花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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純白の花嫁詐欺

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ラン・ヤスミカ家は大昔の戦でボロ負けして広大な領地を奪われ、没落した貧乏貴族である。

ユーリはそのラン・ヤスミカ家の次男で年頃の18歳。

そろそろ、お嫁さんが必要な適齢期だが、実家は貧乏没落貴族でオマケに次男。

25歳の長男エセルが後継ぎであり、既に既婚者で子持ちであり、何より両親がバリバリ元気で健在である。

家督は次男にはないのでユーリは普通なら生涯屋敷の部屋住みニート。

18歳の男子にしては詰んだ環境に思えるが、ユーリに不満はなかった。

家族は仲良く、領民とも力を合わせて畑を耕し、食べるには困らない。

兄のエセルと兄嫁のフィンナも優しくてユーリを邪魔者にはしない。

むしろ、兄夫婦的に甥っ子&姪っ子の子守りをしてくれて助かるくらいのノリである。

こういう野心のない平和主義な血脈のせいで、ラン・ヤスミカ家は小さな領地の貧乏没落貴族なのだが、宮廷で権謀術数とか、軍隊で成果出すとか、めんどいから田舎領主でいいやと考えてる一族であった。

だから、ユーリも結婚なんて全然考えてなかった。

一生を実家の領地で地味に働きながら、家族で暮らそうと呑気に日々を過ごしていた。

しかし、そんなユーリに大きな縁談が舞い込んだのである。

「シルバー家の娘との縁談?兄上、シルバニアファミリーと縁談の方が現実味あるけど?」

シルバー家とは王室との血縁もある超名門貴族である。

そこの姫様がユーリに嫁いでくるなんてシルバニアファミリーが領地を奪いにきたよりありえない話だ。

ユーリは笑おうとしたが兄のエセルも両親も顔がマジである。

「うちとシルバー家は数百年前に姻戚関係だった。昔すぎて皆忘れてるけど」

父ラクロワの言葉にユーリはそう言えば、そんな話も聞いたなと思い出した。

だが、現在のラン・ヤスミカ家は没落貴族でシルバー家との関係も絶えて久しい。

今さら没落した領地の次男に嫁を提供する義理はないし、貰う義理もない。

この一族は基本的に呑気だが、面倒な事態を察知する能力だけは高いのだ。

ユーリとしては持参金を持った高慢で性格悪い醜女が嫁に来たらイヤだ。

名門貴族がわざわざ疎遠な元姻戚に嫁を提供するのだ。

超絶面倒な女を押しつけられる可能性大である。

「間に合ってますって父上か兄上が書簡出してくれよ」

「ムリ!もう、OKしたゃった!だって名門に逆らうの怖いじゃん!」

確かに王室とゆかりあるシルバー家との縁談を放棄したらヤバい。

攻め込まれたり、重税対象にされたり、徴兵されたり、嫌がらせを受ける危険がある。

ユーリがブスと結婚すれば領地は安泰だ。

せめて性格が優しいブスがいいなとユーリ、早くも嫁に期待を抱いてない。

嫁にくるのはリン・ケリー・シルバー15歳、シルバー家当主と女中との間に生まれた庶子の娘。

「やはり、嫡出でなく庶子をあてがってきた」

大方、母親の身分が低くて実家にもて余され、追い出す形で田舎のラン・ヤスミカ家に嫁がされる。

身分で人生が決まる世界。

ユーリと兄エセルは同母兄弟で父親に愛人はいない。

愛妻家なのもあるが愛人もつ経済力がないのだ。

「大貴族は女漁りが仕事かよ!そこに種まくなら畑に種まけ!!」

「ユーリ!お下品なことを言うと虐待するわよ!」

ラン・ヤスミカ家当主夫人であるユーリの母は厳しい。

優しいのだが息子が悪戯すると鞭を持って追いかける。

とにかく、ユーリの結婚は決定事項なので覆らない。

花嫁は既に出立してるとのことなのでユーリたちに拒否権なし!

婚礼の宴とか段取りあるのに雑すぎる。

「なんか、面倒を押しつけられる予感しかない」

ユーリは突貫工事的に花婿衣装などの準備をしながら、ため息を吐いていた。

そして、縁談話から1ヶ月後の婚礼予定日。

領主様の次男坊ユーリの嫁が来ると領民はウキウキ、ユーリはドキドキ、両親、兄夫婦と甥っ子&姪っ子はワクワクしながら花嫁さんの到着を待っていた。

だが、名門シルバー家の婚礼行列は待てども、待てども、見えてこない。

姫様が嫁いでくるのだから、例え庶子でも護衛や侍女を侍らせた馬車や先導する騎兵が見えそうなものなのに。

「これって都で流行りのジョークですかね?」

田舎なので都会のことは知らんが、貧乏没落貴族に嫁を嫁がせると嘘つく遊びが流行りなのか。

悪質だが、宮廷の連中なら戯れにやりそうである。

早くも婚礼ジョークだとユーリが結論づけようとしたときである。

白い馬に乗った純白の衣装の人間が領内の屋敷に近づいてきた。

様子を見に行った領民の話では黒髪の美しい少年らしい。

花嫁の到着を知らせる使者かとユーリは屋敷の入り口に立った。

白い馬から降りた少年は華奢で美しい。

変態のオッサン貴族が好みそうなガキだなと思っていたユーリに少年は膝まずき、告げた。

「シルバー家より従者志願として参りました。リン・ケリー・シルバーと申します。何卒宜しくお願い申し上げます」

その場にいる全員が「ハァ?」と唖然とした。

予想に外れて美しい子が嫁に来たが、正確には嫁ではない。

名門には邪魔な庶子のガキを花嫁と偽り、田舎の領主本家に押し付けたのだ。

リンという少年はユーリを見て微笑んでいる。

「ここで働けると父上に言われてきたました!白い馬は貢物です!」

「待って!リン殿!俺はシルバー家から嫁が来ると聞かされて!!」

「えっ?私は奉公しろと言われて来ましたが?」

騙された。

娘を嫁がせるジョークでなく、花嫁偽装詐欺!

ユーリはリンにどう伝えたものか考えたが、めんどいので考えるのをやめた。

「よく来たなリン!俺はユーリだ。待ちくたびれたから宴にするか!」

ユーリの家族も考えるのが面倒で思考を止めた。

白い馬に乗った純白の少年花嫁リンは実家に派手に騙されて田舎領主の次男ユーリ・ラン・ヤスミカのもとに嫁いできたのである。

ちなみにリンは奉公に来たのになんで皆様、宴会してるのかなと謎であった。

厄介払いされた少年リンが可愛そうで人のいいユーリやヤスミカ家の面々は真実を言えない。

とにかくユーリは花嫁偽装詐欺に遭ったのである。

end


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