【本編完結済み】卒業パーティーで婚約破棄をやらかした王子が『真実の愛』に辿り着くまでの話

むちこ

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辺境に来た元第一王子とその側近1

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卒業パーティーから1ヶ月。
クリストファーは王位継承権の放棄と公爵叙爵及び領主拝命など諸々の手続きを終えて、辺境の地ことウェスト領に入った。

ウェスト領は酷かった。

王都から馬車を列ねて二週間。広大な荒野を抜け国境の街でクリストファーを迎えたのは国境砦に間借りした小さな代官所と少数の職員のみ。細々と営まれた街は国境警備の兵士相手の店が並んで辛うじて街の体裁を保っているが、途中通り過ぎた村々は見るからに実りの悪そうな畑に痩せ細った老人ばかりで、国境の兵士の方が領地の総人口より多いくらいだった。
クリストファーは大変な所に来たと頭を抱えた。
遥か昔まだ領主がいた頃の石造りの領主館が残っていて、王都から着いてきてくれた使用人や馭者、街住民まで総掛かりで数十年分の埃を祓って邸を整え、なんとか棲家を確保出来たのは幸いだった。古ぼけた家具が辛うじて残る室内に、無理をしてでも積めるだけ私物を持ち込んだのは正解だったと思った。



―――――――



「なあ、アルバート、お前は私に付いてこんな所に来て良かったのか?」

遠くに煙をあげる火山を望み、荒地を馬でのんびり進むクリストファー。傍らには、唯一の側近として着いてきたアルバートが並ぶ。何もない領地で飯の種になりそうな物でもないかと、二人で領地の視察に回っているのだ。

「私は貴方の側近ですから。貴方の行く所なら何処へでも着いてきて行きます。」

「そんな事言って、一年も放っておいたくせに。」

「あの一年で貴方は私が隣にいないと駄目なのだと実感しました。もう一生お側を離れません。クリストファー様の隣は誰にも渡しません。」

「ぷはっ!お前それプロポーズみたいではないか?」

「プロポーズのつもりです。クリストファー様、お慕いしております。」

「……お前、そういう意味で私のことが好きなのか?」

「めちゃくちゃそういう意味で好きです!キスしたり、抱きしめたり、✕✕✕✕もしたいです。」

「うわあ!そんなこと考えてたのか!?」

そんなこと言われたら照れる。何しろクリストファーは純粋培養され過ぎて、キスしただけで落とされてしまう男なのだ。

「私は。私は、どういう意味でお前を好きなんだろうなあ?お前が一緒にいればそれで満足な気もする。」

「私も貴方と一緒にいられたら満足です。」

恥ずかしくてアルバートの方を見られないクリストファーは、アルバートの愛おしそうに見つめる視線に気付かない。






―――――――――




夕暮れが迫り、宿もないので荒野でそのまま野宿となった。途中で拾っておいた枯れ枝でなんとか焚き火をして、携帯した食料でアルバートが作ったスープとパンで夕食をとる。何でも器用にこなすアルバートに一緒にいてくれて良かったと思うも申し訳なさが付きまとう。枯れ枝にも事欠く荒野が何処までも続く領地に、開拓の難しさを肌身に感じる。
日が落ちて遮るもののない平野を月明かりが照らし、大地から地熱が逃げていく。急激に下がっていく気温に一つの毛布に包まって二人寄り添って火の番をしながら、ぽつぽつと語り会っていると夜が更けていく。


「アルバートは公爵家を継がなくてよかったのか?それに昔、父親に憧れて宰相になると言っていただろう?」

クリストファーはずっと心にかかっていた事をきいてみる。

「公爵家は弟が継ぎます。」

「弟って!?確かまだ、一歳にもなっていないだろう?大丈夫なのか?」

少し前に、久しぶりの子供の誕生に宰相が嬉しそうに、父に報告していてからかわれていたのを思い出す。

「この一年確り根回しして、公爵家を離れる準備はしてあります。領地には叔父上もいますし、まあ、父がまだ若いので大丈夫でしょう。それに、仮に弟が違う道を望んでも、宰相も公爵もなりたい者は大勢いるので問題ないです。」

根回しの過程で産まれて来たのだろう会ったことのない彼の弟に想いを馳せる。謝るのは違う気がするが、重責を担って産まれて来た幼い命に多少の申し訳なさは感じる。まあ、公爵家に幸せが増えたので良しとしようか。

「そうか。」

優秀で、本人に気付かれることなく人を動かす手腕に秀でた側近を国政の場から離れさせてしまった事に未だ葛藤がある。自分がもっと頑張れば、側近の将来を燻らせることなく一緒にいられたのではないか?そんな思いを捨てきれずにいる。父も母も多くの自分達兄弟に関わってきた人たちが、自分より弟の方が国王に向いていると思っていることは知っていて、それでも我欲の為に気付かないフリをしてきた。

「クリストファー様こそあっさり王位継承権を放棄してよろしかったんですか?」

「私が、王になりたかったのは………。昔、約束しただろう?アルバートほ宰相になって王になった私とずっと一緒にいてくれると。アルバートが宰相になっても私が王に即位出来なかったら、ずっと一緒にいられないではないか。」

無理してしがみついていた約束は半分しか果たされなかった。でも、本来の目的は果たされてクリストファーは今とても安らいだ日々を過ごしている。

「クリストファー様!なんて可愛らしい事をおしゃるんですか!!」

顔を両手で隠して踞ってしまった唯一の側近。大きな手の平からはみ出した耳が赤く見えるのは焚き火に照らされたせいか。

「ねえ、クリストファー様キスしていいですか?」

アルバートの指の間からこちらを伺う様子を可愛いと思った。

キスしてみたら、好きの意味がわかるだろうか?

頷いた瞬間。
毛布がはね除けられて、すごい力で抱き込まれた。びっくりして涙目のクリストファーに、「ずっと貴方に触れたかった。」そう言ったアルバートの体温がじんわりとクリストファーを包む。さっきも触れてたじゃないかと突っ込む余裕はクリストファーにはない。この抱擁はきっと今までのじゃれ合いとは違う意味を持つ。一日中動き回ったのに湯浴みもしていないのでちょっと汗臭くて埃っぽいが、嗅ぎなれたアルバートの臭い。クリストファーは恐る恐るアルバートの背中に腕を回して抱き締めてみた。暖かくて安心する。

「なあ、キスしないのか?」

「キス、しますよ。」

アルバートの顔が近付いて、唇と唇がふわっと一瞬触れて離れた。もう終わり?と思ったら角度を変えてもう一度唇が近付いてくる。目を瞑るタイミンクがわからず、お互いの瞳を見つめ合ったまま何度も触れるだけの拙い口づけを繰り返す。

何度目かのキスの時、離れる時に唇を舐められてびっくりして口を開けたら舌が潜り込んできた。舌先に触れた熱に咄嗟逃げるも絡め取られて口づけが深くなる。恐る恐る応えるように自分から絡めると混じわりが深くなって、面白くなって来て夢中で舌を絡め合う。ただ熱くてお互いを求め合うだけの口づけが、何でも器用に熟すアルバートの余裕のない様に愛おしいと思った。もしかして初めてだろうかと頭を過る。それが嬉しくて、嬉しくて、この男は私のだ。もうこの先誰にも触れさせてたまるかと思った。


アルバートの好きもこんな感情なのだろうか?







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