怪談

馬骨

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実話系怪談

『悪夢』 原案:おちゃ(ペンネーム)

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月に一度見る奇妙な夢を、私は長い事覚えていることはできない。
朝起きて、その夜見ていた夢を覚えていられないのは、その日やることを脳が先に考えるからだという。

ただ夢の中では、以前もこんな夢を見たと、ふと記憶が蘇ってくることがある。
夢の中でのみ共有する世界があることに対して、私はいくばくか恐怖を覚えている。

それはともすれば、私の夢と現の認識が全く異なっているという、ただならぬ可能性を匂わせている。

町の往来。人通りは皆無である。以前住んでいた町。この道を進めば、帰るべき家がある。帰路。

ここで初めて、以前から見ていた夢の内容を思い出す。そこでの私は確か、追いかけられている。加えて、監視されている。

恐らくは、そのどちらでもあり、どちらでもない。

私のことを何かが見ている。脳のフィルターを通し、夢と現があいまいな意識の最中で。その狭間を行きかうようにしながら。それは私を起こそうとしている。それだけはわかる。

私の記憶が象っているこの世界の屋上から、常に私は何かに見られている。

それは目がない。だが、見ることができる。それには足がない。だが追いかけることができる。それには実体がない。だが、私はそれを感じている。

ただならぬ、不定形の怪物。

歪めた認知すらも、正当なものと成ってしまう夢の中。
私はあまりに非力で、記憶の通りにある帰り道をただ、歩くことしかできない。

起きてはならないと思う。人は寝て起きての繰り返し。起きている時は寝たくなり、寝ている時は起きるようにできている。だから私は気づかない振りをする。起きていることも、寝ていることも、それに感づかれてしまえば、怪物は迫ってくる。

そんなことを考えているから、ほら。
屋上にあった目が、もはや私の後ろまで迫っている。
ぞわぞわと、何かしらの気配を感じ取った背筋が反応している。生ぬるい気配を感じている。

ふと中空に目をやる。何かがふわふわと浮かんでいる。
優しい気持ちになった。あれは、私の母だ。
優しい顔が、浮かんでいる。その隣には、友人の首が数多浮かんでいる。
はかなく浮かんでいる。シャボン玉のように。

ふと、やわらかく手を握られた。怪物ではない。

これは、兄弟だ。顔の見知らぬ兄弟。私には存在しないはずの。
満面の笑みで、こちらを見ている。奇妙な夢は、それが奇妙であることに留まらない。

気付けば私は、畳敷きのリビングへと案内されていた。

背後の化け物と私とを交互に見た親切な他人が、家の中へと迎え入れてくれたのである。
他人の厄介になるのは初めてではない。だが、身に覚えのない善意ほど悪意に塗れた物はないのかもしれない。

キッチンの上部。換気扇が回っている。ごおっと無機質な音を立てながら。
ぐぶぐぶという音が、その奥から響いてくる。何かがせり出してくるような。
かと思えば、その隣の部屋から、女性の黄色い声が聞こえてくる。喜びに満ちた、甘く、生々しい反吐の出る声色。

換気扇から吐しゃ物が噴き出した。

起きてしまいそうだ。勢いよく、脳みそが揺れて。

咄嗟に道路へと飛び出す。親切な他人も、存在しない兄弟も、そこにはもういなかった。

振り返ってみると、そこにはもう家など存在していない。彼らはどうやら、最初から存在していなかったようだ。

世界がたたまれていく。怪物が近寄ってくる。

助けを求める声が、次第に大きくなっていく。

それが彼らに届くことはない。

誰も私を、信じてはいないから。
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