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王女と王子の休日~2~王子と従者
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ダイアナ王女が気晴らしに王宮から外に出てしまい2時間経過した。
ミモザ王子に仕える西の離宮の従者と護衛はお留守番をしながら息を吐いている。
予想はしていたが王女と一緒に外に出ていったミモザ王子は2時間経っても帰っては来なかった。
「そろそろダイアナ王女の女官長が迎えにくるぞ。王女がこんな長時間、宮廷にいないのは異常なことだからな」
ミモザ王子付きの従者であるシルフィは王子の護衛をしているワトとニノとこれからの対応を相談していた。
ダイアナ王女が気難しい従弟のミモザ王子を気にして話し相手をしているのは周知の事実だ。
王子と話すときにお供でシルバー家嫡男のミシェルをつれていくことも周りは違和感を抱かない。
ミモザ王子の側付きとなった少年モモは宮廷ではシルバー家の庶子でミシェルの弟リリィという偽名と偽物の身分を持っているからだ。
問題は約束の2時間を超過してもダイアナ王女の宮廷脱走の道連れとなったミモザ王子やミシェルとモモが帰ってこないことである。
「女官長が来たら王子と王女は2人で真剣にお話し中と誤魔化す。何を話してるかきかれたら適当に答えよう。いいな?ワト&ニノ?」
「御意!」
「承知した!」
そうこうしている間にマジでダイアナ王女の女官長が手下の女官を引き連れて西の離宮にやってきた。
「ごきげんよう。西の離宮の方々。ダイアナ王女のお迎えにあがりました。王女はどちらに?」
威圧感ある女官長にビビったら敗けだと覚悟した従者シルフィはわざと笑顔で問いかけに応じた。
「それはご足労くださりかたじけない。ダイアナ王女様は我が主君ミモザ王子と大事なお話しがあると申され人払いをされました」
ダイアナ王女が従弟のミモザ王子に大事な話しという言葉に女官長や取り巻きの女官の顔色が変わった。
「それは……まあ!王女様は何をお話しにきたのです?重要なことでしょう?」
作戦通りダイアナ王女の女官たちは勝手に勘違いをしてくれた。
王位継承権があるダイアナ王女とミモザ王子が話すことなんて決まっている。
どちらが王座につくかの探りあいだ。
ダイアナ王女が将来の王位を確固たるものとするためにミモザ王子を牽制している。
または王座に代わる特権を約束している。
宮廷に仕える女官が頭をめぐらすことなんてその程度だとシルフィは思っていた。
しかし、ここで変化球を投げたら女官長たちはどうリアクションするかとシルフィや護衛のワト&ニノは試してみることにした。
要は女官長たちを混乱させてミモザ王子が無事に帰還するまでの時間稼ぎである。
「女官長殿。ダイアナ王女様とミモザ王子はいつも仲睦まじくお話しをしてます。ダイアナ王女は離宮でミモザ王子とお話しする時間を楽しみにしておられる。ミモザ王子もダイアナ王女の来訪を心待ちにしているご様子で!」
政治的な駆け引きでなく年頃になったダイアナ王女とミモザ王子がお互いに惹かれ合っていると匂わす話題をふりまく。
女官長は今度こそ「まあ!」と顔を紅潮させて色めきだち、周りの女官もザワザワしだした。
このザワザワしている間に街に出ていったダイアナ王女とミモザ王子が戻らないかと期待していたら女官長が軽く咳払いして改まった口調で聞いてきた。
「ミモザ王子付きの従者シルフィ殿。私もここ最近ダイアナ王女が頻繁にミモザ王子の住まう離宮に行くのを不思議に思っておりました。しかし、今日の貴殿のご説明で全て腑に落ちた思いですわ。王女様はもう16歳。従弟のミモザ王子を殿方として意識しても可笑しくないと!」
ダイアナ王女が父方の従弟であるミモザ王子と結婚すれば王位継承争いは落ち着くし、他国から婿をもらう面倒な手続きもなくなる。
他国の王族と婚姻するのは政略結婚の基本だが、外戚となる他国の干渉を受けるので避けたいのが国王陛下の考えであった。
「ダイアナ王女とミモザ王子が婚姻すれば王家の結束は強まり、他国の干渉からも逃れられる!これは国王陛下に早速、ご報告をしなければ!ごめん遊ばせ」
女官長は他の女官とともに挨拶すると慌てて去っていった。
ダイアナ王女のお迎えはもう少し時間が経過したら参りますと言い残して。
「これでしばらくダイアナ王女のお迎えはこない。計画通りだ!」
シルフィがホッとしていると護衛のワトが言った。
「しかし、王女と王子が恋仲なんて嘘だろ?宮廷で噂になったらまずいぞ?」
「構わない。ミモザ王子のお幸せを考えればダイアナ王女と結婚するのが妥当だ」
シルフィは従者と主君という立場を越えてミモザ王子を深く愛している。
できるならダイアナ王女なんかと愛する主君を結婚させたくない。
しかし、西の離宮で寂しく暮らしているミモザ王子は非常に不安定な立場でもある。
ダイアナ王女が王座についたときミモザ王子が邪魔になり暗殺される危険性があるのだ。
それを回避するためにもミモザ王子はダイアナ王女と夫婦になる方が安全である。
「ミモザ王子を利用する者を黙らせるためにも王女と王子は仲睦まじいと噂を流した方が有益」
シルフィはシルバー家のような大貴族とは異なる弱小貴族の生まれだ。
本来ならば身分が低いので宮廷に出入りなどできなかった。
しかし、ミモザ王子の従者になるよう親戚を通して打診が来たのだ。
その理由はミモザ王子が国王が直々に選んだ上流貴族の子弟を嫌ったからだ。
何人も従者をクビにして誰もなり手がいないので弱小貴族の子弟だったシルフィに話がまわってきた。
気難しい王子に仕えるのは正直憂鬱だったが家の繁栄を考えたら拒否はできない。
どんな意地悪で陰険な主君でも耐えようと覚悟を決めてシルフィは離宮にいるミモザ王子の元に仕えることとなる。
だが、初めて拝謁した瞬間からシルフィはミモザ王子が大好きになった。
宮廷の貴族には全く笑わず愛想の欠片もないミモザ王子だが、従者となったシルフィにはいつも笑顔で親切な態度を崩さなかった。
護衛になったワト&ニノにも気さくで心を許した者には寛大で心優しい主君だ。
宮廷では西の離宮に仕える者を陰気な王子の召使いと揶揄する貴族もいる。
実際のミモザはまったく陰気でなく機知にとんだ賢い王子なのに。
「何人も従者をクビにしたのは王子をおだてて担ぎ上げる者が嫌だったから」
自分を利用しようとする者を警戒した結果、ミモザ王子は西の離宮に引きこもっていた。
そんなミモザ王子がダイアナ王女の気まぐれでも離宮から出て外出するのはシルフィとしては心配だが嬉しいことである。
体が丈夫でなかった王子が成長とともに健康になってきた証拠だ。
「でも、そろそろ帰ってきてほしい」
シルフィがそう呟くと離宮の入口にミシェルとモモを従えたミモザ王子が戻ってきた。
ダイアナ王女は先に宮廷に帰ったのだろうか?
「お帰りなさいませ!王子。ダイアナ王女は?」
シルフィが尋ねるとミモザ王子はなんてこともない顔で言ったのだ。
「女王として即位する際、花婿は僕に決めたと国王陛下に奏上しに行った」
やはり、ダイアナ王女は単に街を自由に散策して遊んでいたわけではなかった。
ミモザ王子が街を一緒に歩けるくらいには健康で王族同士で結婚しても申し分ないと判断したのだろう。
「まったく……これから離宮が騒がしくなる」
息を吐くミモザ王子の上着を受け取るとシルフィは微笑んであとに続いた。
それを見ていたミシェルはなんとなくシルフィの想いに気づいてモモに呟いたのだ。
「シルフィ殿はずっと離宮でミモザ王子の傍にいたかったのではないか?」
愛する人の幸せを考えたとしても切ないとミシェルが言うとモモが小さく笑った。
「そうやって無欲に仕える従者だからミモザ王子はシルフィを信頼してる。ミシェル。好きになった奴と結ばれるだけが幸せじゃない。好きな奴の幸せだけを想える人生だって幸せなんだよ」
「そういうものなのか……」
ミシェルはモモの心にもシルフィと似たような想いがあることを見抜いている。
それがミシェルにはどうにもやりきれず、切ないという気持ちを果たしてモモはわかっているのか。
ミモザ王子だって同じような歯がゆさをシルフィに抱いているようにミシェルはどうしても感じてしまう。
幸せを願い続けられることが本当に相手にとっての幸せなのか?
その答えにミシェルはまだたどり着けなかった。
end
ミモザ王子に仕える西の離宮の従者と護衛はお留守番をしながら息を吐いている。
予想はしていたが王女と一緒に外に出ていったミモザ王子は2時間経っても帰っては来なかった。
「そろそろダイアナ王女の女官長が迎えにくるぞ。王女がこんな長時間、宮廷にいないのは異常なことだからな」
ミモザ王子付きの従者であるシルフィは王子の護衛をしているワトとニノとこれからの対応を相談していた。
ダイアナ王女が気難しい従弟のミモザ王子を気にして話し相手をしているのは周知の事実だ。
王子と話すときにお供でシルバー家嫡男のミシェルをつれていくことも周りは違和感を抱かない。
ミモザ王子の側付きとなった少年モモは宮廷ではシルバー家の庶子でミシェルの弟リリィという偽名と偽物の身分を持っているからだ。
問題は約束の2時間を超過してもダイアナ王女の宮廷脱走の道連れとなったミモザ王子やミシェルとモモが帰ってこないことである。
「女官長が来たら王子と王女は2人で真剣にお話し中と誤魔化す。何を話してるかきかれたら適当に答えよう。いいな?ワト&ニノ?」
「御意!」
「承知した!」
そうこうしている間にマジでダイアナ王女の女官長が手下の女官を引き連れて西の離宮にやってきた。
「ごきげんよう。西の離宮の方々。ダイアナ王女のお迎えにあがりました。王女はどちらに?」
威圧感ある女官長にビビったら敗けだと覚悟した従者シルフィはわざと笑顔で問いかけに応じた。
「それはご足労くださりかたじけない。ダイアナ王女様は我が主君ミモザ王子と大事なお話しがあると申され人払いをされました」
ダイアナ王女が従弟のミモザ王子に大事な話しという言葉に女官長や取り巻きの女官の顔色が変わった。
「それは……まあ!王女様は何をお話しにきたのです?重要なことでしょう?」
作戦通りダイアナ王女の女官たちは勝手に勘違いをしてくれた。
王位継承権があるダイアナ王女とミモザ王子が話すことなんて決まっている。
どちらが王座につくかの探りあいだ。
ダイアナ王女が将来の王位を確固たるものとするためにミモザ王子を牽制している。
または王座に代わる特権を約束している。
宮廷に仕える女官が頭をめぐらすことなんてその程度だとシルフィは思っていた。
しかし、ここで変化球を投げたら女官長たちはどうリアクションするかとシルフィや護衛のワト&ニノは試してみることにした。
要は女官長たちを混乱させてミモザ王子が無事に帰還するまでの時間稼ぎである。
「女官長殿。ダイアナ王女様とミモザ王子はいつも仲睦まじくお話しをしてます。ダイアナ王女は離宮でミモザ王子とお話しする時間を楽しみにしておられる。ミモザ王子もダイアナ王女の来訪を心待ちにしているご様子で!」
政治的な駆け引きでなく年頃になったダイアナ王女とミモザ王子がお互いに惹かれ合っていると匂わす話題をふりまく。
女官長は今度こそ「まあ!」と顔を紅潮させて色めきだち、周りの女官もザワザワしだした。
このザワザワしている間に街に出ていったダイアナ王女とミモザ王子が戻らないかと期待していたら女官長が軽く咳払いして改まった口調で聞いてきた。
「ミモザ王子付きの従者シルフィ殿。私もここ最近ダイアナ王女が頻繁にミモザ王子の住まう離宮に行くのを不思議に思っておりました。しかし、今日の貴殿のご説明で全て腑に落ちた思いですわ。王女様はもう16歳。従弟のミモザ王子を殿方として意識しても可笑しくないと!」
ダイアナ王女が父方の従弟であるミモザ王子と結婚すれば王位継承争いは落ち着くし、他国から婿をもらう面倒な手続きもなくなる。
他国の王族と婚姻するのは政略結婚の基本だが、外戚となる他国の干渉を受けるので避けたいのが国王陛下の考えであった。
「ダイアナ王女とミモザ王子が婚姻すれば王家の結束は強まり、他国の干渉からも逃れられる!これは国王陛下に早速、ご報告をしなければ!ごめん遊ばせ」
女官長は他の女官とともに挨拶すると慌てて去っていった。
ダイアナ王女のお迎えはもう少し時間が経過したら参りますと言い残して。
「これでしばらくダイアナ王女のお迎えはこない。計画通りだ!」
シルフィがホッとしていると護衛のワトが言った。
「しかし、王女と王子が恋仲なんて嘘だろ?宮廷で噂になったらまずいぞ?」
「構わない。ミモザ王子のお幸せを考えればダイアナ王女と結婚するのが妥当だ」
シルフィは従者と主君という立場を越えてミモザ王子を深く愛している。
できるならダイアナ王女なんかと愛する主君を結婚させたくない。
しかし、西の離宮で寂しく暮らしているミモザ王子は非常に不安定な立場でもある。
ダイアナ王女が王座についたときミモザ王子が邪魔になり暗殺される危険性があるのだ。
それを回避するためにもミモザ王子はダイアナ王女と夫婦になる方が安全である。
「ミモザ王子を利用する者を黙らせるためにも王女と王子は仲睦まじいと噂を流した方が有益」
シルフィはシルバー家のような大貴族とは異なる弱小貴族の生まれだ。
本来ならば身分が低いので宮廷に出入りなどできなかった。
しかし、ミモザ王子の従者になるよう親戚を通して打診が来たのだ。
その理由はミモザ王子が国王が直々に選んだ上流貴族の子弟を嫌ったからだ。
何人も従者をクビにして誰もなり手がいないので弱小貴族の子弟だったシルフィに話がまわってきた。
気難しい王子に仕えるのは正直憂鬱だったが家の繁栄を考えたら拒否はできない。
どんな意地悪で陰険な主君でも耐えようと覚悟を決めてシルフィは離宮にいるミモザ王子の元に仕えることとなる。
だが、初めて拝謁した瞬間からシルフィはミモザ王子が大好きになった。
宮廷の貴族には全く笑わず愛想の欠片もないミモザ王子だが、従者となったシルフィにはいつも笑顔で親切な態度を崩さなかった。
護衛になったワト&ニノにも気さくで心を許した者には寛大で心優しい主君だ。
宮廷では西の離宮に仕える者を陰気な王子の召使いと揶揄する貴族もいる。
実際のミモザはまったく陰気でなく機知にとんだ賢い王子なのに。
「何人も従者をクビにしたのは王子をおだてて担ぎ上げる者が嫌だったから」
自分を利用しようとする者を警戒した結果、ミモザ王子は西の離宮に引きこもっていた。
そんなミモザ王子がダイアナ王女の気まぐれでも離宮から出て外出するのはシルフィとしては心配だが嬉しいことである。
体が丈夫でなかった王子が成長とともに健康になってきた証拠だ。
「でも、そろそろ帰ってきてほしい」
シルフィがそう呟くと離宮の入口にミシェルとモモを従えたミモザ王子が戻ってきた。
ダイアナ王女は先に宮廷に帰ったのだろうか?
「お帰りなさいませ!王子。ダイアナ王女は?」
シルフィが尋ねるとミモザ王子はなんてこともない顔で言ったのだ。
「女王として即位する際、花婿は僕に決めたと国王陛下に奏上しに行った」
やはり、ダイアナ王女は単に街を自由に散策して遊んでいたわけではなかった。
ミモザ王子が街を一緒に歩けるくらいには健康で王族同士で結婚しても申し分ないと判断したのだろう。
「まったく……これから離宮が騒がしくなる」
息を吐くミモザ王子の上着を受け取るとシルフィは微笑んであとに続いた。
それを見ていたミシェルはなんとなくシルフィの想いに気づいてモモに呟いたのだ。
「シルフィ殿はずっと離宮でミモザ王子の傍にいたかったのではないか?」
愛する人の幸せを考えたとしても切ないとミシェルが言うとモモが小さく笑った。
「そうやって無欲に仕える従者だからミモザ王子はシルフィを信頼してる。ミシェル。好きになった奴と結ばれるだけが幸せじゃない。好きな奴の幸せだけを想える人生だって幸せなんだよ」
「そういうものなのか……」
ミシェルはモモの心にもシルフィと似たような想いがあることを見抜いている。
それがミシェルにはどうにもやりきれず、切ないという気持ちを果たしてモモはわかっているのか。
ミモザ王子だって同じような歯がゆさをシルフィに抱いているようにミシェルはどうしても感じてしまう。
幸せを願い続けられることが本当に相手にとっての幸せなのか?
その答えにミシェルはまだたどり着けなかった。
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