4 / 260
第4話 ネリファルース・ツワッド
しおりを挟む
美しい女性。
いや、ネリファルース・ツワッド。
かつて『ネル』と呼んでいた女性が口を開いた。
「ノアーナ・イル・グランギアドール様。いえ極帝の魔王ノアーナ様」
「…ネル?なにがあった?俺、いや俺は…?いや、これはどういう状態だ?」
彼女のことは認識できた。
自分のことも何となくだが分かる。
だがまるで覚めた瞬間に消えてしまった夢のように、数瞬前の記憶があやふやになっていく。
非常に似合っている黒を基調とした蠱惑的なメイド服を身に纏っている、ネリファルース・ツワッド『ネル』は見惚れるほど美しい所作でカーテシーをし、すっと背筋を伸ばし先ほどの恐ろしい雰囲気が嘘だったかのような、蕩けるような柔らかな表情で微笑かけてきた。
「ノアーナ様とお呼びしても?」
「…ああ、うん。かまわない。なにか違和感がある…けど…」
「おそらく1割かと」
「1割?……なんだそれは?」
「ノアーナ様の現在の『存在』が。でございます。おそらく散り散りにされたあなた様の存在の1割程度しか、今ここにはないのでは、と」
美しい所作で紅茶のお代わりを注いでくれる。
芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
「ただ『本体』であるあなた様の心の真核『佐山光喜様』がこちらへの強制送還の秘術により復帰されたため、一応の整合性が保たれノアーナ様としての自我がごく一部ではありますが、奇跡的に安定されたのではないか、と愚考するところでございます」
存在が散り散り?
…真核!?
…強制送還の秘術?
情報が多すぎて理解ができない。
確かに今も何かとても古い記憶が刺激されているような気はする、が。
覚めてしまった夢のように認識できなくなってしまった。
どうやら俺はとてつもない存在で何かに滅ぼされ、ご丁寧に魂と呼ばれるものまでもバラバラにされ、時間・次元・概念の異なる場所へと飛ばされたらしい。
ネル、彼女はどうやら俺の部下だったらしいが、ノイズが走り詳しくは思い出せない。
見た瞬間、というか触れられて記憶が刻まれたときに認識できたが、今は…
自分も確かにすごく偉そうな存在だったような気が…する…!?
???
あれっ?
なんか冷静になってきたら…えっ?!
えっ、なんで俺こんなに奇麗で可愛い子とお茶しながら話してるの???
ていうか、何だこれ???
異世界転生???
まじか?
なんのラノベだこれ!?
ちょっと落ち着こうか。
まずは現状の確認からだな。
うん。
えーっと……
俺は佐山光喜37歳。
よしっ、大丈夫。
自分の名前は分かっている。
陰キャで童貞、社畜でブラック企業にいいように扱われ、常に不運に見舞われ、死ぬほどの残業を繰り返し、今日は取引先のコンペで佐々木部長と…って!?
思わずテーブルに手をつき立ち上がってしまった。
「あのっ、ネル…さん?すみません。俺は死んだのですかね?ここは東京ではないですよね?えっと、さっきは混乱していて……なんか偉そうに話していましたけど。あのお…」
俺が話し始めると、ネルさんの表情がみるみる曇っていった。
心なしか小刻みに震えているようにも見える。
さっきまでの非現実的な存在は、少しばかり身近に感じた。
認識したからかな?
「あのおー、えっと……」
「あっ、ああああっ!?…何てこと?ノアーナ様の存在が小さく…どうすれば!?…ノアーナ様っ!…あああ、ううう…ヒック…グスッ……」
突然泣き出したネルさん。
俺はどうしていいかわからずに茫然となってしまった。
もちろん抱きしめてあげたり「大丈夫だよ。俺に任せろ!」なんて気の利いた行動も、セリフも吐けるはずもなく、一緒に立ち尽くすだけであったのは言うまでもない。
いや、ネリファルース・ツワッド。
かつて『ネル』と呼んでいた女性が口を開いた。
「ノアーナ・イル・グランギアドール様。いえ極帝の魔王ノアーナ様」
「…ネル?なにがあった?俺、いや俺は…?いや、これはどういう状態だ?」
彼女のことは認識できた。
自分のことも何となくだが分かる。
だがまるで覚めた瞬間に消えてしまった夢のように、数瞬前の記憶があやふやになっていく。
非常に似合っている黒を基調とした蠱惑的なメイド服を身に纏っている、ネリファルース・ツワッド『ネル』は見惚れるほど美しい所作でカーテシーをし、すっと背筋を伸ばし先ほどの恐ろしい雰囲気が嘘だったかのような、蕩けるような柔らかな表情で微笑かけてきた。
「ノアーナ様とお呼びしても?」
「…ああ、うん。かまわない。なにか違和感がある…けど…」
「おそらく1割かと」
「1割?……なんだそれは?」
「ノアーナ様の現在の『存在』が。でございます。おそらく散り散りにされたあなた様の存在の1割程度しか、今ここにはないのでは、と」
美しい所作で紅茶のお代わりを注いでくれる。
芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。
「ただ『本体』であるあなた様の心の真核『佐山光喜様』がこちらへの強制送還の秘術により復帰されたため、一応の整合性が保たれノアーナ様としての自我がごく一部ではありますが、奇跡的に安定されたのではないか、と愚考するところでございます」
存在が散り散り?
…真核!?
…強制送還の秘術?
情報が多すぎて理解ができない。
確かに今も何かとても古い記憶が刺激されているような気はする、が。
覚めてしまった夢のように認識できなくなってしまった。
どうやら俺はとてつもない存在で何かに滅ぼされ、ご丁寧に魂と呼ばれるものまでもバラバラにされ、時間・次元・概念の異なる場所へと飛ばされたらしい。
ネル、彼女はどうやら俺の部下だったらしいが、ノイズが走り詳しくは思い出せない。
見た瞬間、というか触れられて記憶が刻まれたときに認識できたが、今は…
自分も確かにすごく偉そうな存在だったような気が…する…!?
???
あれっ?
なんか冷静になってきたら…えっ?!
えっ、なんで俺こんなに奇麗で可愛い子とお茶しながら話してるの???
ていうか、何だこれ???
異世界転生???
まじか?
なんのラノベだこれ!?
ちょっと落ち着こうか。
まずは現状の確認からだな。
うん。
えーっと……
俺は佐山光喜37歳。
よしっ、大丈夫。
自分の名前は分かっている。
陰キャで童貞、社畜でブラック企業にいいように扱われ、常に不運に見舞われ、死ぬほどの残業を繰り返し、今日は取引先のコンペで佐々木部長と…って!?
思わずテーブルに手をつき立ち上がってしまった。
「あのっ、ネル…さん?すみません。俺は死んだのですかね?ここは東京ではないですよね?えっと、さっきは混乱していて……なんか偉そうに話していましたけど。あのお…」
俺が話し始めると、ネルさんの表情がみるみる曇っていった。
心なしか小刻みに震えているようにも見える。
さっきまでの非現実的な存在は、少しばかり身近に感じた。
認識したからかな?
「あのおー、えっと……」
「あっ、ああああっ!?…何てこと?ノアーナ様の存在が小さく…どうすれば!?…ノアーナ様っ!…あああ、ううう…ヒック…グスッ……」
突然泣き出したネルさん。
俺はどうしていいかわからずに茫然となってしまった。
もちろん抱きしめてあげたり「大丈夫だよ。俺に任せろ!」なんて気の利いた行動も、セリフも吐けるはずもなく、一緒に立ち尽くすだけであったのは言うまでもない。
28
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる