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婚約者を妹に奪われた結果、本命との恋が叶いました
前編
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「俺の新たな婚約者を皆に紹介しよう。フィアナ・ローゼルトだ」
華やかなパーティー会場に、十八歳の第六王子・ラルドの声が響く。歓談に興じていた貴族達が一斉に顔を上げた。一拍の間を置いて、どよめきが場を満たす。
会場内の視線を一気に集めたラルドは、傍らに立つ少女・フィアナの柳腰を抱いて引き寄せた。フィアナは青い瞳をキラキラ輝かせてラルド王子を見上げた後、これ見よがしに体を密着させる。
幸せそうに微笑み合う二人の前に、一人の女性が進み出た。フィアナと似た顔立ちの女性は、唇を引き結んで壇上の二人を睨め付ける。
「サリーネお姉様・・・・・・」
その眼差しに気圧されたフィアナが青褪めた顔で女性の名を呟く。後退ったフィアナを背後に庇い、王子が前へ進み出た。
「何か意見があるのか?サリーネ・ローゼルト」
ラルド王子は傲然たる態度でサリーネを見下し、端正な顔に愉しげな笑みを浮かべる。サリーネは両手を握り締め、震える声を絞り出す。
「ラルド王子、つまりわたくしとの婚約は解消なさると?」
「そうだ」
間髪入れず肯定されて、サリーネの肩がびくりと跳ねる。長い金髪が、心の内を表すかの様に揺れた。
ラルド王子とサリーネの婚約は、政治的な思惑の結果だ。同い年の男女とは言え、そこに恋や愛は存在しないと教え込まれてきたし、王子に愛されない覚悟は出来ていた……出来ていた、つもりだった。
だが、自分が得られなかった王子の愛を、二歳年下の妹が得たとなれば話は別だ。
「国王陛下のお許しは」
「勿論得ているとも」
サリーネの懸念を、ラルドは当然とばかりに一笑に付す。
国王にとって、第六王子は末子にあたる。他の王子達を厳しく育ててきた後悔があるのか、あるいは孫ほどに年が離れているからなのか、国王はこの第六王子に甘かった。ラルドもそれを承知しており、我儘が散見される。
それでも政略結婚である以上、『嫌いだから』『相手が不細工だから』程度の理由では婚約解消など罷り通らない。たとえ王子であってもーー否、王子であるなら尚更。
「ローゼルト伯爵家から婚約者を迎える事に変わりない。問題は無かろう?」
堂々と言い放たれて、サリーネは青い瞳を眇める。
国王に可愛がられている王子と言えど、他家の令嬢では国王も認めない可能性が高い。でもローゼルト伯爵家の令嬢であれば長女ではなく次女でも国王は反対しないはずーーなどと思い付くほどの知恵を、この王子が持ち合わせているとは到底思えない。
「急な婚約解消の詫びとして、お前にはエルラム辺境伯を新たな婚約者として推薦しておいた」
挙げられた名に、会場の人々から悲鳴に近い声が上がった。サリーネも顔色を変えてその身を慄かせる。
辺境伯ガトー・エルラム、またの名を半獣人伯ガトー・エルラム。辺境で国防を任された、文字通り半人半獣の伯爵だ。
結婚していて然るべき地位と年齢であるにも関わらず、その獣じみて人間離れした風貌を恐れられて未だに婚約者すら決まっていない、言わば曰く付きの。
くすり、と小さく笑う声が聞こえた気がして、サリーネは顔を上げた。ラルド王子の背後に隠れる、青色の瞳と視線がぶつかる。
鮮やかな紅で彩られたフィアナの唇は、笑みの形をしていた。彼女の勝ち誇ったかの様な表情を見て、サリーネは悟る。
王子に入れ知恵をしたのは、フィアナだったのか。
しかし、それが分かったところでもう遅い。
サリーネは胸の前で組んだ指にきつく力を込めた。ゆっくり息を吐きながら、胸中に渦巻く怒りを懸命に鎮める。
「それが、王家の決定であるならば」
伯爵令嬢としてのプライドを総動員して全ての激情を飲み込むと、優雅に一礼してみせた。
華やかなパーティー会場に、十八歳の第六王子・ラルドの声が響く。歓談に興じていた貴族達が一斉に顔を上げた。一拍の間を置いて、どよめきが場を満たす。
会場内の視線を一気に集めたラルドは、傍らに立つ少女・フィアナの柳腰を抱いて引き寄せた。フィアナは青い瞳をキラキラ輝かせてラルド王子を見上げた後、これ見よがしに体を密着させる。
幸せそうに微笑み合う二人の前に、一人の女性が進み出た。フィアナと似た顔立ちの女性は、唇を引き結んで壇上の二人を睨め付ける。
「サリーネお姉様・・・・・・」
その眼差しに気圧されたフィアナが青褪めた顔で女性の名を呟く。後退ったフィアナを背後に庇い、王子が前へ進み出た。
「何か意見があるのか?サリーネ・ローゼルト」
ラルド王子は傲然たる態度でサリーネを見下し、端正な顔に愉しげな笑みを浮かべる。サリーネは両手を握り締め、震える声を絞り出す。
「ラルド王子、つまりわたくしとの婚約は解消なさると?」
「そうだ」
間髪入れず肯定されて、サリーネの肩がびくりと跳ねる。長い金髪が、心の内を表すかの様に揺れた。
ラルド王子とサリーネの婚約は、政治的な思惑の結果だ。同い年の男女とは言え、そこに恋や愛は存在しないと教え込まれてきたし、王子に愛されない覚悟は出来ていた……出来ていた、つもりだった。
だが、自分が得られなかった王子の愛を、二歳年下の妹が得たとなれば話は別だ。
「国王陛下のお許しは」
「勿論得ているとも」
サリーネの懸念を、ラルドは当然とばかりに一笑に付す。
国王にとって、第六王子は末子にあたる。他の王子達を厳しく育ててきた後悔があるのか、あるいは孫ほどに年が離れているからなのか、国王はこの第六王子に甘かった。ラルドもそれを承知しており、我儘が散見される。
それでも政略結婚である以上、『嫌いだから』『相手が不細工だから』程度の理由では婚約解消など罷り通らない。たとえ王子であってもーー否、王子であるなら尚更。
「ローゼルト伯爵家から婚約者を迎える事に変わりない。問題は無かろう?」
堂々と言い放たれて、サリーネは青い瞳を眇める。
国王に可愛がられている王子と言えど、他家の令嬢では国王も認めない可能性が高い。でもローゼルト伯爵家の令嬢であれば長女ではなく次女でも国王は反対しないはずーーなどと思い付くほどの知恵を、この王子が持ち合わせているとは到底思えない。
「急な婚約解消の詫びとして、お前にはエルラム辺境伯を新たな婚約者として推薦しておいた」
挙げられた名に、会場の人々から悲鳴に近い声が上がった。サリーネも顔色を変えてその身を慄かせる。
辺境伯ガトー・エルラム、またの名を半獣人伯ガトー・エルラム。辺境で国防を任された、文字通り半人半獣の伯爵だ。
結婚していて然るべき地位と年齢であるにも関わらず、その獣じみて人間離れした風貌を恐れられて未だに婚約者すら決まっていない、言わば曰く付きの。
くすり、と小さく笑う声が聞こえた気がして、サリーネは顔を上げた。ラルド王子の背後に隠れる、青色の瞳と視線がぶつかる。
鮮やかな紅で彩られたフィアナの唇は、笑みの形をしていた。彼女の勝ち誇ったかの様な表情を見て、サリーネは悟る。
王子に入れ知恵をしたのは、フィアナだったのか。
しかし、それが分かったところでもう遅い。
サリーネは胸の前で組んだ指にきつく力を込めた。ゆっくり息を吐きながら、胸中に渦巻く怒りを懸命に鎮める。
「それが、王家の決定であるならば」
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