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婚約破棄された伯爵令嬢は、元婚約者の恋を見守りたい
後編
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「セレネアお嬢様、本当に宜しかったのですか?」
柔らかな日差しが射し込む執務室で、乳母が心配そうな声を上げる。
父の代理で報告書に目を通しサインをしていたセレネアは、言葉の意味をはかりかねて小首を傾げた。乳母は、ずいっ!と身を乗り出して訴える。
「ギュリス様との婚約解消の事です!」
「あぁ、その事ね」
「何を暢気な事を仰っているのですかお嬢様!」
素っ気ない返答に、普段は温厚な乳母が眉を吊り上げた。
そうは言われても、セレネアの中では既に『終わった事』として処理済みの話なので、乳母が何故そこまで憤慨するのかが不思議でならない。
セレネアはペン立てにペンを戻し、細い指を軽く組んで乳母へ語り掛ける。
「私としては、結婚前に破談になったお陰で傷が浅く済んで、むしろ有り難いと考えているのだけれど」
「ですが、お嬢様のお立場が」
乳母はなおも食い下がる。
どうやら『自分の大切なお嬢様』がコケにされた事が我慢ならないらしい。セレネアは困った様に微笑んで乳母を諭した。
「それに、こうして仕事をしている方が私は好きなの。『女が領地の運営に口を出すなんてけしからん』と煙たがられるかもしれないけれど」
「とんでもございません!お嬢様の手腕は誰もが認めるところ。お嬢様に治めて頂けるこの領地の民は幸せ者です!」
拳を握って力説する乳母に、セレネアはにっこり笑って「ありがとう」と告げた。お茶のお代わりを頼んで乳母を下がらせる。
静かになった執務室で、セレネアは窓の外を振り仰いだ。長い白銀色の髪が動きに合わせて揺れ、日差しを含んで淡く輝く。
伯爵令嬢として生を受け、民からの税によって生かされる身である以上、己に課せられた義務は果たす覚悟で生きてきた。
ギュリス王子との婚約もその一つだ。
王家へ嫁ぎ、世継ぎを成す。それは王家から、伯爵家から、国民から期待された、セレネアにしか成し得ない責務。そう、思っていた。
しかしギュリスはそうではなかった。ただ、それだけの事。
『王子から婚約解消された哀れな令嬢』と好奇の目にさらされるのは避けられない。社交界では口さがのない噂も広がるだろう。
幸いにもセレネアの頭脳や手腕を高く評価してくれている男性達もいる。彼らの中から結婚相手を選び、共に領地を治めるのも悪くないとセレネアは考えていた。
「リサーナ様を王妃に迎える決定に、家臣からは不満の声が上がっている。異母兄妹の結婚に、民に困惑が広がるのも時間の問題。それでもギュリス様は突き進むのでしょうね」
窓辺へ歩み寄ったセレネアは青い目を細める。
胸元に掌を押し当てると、普段より強く早く脈打つ鼓動が感じられた。ギュリスとリサーナに待ち受ける未来を想像するだけで期待に胸が高鳴る。
「国を、民を巻き込んだ、その許されぬ愛の結末。見届けさせて頂きますわーー最後まで」
己の体を掻き抱いたセレネアは夢見る様に囁いて、紅い唇にうっそりとした微笑を浮かべた。
柔らかな日差しが射し込む執務室で、乳母が心配そうな声を上げる。
父の代理で報告書に目を通しサインをしていたセレネアは、言葉の意味をはかりかねて小首を傾げた。乳母は、ずいっ!と身を乗り出して訴える。
「ギュリス様との婚約解消の事です!」
「あぁ、その事ね」
「何を暢気な事を仰っているのですかお嬢様!」
素っ気ない返答に、普段は温厚な乳母が眉を吊り上げた。
そうは言われても、セレネアの中では既に『終わった事』として処理済みの話なので、乳母が何故そこまで憤慨するのかが不思議でならない。
セレネアはペン立てにペンを戻し、細い指を軽く組んで乳母へ語り掛ける。
「私としては、結婚前に破談になったお陰で傷が浅く済んで、むしろ有り難いと考えているのだけれど」
「ですが、お嬢様のお立場が」
乳母はなおも食い下がる。
どうやら『自分の大切なお嬢様』がコケにされた事が我慢ならないらしい。セレネアは困った様に微笑んで乳母を諭した。
「それに、こうして仕事をしている方が私は好きなの。『女が領地の運営に口を出すなんてけしからん』と煙たがられるかもしれないけれど」
「とんでもございません!お嬢様の手腕は誰もが認めるところ。お嬢様に治めて頂けるこの領地の民は幸せ者です!」
拳を握って力説する乳母に、セレネアはにっこり笑って「ありがとう」と告げた。お茶のお代わりを頼んで乳母を下がらせる。
静かになった執務室で、セレネアは窓の外を振り仰いだ。長い白銀色の髪が動きに合わせて揺れ、日差しを含んで淡く輝く。
伯爵令嬢として生を受け、民からの税によって生かされる身である以上、己に課せられた義務は果たす覚悟で生きてきた。
ギュリス王子との婚約もその一つだ。
王家へ嫁ぎ、世継ぎを成す。それは王家から、伯爵家から、国民から期待された、セレネアにしか成し得ない責務。そう、思っていた。
しかしギュリスはそうではなかった。ただ、それだけの事。
『王子から婚約解消された哀れな令嬢』と好奇の目にさらされるのは避けられない。社交界では口さがのない噂も広がるだろう。
幸いにもセレネアの頭脳や手腕を高く評価してくれている男性達もいる。彼らの中から結婚相手を選び、共に領地を治めるのも悪くないとセレネアは考えていた。
「リサーナ様を王妃に迎える決定に、家臣からは不満の声が上がっている。異母兄妹の結婚に、民に困惑が広がるのも時間の問題。それでもギュリス様は突き進むのでしょうね」
窓辺へ歩み寄ったセレネアは青い目を細める。
胸元に掌を押し当てると、普段より強く早く脈打つ鼓動が感じられた。ギュリスとリサーナに待ち受ける未来を想像するだけで期待に胸が高鳴る。
「国を、民を巻き込んだ、その許されぬ愛の結末。見届けさせて頂きますわーー最後まで」
己の体を掻き抱いたセレネアは夢見る様に囁いて、紅い唇にうっそりとした微笑を浮かべた。
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