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シルバー家と温泉
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ラン・ヤスミカ家に嫁いできた少年リンは早速行動を起こした。
「ユーリ!新婚旅行に行きたいです!」
ユーリの家が所有する領地からほど近い国境の温泉街に遊びに行きたいとリンは主張した。
新婚旅行は名目でリンとしては国境の監視である。
国境の温泉街なら様々な情報が溢れており、他国の戦争の状況を容易く知ることが可能だ。
そこで現在リンが形式上は嫁いだ、ラン・ヤスミカ家の立ち位置がわかるし、きな臭い他国のスパイなども運がよければ炙り出せる。
「スパイを見つけたら生け捕りにして情報を吐かせたのち二重スパイにさせる」
狡猾な名門貴族シルバー家の子供だったリンは庶子でもその辺は得意分野だった。
父であるシルバー家当主からも正妻から産まれた異母兄たちより、リンは頭の回転が早くて、策略家だと褒められた。
「身分ある正妻から産まれた異母兄姉と私は異なる」
女中が実母のリンだが、物心ついたときには母は死んでいた。
正妻の話では体が弱かったので出産に耐えられず亡くなったそうだ。
リンの母はシルバー家当主の正妻付きの女中でリンを妊娠したときは、まだ14歳。
正妻も11歳でシルバー家に嫁いできたがシルバー家当主が正妻に愛情を注いだ期間は数年間である。
これは、宮廷でもシルバー家でも禁句となってるがリンの父親はいわゆるロリコン野郎だった。
守備範囲は9歳から15歳までで成熟した女性は範疇外という完全なるロリコン大貴族。
正妻には仕方なく二男二女を産ませ、あとは行儀見習いで奉公に来たリンの実母当時13歳に手を出した。
行儀見習い先の屋敷の当主に手を出されるなんて本末転倒も甚だしいが大貴族ならロリコンでもOKなのだ。
狡猾ロリコン当主の犠牲になったリンの実母に正妻や異母兄姉は同情したので庶子のリンはシルバー家にいても疎まれず、正妻にも大切にされていた。
しかし、リンの賢さを利用することしか考えてないロリコン当主である父によってシルバー本家からスパイのような役割でラン・ヤスミカ家に送り込まれ現在にいたる。
正妻や異母兄姉は田舎没落貴族の次男の従者にリンがなるのを不審に感じたが、ロリコン当主の命令が絶対なので反対もできない。
ラン・ヤスミカの領地に出立するとき、見送ってくれたのは正妻と異母兄姉だけだった。
名門貴族の姫様として育った正妻はロリコン夫に愛想を尽かしており、子供たちを可愛がることだけが心の支えのような女性だ。
その正妻が出立間際、リンに言ったのだ。
「リン・ケリー。ラン・ヤスミカ家で意地悪されたら手紙をちょうだいね。母として軍隊送るくらいの権力はあるから」
「お気遣いくださり恐縮です。お義母様」
異母兄姉たちもリンとの別れを惜しんでくれた。
嫡男のミシェル・アンリ・シルバーは父親がリンの意思関係なく没落した田舎領主の次男に嫁がす算段と知っている。
異母弟がどんな扱いを受けるか心配だが、リンが冷遇されたら暗殺部隊でも派遣しようと考えていた。
狡猾ロリコン当主の嫡男なのでミシェル・アンリ・シルバーもそれなりに策略家だが、彼は兄弟でもリンを溺愛していた。
もっと、シンプルに言ってしまうと異母弟のリンを熱愛してて、近親相姦したいとか妄想するヤバい嫡男だ。
嫡男にそれをされると流石にシルバー家として不味いと危惧した当主が自分のロリコンを棚にあげて、リンをシルバー家から遠ざけ、嫡男ミシェルは無理に結婚させられた。
嫡男ミシェルは高貴な姫様を嫁に貰ったが微妙に嬉しくない。
「リン。ラン・ヤスミカの次男は美しい少年を凌辱する変態田舎貴族だ。我慢できなくなったら殺してもいい。シルバー家嫡男が許可する」
「ミシェル兄上……庶子の私のことをいつも優しくしてくれて感謝申し上げます。でも、屋敷の別邸を娼年(少年)自然の家にする計画はやめてください」
「断る。妻と離縁になっても娼年自然の家は造る。父上から男児と女児を嫁に産ませたら好きにしろと言われている」
当主ロリコンで嫡男美少年好き。
名門貴族ならではの歪んだ性癖満載のシルバー家の家族と別れ、リンはユーリが待つラン・ヤスミカの領地に旅立ったのである。
「ミシェル兄上にユーリに恋しましたなんて手紙を書いたら嫉妬から暗殺部隊を送ってくる。兄上、焼きもちやきだから」
とにかく、リンは夫となったユーリに恋をしたので可愛い少年花嫁として振る舞っている。
都会から田舎に嫁いだ嫁が好奇心から温泉街に行きたいとねだるような演技でリンはユーリにお願いした。
「温泉行ったことないから!」
「いいけどよ……あそこの温泉、効能が微妙なんだよ」
ユーリの言葉にラン・ヤスミカ家の面々も頷いた。
ラン・ヤスミカ家の次期当主であるユーリの実兄エセルと兄嫁のフィンナも国境近い温泉街に新婚旅行したが微妙だったらしい。
「効能が心臓発作や多臓器不全なんだよね。すごい効能だけど心臓と多臓器をやられた人は温泉浸かる前に普通死ぬと思う」
「そうよね。女湯の効能は母乳が美味しくなるだし。嘘臭いうえに神経にさわる効能なのよ」
エセル&フィンナ夫婦には息子ジャンと娘クレールがいる。
しかし、母親の母乳の味など記憶にない。
要するに温泉街は国境うんぬん関係無く非常に胡散臭い。
「リンが興味あるなら行ってみるか?」
馬で移動すれば速いと言われ、リンはユーリと限りなく胡散臭い効能の温泉に向かった。
送り出したラン・ヤスミカ家のみんなはユーリが嫁のリンと仲良くなり嬉しい。
ユーリの父ラクロワはウキウキと言った。
「騙されたけど可愛い男の子が嫁でよかった!ユーリとも仲良しだし!」
ラクロワの喜びようにユーリの母のリーサが微笑む。
「どうなるかと思いましたが、リンさんが馴染んでくれてよかったわ。ねえ?エセル、フィンナ?」
質問されたエセルとフィンナは顔を見合せ笑った。
「ユーリは優しいからリン殿だって気に入るさ」
「そうだわ!エセル!リン様に教えるの忘れてたけど温泉にもっとすごい効能があったの!」
フィンナの発言に聞いていた子供たち……ジャンとクレールが目配せしてコソコソ囁きあった。
「クレール。前に温泉行ったときのこと憶えてる?」
「当然よジャン。すごい効能ってあれでしょ?」
ジャン&クレールは双子兄妹である。
この双子の言った「あれ」とは簡潔に述べると「ロリコンとお稚児趣味が治る」である。
シルバー家の当主と嫡男を温泉に放り込むべきだが、ユーリと馬で移動中のリンには知るよしもない。
馬で移動してるときリンはシルバー家のことを喋った。
「父上は大変な子供好きで身寄りない幼女を保護する活動をしています」
「へー!大貴族で贅沢三昧かと思ったら慈善家だな!」
田舎で純朴に育ったユーリには幼女を保護したあとなんて知らない。
「長兄も大変な子供好きで、やはり身寄りない少年の保護活動に熱心です」
「マジか!思ったよりマトモだな!」
全然マトモでないがシルバー家の実態などユーリが知る必要もないと思い、リンは曖昧に笑った。
そろそろシルバー家本邸から近い別邸に娼年自然の家が完成する頃だとリンは内心で考えていた。
「異母兄と近親相姦は流石にイヤだ。ユーリに嫁げてよかった」
ユーリは朗らかで呑気だが、バカではない。
義理の母である正妻や兄嫁のように夫のロリコンと少年好きで泣くこともない人生を送れるのがリンには嬉しかった。
「ユーリ!温泉街まで競争です!」
馬を軽やかに操るリンをユーリも負けずに追いかけた。
「おっし!負けた方が勝った方の背中流しだ!」
仲睦まじく馬で駆けるユーリとリンのラン・ヤスミカの若夫婦を見つめる影が存在した。
「リン・ケリー様は夫君であるユーリ・ラン・ヤスミカ様と非常に仲睦まじく温泉街に……。ったくミシェルのクソのせいで、こんな田舎で諜報活動かよ!」
リンを監視しているのはモモという名のシルバー家側のスパイ……ぶっちゃけ、嫡男ミシェルの愛人にあたる少年である。
モモの容姿は黒髪で華奢なのでリンに似ている。
貧民窟の孤児だったが、リンに似ていたせいでミシェルに拾われ、愛人にされ、色々あり、スパイにされている。
ミシェルがリンロスで別邸に娼年自然の家を建設したのでムカついて家出をしようとしたらシルバー家ロリコン当主からリンの監視を命じられた。
「リンの動向を監視しろ。不審な行動をしていたら知らせるように」
そんな命令だったが、モモの目から見ても、リン・ケリー・ラン・ヤスミカはシルバー家側の思惑を察知して国境近い温泉街に視察に向かっている。
「ロリコン当主や美少年大好き嫡男より庶子の方が仕事してる」
ミシェルは恐らく別邸で美少年ハーレムを満喫してそうなので、モモへの寵愛など薄れているだろう。
生活のためには田舎で諜報活動するしかなかった。
「誰も迎えに来てくれない。リン様には夫ができた。でも、俺はミシェルの玩具にすぎない」
利用されるだけの人生なんだとモモが息を吐いたとき、不意に抱きしめられた。
「ラン・ヤスミカの領地……都から遠すぎだ」
目の前にいるのがミシェル・アンリ・シルバーとわかり、モモは仰天した。
「ミシェル!?なんで、ここに?リン様に会うのか?」
温泉街に馬で向かったばかりだと報告したらミシェルは笑顔で首をふった。
「実は嫁がキレて別邸に囲ってた美少年たちを傭兵に命じて惨殺した。それで離縁して私も廃嫡になり都を追われた。モモが家出してたのが幸いだったな」
「なんだそれ!シルバー家から出てどこ行く気だよ?」
「とりあえず。リンの嫁ぎ先に厄介になる。領主に滞在の許可をもらわねば」
モモの任務はリンの監視なので都合はいいのだが、廃嫡された嫁の異母兄なんてラン・ヤスミカ家は受け入れるのか?
モモがそう考えていたら、馬で去ったはずのリンとユーリが戻ってきた。
温泉に急いだはずなのに何故とモモが驚いているとリンが馬で駆け寄ってくる。
「このところ。私によく似た少年が領内をウロウロしていると噂があった。大方、モモだと察しはついてた」
やっぱりバレてたかとモモが苦笑いするとユーリが快活に言った。
「温泉街よりシルバー家側の監視者に会うのが先だってリンが言ったんだ!」
ユーリはそれだけ言うとミシェルに挨拶した。
「義兄上。お初にお目にかかります。ラン・ヤスミカ家の次男。ユーリです。リンからお話はかねがね」
都で慈善活動をされているそうでと朗らかに口にするユーリの善良さにモモは笑うのを寸前で堪えた。
すると、リンはすべてを察したように夫であるユーリに言ったのだ。
「ミシェル兄上は政敵に嵌められ、宮廷からもシルバー家からも追われる身です。ユーリ。勝手な願いですが、兄上をしばらく屋敷に匿うことはできませんか?」
面倒な事態を察する能力だけは高いユーリだが、可愛い嫁であるリンのお願いなら利いてやりたい。
「何やらかしたか知らないが、子供の保護活動してる慈善家を追い出すなんて宮廷は腐敗してんだな!」
いや!そのガキの保護活動が腐りきってたから自滅したんだよとリンとモモは同時に心で叫んだ。
ユーリはやはり、善良で物事をあまり深く考えないので危なっかしい。
しかし、詮索しない方が身のためということもある。
ユーリがOKしたのでミシェルとモモはラン・ヤスミカの屋敷に居候するため領内を歩いた。
「義兄上!保護した子供たちは大丈夫ですか?」
「それが……政敵が刺客を放ち子供たちを!別邸は血の海に。妻も惨殺され!」
政敵でなくミシェルの正妻がぶちギレて傭兵放ったが正解だが、リンとモモは黙っていた。
妻は惨殺されておらず、修道院にぶちこまれている。
嫡男ミシェルが跡継ぎの座を追われたのでシルバー家の家督は次男にうつる。
次男はロリコンでも美少年大好きでもない、切れ者でもないが普通の貴公子なのでシルバー家は安泰だろう。
「お義母様は大層ご心痛だろうな」
シルバー家の犠牲者代表である正妻のことをリンが案じているとミシェルがケロリと宣った。
「母上は……妹たちと私の娼年自然の家の跡地に慈善病院を建てた。困窮する国民の支援をしている」
シルバー家の面子はこうして成り立っている。
最後にユーリはリンと似ているモモを見てミシェルに訊ねた。
「その諜報をしてる子はシルバー家の側近とかですか?」
側近なんて大層なもんでなく単なる貴族様の玩具だとモモは自嘲したがミシェルがキッパリ言った。
「モモは私の妻だ。唯一残された大切な」
これも嘘だろうとモモは考えたが、リンが笑顔で言った。
「モモは賢いから。ミシェル兄上を支えてくれる」
「リン様まで!俺は孤児です!ミシェルは餓えてた俺を助けてくれただけ……」
モモが赤面するとミシェルが抱きしめて囁いた。
「リンの身代わりで拾ったのは事実だが、愛してる」
きっかけは褒められたもんではないが愛されていることは事実なのだから仕方ない
シルバー家のゴリゴリに歪んだ性癖を受け継いでいるミシェルだが、モモはそんな彼を愛した。
「俺もミシェルが好きだ。貧民窟で拾われたときから」
モモの言葉にユーリは明るく笑った。
「屋敷についたら父上たちがビックリするな!今年は豊作だから御馳走がでるぞ!」
先に屋敷に報せに走ったユーリを見ながらミシェルはリンに告げた。
「リン。やはり国外の戦争の火の粉が迫っている。ラン・ヤスミカ家の領地は最初に攻め込まれるのは地形的に明白だ」
「ミシェル兄上。温泉街にスパイが潜んでるのはわかってます。モモ!相手が油断してる間にスパイを捕獲して国外の情報をききだせ。殺すな。生け捕りにしろ」
リンの命礼にモモは静かに頷いた。
長閑な田舎に危険な足音が迫る。
ラン・ヤスミカ家がそれを察しないのも奇妙だとリンは考えていた。
「国外と密約を交わしてる可能性もある」
そんな狡猾な手段をあの家の人間がするとは思えないが、国境近くの領地でこれだけ穏やかなのも異様である。
なにか秘密があるはずと考えていたら、モモが領内を調査してわかったことを報告した。
「この領地。調べた限り軍事力は小さな領地にしては異常だ。穀物蔵の地下で大量の火薬を見つけた」
火薬ということは爆弾を製造している。
そんなことが可能なのかとリンがミシェルと目配せしているとユーリが戻ってきた。
「リン!明日から穀物蔵の地下で花火作りだ!収穫祭のとき花火大会があるから!」
ロケット弾を毎年国境めがけて打ち上げるとユーリは楽しそうだ。
ラン・ヤスミカの領地が長閑で平和な理由が判明した。
花火大会に乗じて爆弾飛ばすので他国も「あの領地はヤバい」と警戒して攻めてこない。
領地で毎年爆弾投下してましたはシルバー家に報告はしないとリンは決めた。
ちなみに爆弾作りが上手なのはユーリの兄嫁フィンナである。
リンは嫁としてラン・ヤスミカ家伝来の爆弾作りを覚える必要がでてきた。
異母弟がド級にヤバい家に嫁いだとミシェルは思ったが、ここより安全そうな土地もないので、可愛いモモとラン・ヤスミカの領地で暮らすことになる。
end
「ユーリ!新婚旅行に行きたいです!」
ユーリの家が所有する領地からほど近い国境の温泉街に遊びに行きたいとリンは主張した。
新婚旅行は名目でリンとしては国境の監視である。
国境の温泉街なら様々な情報が溢れており、他国の戦争の状況を容易く知ることが可能だ。
そこで現在リンが形式上は嫁いだ、ラン・ヤスミカ家の立ち位置がわかるし、きな臭い他国のスパイなども運がよければ炙り出せる。
「スパイを見つけたら生け捕りにして情報を吐かせたのち二重スパイにさせる」
狡猾な名門貴族シルバー家の子供だったリンは庶子でもその辺は得意分野だった。
父であるシルバー家当主からも正妻から産まれた異母兄たちより、リンは頭の回転が早くて、策略家だと褒められた。
「身分ある正妻から産まれた異母兄姉と私は異なる」
女中が実母のリンだが、物心ついたときには母は死んでいた。
正妻の話では体が弱かったので出産に耐えられず亡くなったそうだ。
リンの母はシルバー家当主の正妻付きの女中でリンを妊娠したときは、まだ14歳。
正妻も11歳でシルバー家に嫁いできたがシルバー家当主が正妻に愛情を注いだ期間は数年間である。
これは、宮廷でもシルバー家でも禁句となってるがリンの父親はいわゆるロリコン野郎だった。
守備範囲は9歳から15歳までで成熟した女性は範疇外という完全なるロリコン大貴族。
正妻には仕方なく二男二女を産ませ、あとは行儀見習いで奉公に来たリンの実母当時13歳に手を出した。
行儀見習い先の屋敷の当主に手を出されるなんて本末転倒も甚だしいが大貴族ならロリコンでもOKなのだ。
狡猾ロリコン当主の犠牲になったリンの実母に正妻や異母兄姉は同情したので庶子のリンはシルバー家にいても疎まれず、正妻にも大切にされていた。
しかし、リンの賢さを利用することしか考えてないロリコン当主である父によってシルバー本家からスパイのような役割でラン・ヤスミカ家に送り込まれ現在にいたる。
正妻や異母兄姉は田舎没落貴族の次男の従者にリンがなるのを不審に感じたが、ロリコン当主の命令が絶対なので反対もできない。
ラン・ヤスミカの領地に出立するとき、見送ってくれたのは正妻と異母兄姉だけだった。
名門貴族の姫様として育った正妻はロリコン夫に愛想を尽かしており、子供たちを可愛がることだけが心の支えのような女性だ。
その正妻が出立間際、リンに言ったのだ。
「リン・ケリー。ラン・ヤスミカ家で意地悪されたら手紙をちょうだいね。母として軍隊送るくらいの権力はあるから」
「お気遣いくださり恐縮です。お義母様」
異母兄姉たちもリンとの別れを惜しんでくれた。
嫡男のミシェル・アンリ・シルバーは父親がリンの意思関係なく没落した田舎領主の次男に嫁がす算段と知っている。
異母弟がどんな扱いを受けるか心配だが、リンが冷遇されたら暗殺部隊でも派遣しようと考えていた。
狡猾ロリコン当主の嫡男なのでミシェル・アンリ・シルバーもそれなりに策略家だが、彼は兄弟でもリンを溺愛していた。
もっと、シンプルに言ってしまうと異母弟のリンを熱愛してて、近親相姦したいとか妄想するヤバい嫡男だ。
嫡男にそれをされると流石にシルバー家として不味いと危惧した当主が自分のロリコンを棚にあげて、リンをシルバー家から遠ざけ、嫡男ミシェルは無理に結婚させられた。
嫡男ミシェルは高貴な姫様を嫁に貰ったが微妙に嬉しくない。
「リン。ラン・ヤスミカの次男は美しい少年を凌辱する変態田舎貴族だ。我慢できなくなったら殺してもいい。シルバー家嫡男が許可する」
「ミシェル兄上……庶子の私のことをいつも優しくしてくれて感謝申し上げます。でも、屋敷の別邸を娼年(少年)自然の家にする計画はやめてください」
「断る。妻と離縁になっても娼年自然の家は造る。父上から男児と女児を嫁に産ませたら好きにしろと言われている」
当主ロリコンで嫡男美少年好き。
名門貴族ならではの歪んだ性癖満載のシルバー家の家族と別れ、リンはユーリが待つラン・ヤスミカの領地に旅立ったのである。
「ミシェル兄上にユーリに恋しましたなんて手紙を書いたら嫉妬から暗殺部隊を送ってくる。兄上、焼きもちやきだから」
とにかく、リンは夫となったユーリに恋をしたので可愛い少年花嫁として振る舞っている。
都会から田舎に嫁いだ嫁が好奇心から温泉街に行きたいとねだるような演技でリンはユーリにお願いした。
「温泉行ったことないから!」
「いいけどよ……あそこの温泉、効能が微妙なんだよ」
ユーリの言葉にラン・ヤスミカ家の面々も頷いた。
ラン・ヤスミカ家の次期当主であるユーリの実兄エセルと兄嫁のフィンナも国境近い温泉街に新婚旅行したが微妙だったらしい。
「効能が心臓発作や多臓器不全なんだよね。すごい効能だけど心臓と多臓器をやられた人は温泉浸かる前に普通死ぬと思う」
「そうよね。女湯の効能は母乳が美味しくなるだし。嘘臭いうえに神経にさわる効能なのよ」
エセル&フィンナ夫婦には息子ジャンと娘クレールがいる。
しかし、母親の母乳の味など記憶にない。
要するに温泉街は国境うんぬん関係無く非常に胡散臭い。
「リンが興味あるなら行ってみるか?」
馬で移動すれば速いと言われ、リンはユーリと限りなく胡散臭い効能の温泉に向かった。
送り出したラン・ヤスミカ家のみんなはユーリが嫁のリンと仲良くなり嬉しい。
ユーリの父ラクロワはウキウキと言った。
「騙されたけど可愛い男の子が嫁でよかった!ユーリとも仲良しだし!」
ラクロワの喜びようにユーリの母のリーサが微笑む。
「どうなるかと思いましたが、リンさんが馴染んでくれてよかったわ。ねえ?エセル、フィンナ?」
質問されたエセルとフィンナは顔を見合せ笑った。
「ユーリは優しいからリン殿だって気に入るさ」
「そうだわ!エセル!リン様に教えるの忘れてたけど温泉にもっとすごい効能があったの!」
フィンナの発言に聞いていた子供たち……ジャンとクレールが目配せしてコソコソ囁きあった。
「クレール。前に温泉行ったときのこと憶えてる?」
「当然よジャン。すごい効能ってあれでしょ?」
ジャン&クレールは双子兄妹である。
この双子の言った「あれ」とは簡潔に述べると「ロリコンとお稚児趣味が治る」である。
シルバー家の当主と嫡男を温泉に放り込むべきだが、ユーリと馬で移動中のリンには知るよしもない。
馬で移動してるときリンはシルバー家のことを喋った。
「父上は大変な子供好きで身寄りない幼女を保護する活動をしています」
「へー!大貴族で贅沢三昧かと思ったら慈善家だな!」
田舎で純朴に育ったユーリには幼女を保護したあとなんて知らない。
「長兄も大変な子供好きで、やはり身寄りない少年の保護活動に熱心です」
「マジか!思ったよりマトモだな!」
全然マトモでないがシルバー家の実態などユーリが知る必要もないと思い、リンは曖昧に笑った。
そろそろシルバー家本邸から近い別邸に娼年自然の家が完成する頃だとリンは内心で考えていた。
「異母兄と近親相姦は流石にイヤだ。ユーリに嫁げてよかった」
ユーリは朗らかで呑気だが、バカではない。
義理の母である正妻や兄嫁のように夫のロリコンと少年好きで泣くこともない人生を送れるのがリンには嬉しかった。
「ユーリ!温泉街まで競争です!」
馬を軽やかに操るリンをユーリも負けずに追いかけた。
「おっし!負けた方が勝った方の背中流しだ!」
仲睦まじく馬で駆けるユーリとリンのラン・ヤスミカの若夫婦を見つめる影が存在した。
「リン・ケリー様は夫君であるユーリ・ラン・ヤスミカ様と非常に仲睦まじく温泉街に……。ったくミシェルのクソのせいで、こんな田舎で諜報活動かよ!」
リンを監視しているのはモモという名のシルバー家側のスパイ……ぶっちゃけ、嫡男ミシェルの愛人にあたる少年である。
モモの容姿は黒髪で華奢なのでリンに似ている。
貧民窟の孤児だったが、リンに似ていたせいでミシェルに拾われ、愛人にされ、色々あり、スパイにされている。
ミシェルがリンロスで別邸に娼年自然の家を建設したのでムカついて家出をしようとしたらシルバー家ロリコン当主からリンの監視を命じられた。
「リンの動向を監視しろ。不審な行動をしていたら知らせるように」
そんな命令だったが、モモの目から見ても、リン・ケリー・ラン・ヤスミカはシルバー家側の思惑を察知して国境近い温泉街に視察に向かっている。
「ロリコン当主や美少年大好き嫡男より庶子の方が仕事してる」
ミシェルは恐らく別邸で美少年ハーレムを満喫してそうなので、モモへの寵愛など薄れているだろう。
生活のためには田舎で諜報活動するしかなかった。
「誰も迎えに来てくれない。リン様には夫ができた。でも、俺はミシェルの玩具にすぎない」
利用されるだけの人生なんだとモモが息を吐いたとき、不意に抱きしめられた。
「ラン・ヤスミカの領地……都から遠すぎだ」
目の前にいるのがミシェル・アンリ・シルバーとわかり、モモは仰天した。
「ミシェル!?なんで、ここに?リン様に会うのか?」
温泉街に馬で向かったばかりだと報告したらミシェルは笑顔で首をふった。
「実は嫁がキレて別邸に囲ってた美少年たちを傭兵に命じて惨殺した。それで離縁して私も廃嫡になり都を追われた。モモが家出してたのが幸いだったな」
「なんだそれ!シルバー家から出てどこ行く気だよ?」
「とりあえず。リンの嫁ぎ先に厄介になる。領主に滞在の許可をもらわねば」
モモの任務はリンの監視なので都合はいいのだが、廃嫡された嫁の異母兄なんてラン・ヤスミカ家は受け入れるのか?
モモがそう考えていたら、馬で去ったはずのリンとユーリが戻ってきた。
温泉に急いだはずなのに何故とモモが驚いているとリンが馬で駆け寄ってくる。
「このところ。私によく似た少年が領内をウロウロしていると噂があった。大方、モモだと察しはついてた」
やっぱりバレてたかとモモが苦笑いするとユーリが快活に言った。
「温泉街よりシルバー家側の監視者に会うのが先だってリンが言ったんだ!」
ユーリはそれだけ言うとミシェルに挨拶した。
「義兄上。お初にお目にかかります。ラン・ヤスミカ家の次男。ユーリです。リンからお話はかねがね」
都で慈善活動をされているそうでと朗らかに口にするユーリの善良さにモモは笑うのを寸前で堪えた。
すると、リンはすべてを察したように夫であるユーリに言ったのだ。
「ミシェル兄上は政敵に嵌められ、宮廷からもシルバー家からも追われる身です。ユーリ。勝手な願いですが、兄上をしばらく屋敷に匿うことはできませんか?」
面倒な事態を察する能力だけは高いユーリだが、可愛い嫁であるリンのお願いなら利いてやりたい。
「何やらかしたか知らないが、子供の保護活動してる慈善家を追い出すなんて宮廷は腐敗してんだな!」
いや!そのガキの保護活動が腐りきってたから自滅したんだよとリンとモモは同時に心で叫んだ。
ユーリはやはり、善良で物事をあまり深く考えないので危なっかしい。
しかし、詮索しない方が身のためということもある。
ユーリがOKしたのでミシェルとモモはラン・ヤスミカの屋敷に居候するため領内を歩いた。
「義兄上!保護した子供たちは大丈夫ですか?」
「それが……政敵が刺客を放ち子供たちを!別邸は血の海に。妻も惨殺され!」
政敵でなくミシェルの正妻がぶちギレて傭兵放ったが正解だが、リンとモモは黙っていた。
妻は惨殺されておらず、修道院にぶちこまれている。
嫡男ミシェルが跡継ぎの座を追われたのでシルバー家の家督は次男にうつる。
次男はロリコンでも美少年大好きでもない、切れ者でもないが普通の貴公子なのでシルバー家は安泰だろう。
「お義母様は大層ご心痛だろうな」
シルバー家の犠牲者代表である正妻のことをリンが案じているとミシェルがケロリと宣った。
「母上は……妹たちと私の娼年自然の家の跡地に慈善病院を建てた。困窮する国民の支援をしている」
シルバー家の面子はこうして成り立っている。
最後にユーリはリンと似ているモモを見てミシェルに訊ねた。
「その諜報をしてる子はシルバー家の側近とかですか?」
側近なんて大層なもんでなく単なる貴族様の玩具だとモモは自嘲したがミシェルがキッパリ言った。
「モモは私の妻だ。唯一残された大切な」
これも嘘だろうとモモは考えたが、リンが笑顔で言った。
「モモは賢いから。ミシェル兄上を支えてくれる」
「リン様まで!俺は孤児です!ミシェルは餓えてた俺を助けてくれただけ……」
モモが赤面するとミシェルが抱きしめて囁いた。
「リンの身代わりで拾ったのは事実だが、愛してる」
きっかけは褒められたもんではないが愛されていることは事実なのだから仕方ない
シルバー家のゴリゴリに歪んだ性癖を受け継いでいるミシェルだが、モモはそんな彼を愛した。
「俺もミシェルが好きだ。貧民窟で拾われたときから」
モモの言葉にユーリは明るく笑った。
「屋敷についたら父上たちがビックリするな!今年は豊作だから御馳走がでるぞ!」
先に屋敷に報せに走ったユーリを見ながらミシェルはリンに告げた。
「リン。やはり国外の戦争の火の粉が迫っている。ラン・ヤスミカ家の領地は最初に攻め込まれるのは地形的に明白だ」
「ミシェル兄上。温泉街にスパイが潜んでるのはわかってます。モモ!相手が油断してる間にスパイを捕獲して国外の情報をききだせ。殺すな。生け捕りにしろ」
リンの命礼にモモは静かに頷いた。
長閑な田舎に危険な足音が迫る。
ラン・ヤスミカ家がそれを察しないのも奇妙だとリンは考えていた。
「国外と密約を交わしてる可能性もある」
そんな狡猾な手段をあの家の人間がするとは思えないが、国境近くの領地でこれだけ穏やかなのも異様である。
なにか秘密があるはずと考えていたら、モモが領内を調査してわかったことを報告した。
「この領地。調べた限り軍事力は小さな領地にしては異常だ。穀物蔵の地下で大量の火薬を見つけた」
火薬ということは爆弾を製造している。
そんなことが可能なのかとリンがミシェルと目配せしているとユーリが戻ってきた。
「リン!明日から穀物蔵の地下で花火作りだ!収穫祭のとき花火大会があるから!」
ロケット弾を毎年国境めがけて打ち上げるとユーリは楽しそうだ。
ラン・ヤスミカの領地が長閑で平和な理由が判明した。
花火大会に乗じて爆弾飛ばすので他国も「あの領地はヤバい」と警戒して攻めてこない。
領地で毎年爆弾投下してましたはシルバー家に報告はしないとリンは決めた。
ちなみに爆弾作りが上手なのはユーリの兄嫁フィンナである。
リンは嫁としてラン・ヤスミカ家伝来の爆弾作りを覚える必要がでてきた。
異母弟がド級にヤバい家に嫁いだとミシェルは思ったが、ここより安全そうな土地もないので、可愛いモモとラン・ヤスミカの領地で暮らすことになる。
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