未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由

文字の大きさ
13 / 17

エピソード11:明かされた真実、そして約束 Ver.10

しおりを挟む
黒塗りの高級車の後部座席に乗り込んだ藍と優花は、緊張しながらも互いに顔を見合わせた。
車内は広々としていて、高級感のある革張りのシートが沈み込む。
エンジン音はほとんど聞こえず、滑るように車は走り出した。
黒服の男性が、運転席に座って静かにハンドルを握っている。
窓の外の景色が、みるみるうちに遠ざかっていく。

「ねぇ、藍……本当に大丈夫なの、これ?」
優花が不安そうに尋ねる。
「う、うん……でも、優花が一緒なら大丈夫な気がする」
藍は優花の腕をぎゅっと握りしめた。

車は幹線道路を抜け、やがて小田原の市街地を離れ、東へと向かう。
日が傾き始め、西の空がオレンジ色に染まっていくのが見えた。
普段、自転車で通るような道とは全く違う、普段は通らないような静かな道を、車はさらに東へと進んでいく。

しばらくすると、車は開けた場所にある、周囲を低いフェンスで囲まれた一角に滑り込んだ。
そこには、真新しいアスファルトが敷かれた広大なスペースがあり、小型のヘリコプターが待機していた。
ローターがゆっくりと回り始めている。

「ヘリコプター!?やばっ……!」
藍は思わず声を上げた。
「本当に飛ぶの、これ!?」
優花も驚きを隠せない。

車が止まると、黒服の男性が運転席から降り、後部座席のドアをていねいな動作で開けてくれた。
二人が車を降りると、男性はすぐさまヘリコプターのドアへと二人を促す。

「白石様、藤崎様。こちらへどうぞ」

男性に促され、二人はヘリコプターに乗り込んだ。
男性も二人に続いて搭乗する。
轟音が響き渡り、体が浮き上がるような感覚とともに、ヘリはあっという間に空へと舞い上がった。
窓の下には、夕焼けに染まる湘南の海岸線が広がり、やがて遠ざかっていく。

「東京に向かってるみたいね……」
優花が呟く。
「都内まで……一体どこに連れて行かれるんだろう……」
藍は不安と期待が入り混じった目で、眼下に広がる街並みを見下ろした。

ヘリが都心に近づくにつれ、街の灯りが瞬き始め、やがて夜の帳が降りた。
眼下には煌めく夜景が広がり、まるで宝石箱をひっくり返したようだ。
やがて、ひときわ高いビルの屋上にあるヘリポートに着陸態勢に入った。
ヘリを降りると、黒服の男性が先導するようにビルの中へと促す。

「会長がお待ちです」

男性に促され、二人はビルの中へと進んだ。
案内されたのは、最上階に近いフロアにある豪華な部屋だった。
壁一面の窓からは、東京の夜景がパノラマのように広がっている。
その部屋のソファの前に、一人の青年がこちらに背を向けて立っていた。
窓の外の夜景を見つめるその後ろ姿は、見覚えのあるものだった。

「蓮くん……!?」

藍が思わず声を漏らした。
隣の優花も、その姿に目を見張る。
青年がゆっくりと振り返った。
そこにいたのは、行方をくらましたはずの九条院蓮だった。

藍は驚きと安堵が入り混じった顔で、蓮に駆け寄ろうとする。
しかし、優花が強く藍の腕を掴んだ。

「待って、藍……」

優花は蓮を睨みつけ、警戒を露わにする。
蓮は、そんな二人の様子に、悲しそうな目を浮かべた。

「藍さん、優花さん……本当に、ごめんなさい」
蓮は深く頭を下げた。
「すべてを話します。こんな風にするしかなかったんです」
藍は呆然と立ち尽くし、優花は鋭い視線を蓮から離さない。
「僕が学園に転校してきたのは、祖父の指示で、ある目的を果たすためでした。……実は、僕の祖父は、この学園の創設者一族の末裔であり、現理事長の兄にあたる人物なんです」
「えっ!?」
優花が目を見開く。
「蓮くんが……創設者一族の……?」
藍も信じられないといった表情だ。
「僕の祖父は、創業者一族として不正の家系に生まれたことを苦悩し、弟である現理事長と対立しました。その結果、学園経営から追放され、一族からも縁を切られました。その後、祖父は投資の世界で成功を収め、今は世界的に有名な投資ファンドグループの会長を務めています」

蓮は淡々と語り続ける。藍も優花も、その言葉にただ耳を傾けていた。

「祖父は、長らく創業者一族の不正を暴き、学園を正しい道に進ませることを目標としてきました。それが、創業者一族として生まれた自分にできる唯一の贖罪(しょくざい)だと考えていたからです。そのために、僕が学園に潜入するずっと前から、秘書室の中に特別調査チームを作り、学園の不正を暴く努力を続けてきました」

そう言って、蓮は藍たちの後ろに控える黒服の男性に視線を向けた。
男性は一歩前に出ると、静かに頭を下げた。

「私が、その秘書室特別調査チームの責任者、秘書室長でございます。
蓮様のご学園での調査を、陰ながらサポートさせていただいておりました」
優花は秘書室長をじっと見つめた。
「じゃあ……九条院くんが財閥の子だって話も……?」
「はい、あれは祖父の仕込みです。僕の素性がバレないように、架空の財閥家の息子として多額の寄付を行い、学園に転校しました」
「……じゃあ、じゃあ、あのムーとか、オーパーツの話は!?最初は何も知らなかったじゃない!どうして急に詳しくなったのよ!」
優花が鋭い口調で蓮を問い詰める。蓮は少し困ったような顔をした。
「それは、その……」
蓮が言葉に詰まると、秘書室長が、代わりに口を開いた。
「それは蓮様が、ムーのバックナンバー3年分を数日の間に読破し、完璧な知識を身につけられたからです。蓮様は英才教育を受けたエリート中のエリートですから、容易なことです。バックナンバー3年分全て入手するようご指示をいただき、苦労いたしました」
秘書室長は自慢げに話す。
優花は目を見開き、そして呆れたような顔で蓮を見た。
「マジっ?じゃあ、あの最初はしどろもどろだったのは!?エリート中のエリートなら、そんなことにはならないでしょう!何なのよ!」
蓮は照れくさそうに笑い、優花に顔を向けた。
「それは……根は真面目だから、そういう演技が苦手で。ごめん」
優花は納得したように、しかし呆れたように顔を歪めた。

「じゃあ、理事長室に入っていったのはどういうこと?」
優花は次の疑問をぶつける。
「あれは、多額の寄付をしてくれた財閥家の息子と信じ込んでいた理事長が、僕にお礼を言いたくて呼んでいただけです」
蓮は淡々と答える。
「じゃあ……私だけ退学になったのも……?」
藍が不安げに尋ねた。
「その通りです。理事長は、僕を金になる大切な顧客だと考えていたため、僕を退学処分にすることはしなかった。だから、藍さんだけが退学処分になったんです」
蓮は、藍から目を逸らさずに言った。
優花はすべてを悟ったように、静かに蓮を見つめた。
「じゃあ……蓮くんが、学校帰りに乗ってた黒い車が私たちが乗ってきた車なのね……?」
藍がぽつりと呟く。
「はい。僕が都内から通学していたので、祖父が用意してくれた送迎です。車内で秘書室長から情報を受け取ったり、僕が得た情報を渡したりしていました。今日、ふたりが乗ってきた車とヘリで、毎日学校に通って帰ってたんです。結構、大変でした!」
蓮は苦笑いを浮かべた。
「本当は一緒に帰りたかったんだよ」
優花は次の瞬間、鋭い眼差しで蓮に詰め寄った。
「じゃあ!藍に送られてきたあの脅迫文は!?」
優花の声に怒りがこもる。
「はい、僕が書きました」
蓮は迷うことなく答えた。
「証拠の鍵が見つかって、この件に深く関わりすぎることを危惧したんです。これ以上、藍さんを危険な目に遭わせたくなかった。……効果なかったけどね」
蓮は少し自嘲気味に付け加えた。
藍の目に涙が浮かぶ。
「だったら、どうして私から証拠の帳簿を奪ったの!?」
藍の声が震えていた。
「あの証拠を藍さんが警察に直接渡しても、現理事長一派にすぐに揉み消されてしまう可能性がありました。確実に逮捕に追い込み、世間に不正を公表するためには、秘書室長に渡す必要があったんです。彼らは、不正の揉み消しを防ぎ、確実に全国報道に持ち込むノウハウを持っていますから」
蓮はまっすぐ藍を見つめながら言った。
「そして、その証拠のおかげで、理事長と校長は逮捕されたんです」
藍は、蓮の言葉を追うごとに、疑念と悲しみが薄れていくのを感じていた。
「じゃあ……本当に蓮くんが……?」
蓮はゆっくりと藍に歩み寄り、優しく藍の頬に触れた。
「はい。信じてほしい、と言った通り、僕を信じてほしかった。藍さんを裏切ったわけではない」
藍の目から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
蓮への疑念と裏切られたという悲しみが、一瞬にして安堵と感動に変わっていく。
「蓮くん……ごめんなさい……私、信じられなくて……」
蓮は藍を強く抱きしめた。
「謝らないで。僕も、藍さんを一人にしたことを後悔している。本当にごめん……」
優花は二人の様子を、複雑な表情で見つめている。

「でも……学園は倒産するんでしょ……?私、もう、学校に戻れないの……?」
藍は蓮の胸の中で、不安げに顔を上げた。

「大丈夫です」
蓮は藍の髪を優しく撫でた。
「祖父が会長を務める投資ファンドグループが、既に学園の買収に動いています。学園は、新たな理念のもとで再生されます。もちろん、藍さんも藤崎さんも戻れます。藍さんは学園の不正を暴いた功労者ですから。特別優待生徒として、迎えることになっています」

藍は、安堵と喜びで、その場にへなへなと崩れ落ち、しゃがみこんでしまった。
蓮は優しく藍を抱き起こすと、彼女の涙をそっと拭った。

「そして……学園生活で藍を好きになってしまったことは、本当です。僕の君への想いは、本当に本物です。これからも、ずっと」

藍は顔を赤く染め、涙を流しながら蓮の瞳を見つめた。
蓮はそっと藍の手を取り、その指を絡ませる。

「さあ、祖父が待っている。展望レストランに案内するよ」

蓮の言葉に、藍はゆっくりと頷いた。
優花も、少しばかり呆れたような、しかし納得したような表情で二人の後を追った。
三人は、東京の煌めく夜景が広がる豪華な部屋を後にし、新たな未来へと続く扉を開いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※noichigoさんに転載。 ※ブザービートからはじまる恋

処理中です...