【本編完結済み】卒業パーティーで婚約破棄をやらかした王子が『真実の愛』に辿り着くまでの話

むちこ

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卒業パーティーまたは、断罪劇1

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「アリシア・ノートン。本日をもって貴様との婚約を破棄する。」

 綺羅びやかに輝くシャンデリアの下で着飾った男女が思い思いにダンスや談笑を楽しむホールに、この国の第一王子クリストファーの王子教育で鍛え上げられたよく通る声が響き渡った。

 

今日は王国の貴族子弟の通う王立学園の卒業式。式の後に夕方から開かれた卒業パーティーには、卒業生を始め祝いに駆けつけた保護者が詰めかけており、祝福の場に突然発せられた不穏な宣言に会場は水を打った様に静まりかえった。優雅なオーケストラの音楽が流れた祝福の場を一瞬で凍りつかせた第一王子に人々の視線が集まる。
  
壇上に立って眼下のアリシアを睨む第一王子クリストファー金髪碧眼の理想を体現したようなTHE王子だ、の傍らに寄り添うのはピンクブロンドの少女。整った、どちらかというと可愛い系の顔に、小柄ながらも出るところは出て男の庇護欲と期待感を煽るけしからんボディーを胸元の大きく開いたピンクのドレスに包みクリストファーの腕に縋り付くように密着のさせている。
その姿に、はしたないとか、売女がとか群衆からヒソヒソ囁かれ、顰蹙を買っているが壇上の二人には聞こえていないようだ。

衆人環視の中、突然の婚約破棄を宣言されたアリシアは一瞬言葉に詰まったものの気丈にも言葉を発した。


「……突然の事に驚いております。私に至らない所はございますが、日々勤めを果たすべく精進を重ねているところでございます。今日この祝いの席で観衆の元婚約破棄を宣言されるほどの落度が私にございましょうか?どうか、クリストファー殿下、理由をお聞かせ下さいませ?」

突然の理不尽な、こんなところでする話じゃないだろう、という宣言に対して謙虚にしかし主張するところは主張してしっかり返答を帰すアリシア。金髪にアメジストの瞳、磨き抜かれた透き通る様に白い肌に生来の美貌をクリストファーの瞳の色である碧のドレスを纏い、髪を上げて現れたになった項から背筋に一本しっかりと線の入った凛とした立ち姿、指先まで神経の行き届いた流れる様に優美な所作。
流石、第一王子の婚約者として人格、教養に優れ、公爵令嬢という第一王子の後ろだてになるにはバッチリな家柄も備えた完璧令嬢だ。

「理由など貴様が一番わかっておろう!アリシア、貴様は嫉妬に狂い、権威を笠に着てこのマーガレット・フォークス男爵令嬢に嫌がらせをしていたそうではないか?」

「嫌がらせ?私は婚約者に近く者に控える様に話していただけですわ。」

「それだけではないだろう?彼女の制服を切り裂いたり、教科書を捨てたり、果ては暴漢に襲わせ、失敗したら今度は自分で彼女を階段から突き落としたそうではないか!犯罪者を国母に迎えることは出来ない。よって、貴様との婚約を破棄し私はこのマーガレットと婚約する。」

言いきってやった感を漂わせ自信満々に言うクリストファーに対して、口許を隠した扇の下で分かりやすくため息を吐くアリシア。
「私には身に覚えのないことばかりでございます。証拠はもちろんあるのでございましょうね?」

「マーガレットが貴様を見たと証言している。それ以上の証拠など必要ない!」

「証言などいくらでも嘘が付けます。証拠とは申しかねます。」

「ひどい!私嘘なんて付いていません。私、本当に辛くて!アリシア様!素直に罪をお認め下さい。謝ってくれたら私はそれでいいんです。アリシア様の事許します。」
押され気味のクリストファーにマーガレットが参戦してくる。

「おお、なんと優しい言葉だろうか。貴様のように心根の腐った者にまで慈悲をみせるとは!私はこの聖女の様なマーガレットに真実の愛を捧げよう!」
マーガレットの言葉に感嘆するクリストファー。
身分が下の男爵令嬢に発言を許した覚えはないんだけどと思いながらも、話が進まないし何より咎めるのもめんどくさいのでアリシアはそこはスルーした。そして、めんどくさいので猫被りも止めた。どうせ、この弱肉強食の貴族社会で本当に純真でか弱い令嬢など仮面に過ぎないのだから。

「笑止!そもそも、私が本気で貴女を貶めようと思ったらそんなちまちました子供の様な嫌がらせなど致しません。貴女が今この場に生きていることこそが、私が彼女に嫌がらせなどしていない確かな証拠なのでございますよ。公爵令嬢を本気で怒らせて無事でいられると思っていますの?」
暴漢に襲わせるのは子供の嫌がらせなのか?更に物騒な事を堂々と言いきるアリシアにドン引きする王子と、最もだよなぁと納得する貴族たち。

「ひどい!身分を笠に着て、ここは学園ですよ。身分関係なく交流を持つことが認められています。」

「今日で卒業だから明日からはバッチリ身分が物を言うけどね。」

誰かがボソっと呟いたのが聞こえてギクッとするマーガレット。
だから、今夜が勝負なのよ!と聞かなかった事にして自分を奮い立たせる。

「そもそも私と第一王子殿下の婚約は王権による政略結婚ですわ。そこに恋も愛も存在しないのに嫉妬などしようはずがありませんわ。寧ろ嫉妬に狂うほどの恋というものをしてみたいものですわねぇ。」
高笑いするアリシア。
好かれてないんじゃないかな?と思いつつもマーガレットが「アリシア様が嫉妬していじめた」というので大分虚栄心が満たされていたクリストファー。自分だって、別にアリシアが好きな訳じゃないけど、でも、でも婚約してるんだぞ!

「なんだと!貴様などとは結婚しない!不敬だ!婚約破棄だ!」
「ひどい!クリストファー様まで馬鹿にして!愛のない結婚なんてクリストファー様が可哀想です。私たちは真実愛し合ってるんです!いらないなら私に下さい!」

そうだ!マーガレットはクリストファーをいつも立ててくれるのだ!尊敬して褒めてくれる!自分にはマーガレットしかいない!

「マーガレット!」
「クリストファー様!」
二人の世界が始まる……のを許すようなアリシアではない。

「あらあら、冤罪の次は不敬罪ですの?お粗末ですわねぇ。そもそも、王命ですのに殿下の一存で婚約破棄など出来ないと申しておりますでしょ?そんなに一緒になりたいなら愛妾にされたらいかがですの?」

因みにこの国は宗教の関係で一夫一妻しか認められていない。唯一王族に許されているのが、人妻を愛人として召し上げる愛妾制度だ。まあ、実際は多くの貴族が愛人を囲っていたり、不倫を楽しんでいるのだが。

「愛妾なんてひどい!私は愛する人の妻になりたいんです!愛してない人と結婚出来るアリシア様と一緒にしないで下さい。」

「まあ、貴女随分度胸がおありになるのね。今ここにいる貴族の大半を敵にまわしましてよ。」

そう、この国では殆どの貴族は家の利益や政治の為の政略結婚をしている。

ヒートアップしていく女たちにちょっとこれはまずくないかと、クリストファーでもわかる。

「私は親切で言ってあげているんですのよ。だって、貴女に王妃の仕事が務まりますの?王妃とは王の補佐の他にも自身の公務もあり、時に王の代理も務めますのよ。貴女、何ヵ国語が話せまして?最低この国に隣接する国の方と挨拶と日常会話くらいは出来ないといけませんわよ。この国の法律を全て憶えていて?……そうねぇ、建国から全ての王の名を言えまして?」
最後はちょっとからかうように意地悪を混ぜる。

「わ、私だって頑張れば覚えられます!クリストファー様の為に頑張ります!」
最後にクリストファーを上目遣いで見るのがポイントだ。
「どれも出来ないって、事かしら?そんなもの王妃教育のほんの一部ですわ。王妃教育にいったい何年かかるのやら。結婚する前におばあちゃんになってしまいますわね。」
もう、嘲りを隠さなくなったアリシア。ちょっと飽きてきてるのかもしれない。

「そんな事出来なくても、私にはもっと大切な務めがはたせます!」
「子供を産む事とか言わないわよね?」
「私は公務で疲れたクリストファー様を癒して差し上げられます!」
得意満面で言うマーガレット。
「マーガレット!!」
何故か感涙するクリストファー。

「それこそが愛妾の仕事なのでは?」
ボソッ呟いたアリシアの言葉に、
えっ、確かに王妃の仕事大変そうだし、それでもいいかなとグラッとくるマーガレット。
いやいや!王妃になってファーストレディの優雅な生活を満喫するのよ!みんなに羨望の眼差しでみられるのよ!
クリストファーと手を取り合って、頑張れマーガレット!!
二人見詰め合って気合いを入れ直す。


だが、アリシアの本当の反撃はここからだった。

「あら、だって貴女。愛人のお仕事は得意でしょ?」
小首を傾げて見詰めた後ににっこりと微笑んだ。











 
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