彼の隣には、彼の最愛の人と思われる華奢で可愛い女性。ゆるく巻かれたロングヘアがよく似合っていたのを覚えている。
 彼と彼女は笑っていた。腕を組みながら、楽しそうに。

 その時わかってしまった。

 ー俺じゃ彼の笑顔は見れないんだ。

 笑顔だけじゃない。彼から楽しそうな声も、嬉しそうな声も、愛おしそうに名前を呼ぶ声すらも聞くことは出来ないんだ。

 だから俺は限界なのだ。

 この3日間いつも以上に頑張った。料理も彼の好きな物しか出さなかった。掃除をしていく中で、少しずつ自分の私物を減らしていった。彼はきっと気づいてはいないけど。

 俺は、彼のことが好きで好きで、好きで仕方ないのだ。好きすぎて辛いのだ。だからこそ彼から離れなきゃいけない。
 彼のことをこれ以上好きになる前に、彼から離れられなくなる前に彼の元から去ることにした。

 彼が俺と結婚したのは、彼の家の会社が俺の父親の子会社だったからだ。会社のパーティーに来ていた彼に、俺が一目惚れしたのを父親にバレたのだ。そっからトントン拍子に結婚の話は進んで行った。

 〝息子と結婚したら援助をしよう〟

その一言で。

その一言で結婚が決まってしまった。彼に申し訳がなかった。彼には好きな人がいて、その人と付き合っているのに。俺が彼をお金で奪ってしまったんだ。

だから3日前から、離婚してここを出ていこうと思っていた。

心配しなくても、俺と彼が離婚しても彼の家には援助する。今までと一緒。

ただ俺がいないだけ。

きっと彼は喜ぶだろう。家を今まで通り援助して貰える上に、最愛のあの女性と結婚できるのだから。


今までありがとう。彼のそばにいれたことが俺にとっての幸せだ。心からそう思う。


出ていく準備をした俺と彼の家に、俺の私物はもうない。

俺はそっと指に手を当てた。冷たく硬いものを指から外す。彼がつけているとこを見たことはない、お揃いの結婚指輪を離婚届と共にテーブルに置いた。
〝離婚届〟の文字の横に指輪が、置いてあるのがなんとも心苦しい。



「俺も彼女みたいに、彼に愛されたかったなぁ。」



ガランとした部屋を見渡しながら出た言葉は、紛れもなく俺の願いだった。

ただ1つの。ただひとつの俺の願い。
彼には届かない。届いても叶うことはないこの願いは、ガランとした部屋に響いた。

ーさよなら、俺の愛する人。

今までありがとう。そして今までごめんなさい。

彼と一緒に入れた半年間。夜を共にすることは1度もなかったけど、彼と食べるご飯は会話がなくても美味しかった。

「おはよう」も「おやすみ」も「おかえり」も。俺が一方的に彼に言っているだけ。彼から返事が帰ってきたことは1度もない。
でも、それでも、彼に話しかけれるその時間が、俺にとっての唯一の幸せな時間だったんだ。


スゥっと息を吸う。彼との時間。そして息を吐く。彼との思い出。

俺はここに置いていく。

自分の荷物をまとめたバッグとキャリーケースはパンパンだ。きっと疲れるだろうな。
俺は履きなれた靴を履いて外に出た。
鍵を持つ手は震えていて頼りない。

「…」

言葉は出ない。ただ震えるだけのこの時間が永遠に感じる。一息ついて、手を回す。ガチャンと音になった扉は、もう一度回さないと開くことは無い。
そして俺も、閉じた扉の向こうを見ることはもうないだろう。





しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

処理中です...