花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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領民会館サークル全容

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ラン・ヤスミカ領の中心にある領民会館はいわば公民館みたいなものである。

館内には図書室があったり、談話室があったり、広場もある。

領地の人々の憩いの場であり、特に高齢の方々が多い。

家業を子供や孫に託して現役を退いたご年配の紳士淑女は自由にサークルのようなものを作り活動している。

そんなラン・ヤスミカ領民会館にリンはユーリと遊びに出かけた。

名目上は視察だが領主一家が出向くと会館を利用している人たちが喜ぶのだ。

特に18歳のユーリと15歳のリンの男子若夫婦は領民にも人気がある。

「それにしてもラン・ヤスミカ領は公共施設が充実してますね?」

リンが微笑んで訊ねるとユーリがポカーンとした顔になった。

「そうか?うちの領って代々領民の支えがあって成り立ってたから領民の暮らしに役立つ建物造るが普通だと思ってた」

「その領地の人々のためを考えることが普通にできる貴族は少数ですよ。歴代のラン・ヤスミカ家の方々は立派です」

リンの実家シルバー家は大貴族で王都に広大な屋敷と領地を誇るが必ずしも民衆ファーストではない。

そもそもリン自身が当主クロードが平民の娘を手ごめにして誕生した不平等の申し子である。

リンの母違いの長兄ミシェルはそんな狡猾ロリクソ親父クロードに対して複雑な気持ちと反発を抱きつつ異母弟のリンを可愛がってくれた。

ミシェルはどちらかというと封建的な世の中に懐疑的で大貴族の嫡男なのに貧民窟で犯罪連続記録を樹立して処刑されそうだった少年モモを保護して屋敷に連れ帰るなど気持ちは貧しい者に寄り添っている。

それだけだとミシェルが聖人のように映るがミシェルは社会的に弱い者に手を差しのべる善行と同時に貧民窟で保護した11歳だったモモを愛人にするという性犯罪も両立している。

ミシェルとモモの関係はおいておいて領民会館である。

受付にはラン・ヤスミカ家が任命した会館長が座っている。

この会館長は領立学校の引退した元校長先生が就任する決まりだ。

要はシルバーワークであった。

現在の会館長はネルソンという60代の男性である。

会館の入り口にユーリとリンが現れるとネルソンは笑顔で手招きした。

「おや!ラン・ヤスミカ家のユーリ様とリン様!視察のお仕事ですかな?サークルの皆が喜びますぞ!」

「久しぶり。ネルソン。視察ってほど大げさじゃない。施設内で何か故障とかトラブルはあったか?ここも修繕はしてるがだいぶ古いだろ?」

「お陰さまで施設は問題ございません!サークル内での喧嘩もなく和やかですよ」

ネルソンの穏やかな口調にリンは領地の人々がひらいているサークルとやらが気になった。

「ごきげんよう。ネルソン殿。あの…領地の方々が楽しんでいるサークルとはどのような?」

年配の男女が多いので読書や刺繍や詩歌にダンスなどを愛好する会かとリンは思っていたが違った。

「リン様。こちらが人気サークルのチラシでございます!1番人気はこちら!」

ネルソンが見せてくれた人気サークルの記載にリンは目を疑った。

「え?仲良し戦闘訓練サークル!?男女ともに参加可能!?剣、槍、弓一式、鎧に盾は会館がレンタルします?手ぶらでOK!?条件は死んでも自己責任の書類への署名捺印!?これがサークル?軍隊では?」

「このサークルが大人気でしてね!ラン・ヤスミカ領って小さくてショボいから何時なんどき敵や盗賊の強奪があるかわかりません!頼りの領主一家は激弱ですから!領民がガチで戦闘しないと!」

領主の次男ユーリがいる前で平然と領主であるラン・ヤスミカ家はクソ弱いとディスるネルソンさん。

さすがに穏やかなユーリも怒らないかとリンは焦ったがユーリは笑っている。

「ごめんな!俺の家系って戦争強い人間はほぼいなくて!今まで領地滅んでないのが奇跡だ。それもこれも伝統ある仲良し戦闘訓練サークルが私軍として戦ってくれたお陰だよ!ありがとな」

ラン・ヤスミカ領が小さくてもこんにちまで存続していたのは仲良し戦闘訓練サークルの働きあってこそだった。

そりゃ、領民に頭があがらないだろうとリンは呆気にとられた。

シルバー家だって大貴族なのに軍人を多く輩出してないので同じだが代わりに政治家は多く出ている。

そもそも軍事より政治力に突出したシルバー家だが貴族の必須科目としてリンだって武術訓練を受けていた。

高齢者を私軍として頼りにするは領地の安泰を考えると危険すぎる。

「あの…仲良し戦闘訓練サークルは若い人は参加しないのですか?」

リンの疑問にネルソンは微笑んだ。

「しませんよ!若者は家業で忙しく女性は子育てにも多忙です!力があまってるお爺さんとお婆さんがメインのサークルですから!」

「そうですけど!いざ戦闘になったときに若年層に戦の心得がないと領地が危うい!」

高齢者がいくら奮戦しても大群が迫ってきたら命はないとリンが力説するとユーリは言った。

「俺もそうだけど領地の若い奴らも学校で戦闘訓練してるぞ?花火作りから爆弾作りだけじゃなく卒業製作は大砲で砲弾とばすだしな!」

「嘘!?ミシェル兄上はなにも言ってないです!先生してたなら生徒が大砲製造してたら驚くと思うのですが!?」

「あれは内緒にしてもらってる。小さな領地が下手に軍事訓練してるってバレるとヤバイから。このラン・ヤスミカ領に住んでる人たちの民家には最低3台は大砲があって砲弾ストックもあるんだ。もちろんうちの屋敷にもあるぞ!」

リンは嫁いできてだいぶ経過したが領地がそこまで軍事に長けてるとは予想外だった。

その大砲と砲弾の材料の仕入れ先はどこか質問するのが怖い。

「それほどの軍事力があるとは知らず……ユーリの妻なのに情けないです」

自分は嫁いできた領地のことをまだなにも知らなかったと落ち込むリンにユーリは笑顔で口を開いた。

「内緒にしててごめんな。リンを信用してなかった訳じゃない。でも、ラン・ヤスミカ領は極力戦争しないって方針だ。大砲があっても戦闘訓練してても傷ついたり死ぬ人はでるからな」

「そうですね……。武器や武術はもしもの備えであって勇んで戦争するのは愚行です」

そう呟いてリンが微笑んだときネルソンが別のチラシを見せた。

「これなんか若者に人気のサークルですよ?恋ばなサークル!修学旅行の夜みたいな気分を味わえます」

「これは…随分と平和的な!え?条件は恋ばなサークルで知った情報を漏洩しない。違反者は領内引き回しのうえ鞭で100回打たれて、【バカ】のタトゥーをオデコに彫るペナルティあり!?厳しすぎる!」

「恋ばなの漏洩は重罪ですからな!」

大砲や戦闘訓練してる情報より恋ばな情報の方が機密性が高いラン・ヤスミカ領民会館サークルであった。

ちなみに恋ばなサークルにリンの次兄エドガーが参加している事実をユーリとリンはまだ知る由もない。

恋ばなサークルは参加者匿名性であった。


end







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