92 / 260
第92話 おれは「ナハムザート・レイオン」
しおりを挟む
(新星歴4817年8月10日)
四季のあるファルスーノルン星ではこの時期やはり暑い。
どうしても麗しい女性たちが薄着になるため、世の純情で健康な男子は目のやり場に困る季節だ。
あの事件以来、かなりの広がりを見せた『オーブ』によるきっかけから始まる騒動。
回収された後もなお、少なくない影響をこの星に住む住民たちに与えていた。
つまり節制の効かない人たちが目立ち始めていた。
レイノート大陸の北部に位置する火の神を奉るナグラシア大国も、その影響が露見し始めていた。
ナグラシア王国は、火の神であるアグアニードの性格を反映したような、強さがかなりの権力を持たせる国民性を有している。
現在の王ガランド・ジスターブも少数しか現存していない『火喰い族』と呼ばれる特殊能力を有する種族の猛者で、存在値は4000を超える。
正に人外の強さを誇っていた。
因みに眷族の第10席に名を連ねている。
『お前はさー王様だろー。いつも呼べないからーそんくらいだなー』
とか言われて悔しかったのを覚えている。
実力はイアードに次ぐ2番目なのだが。
王の在任期間は決まっていない。
問題がない限りはアグアニードが決めるまでは変わらないからだ。
細かい規律や内政については天才のアースノートが、ゲームで負けた時の条件で草案を作成していた。
つまりあり得ないほど効率的で、意外にも国力は非常に高く、住民も幸せに暮らしていた。
※※※※※
「おいっ!!良いから今夜は俺に付き合えやっ!……へへへっ、たっぷり可愛がってやるからよ~」
見るからに野蛮そうな男が、兎獣人族の可愛い女の子の腕をつかみ強引にナンパしていた。
「いやっ、放してください。わたしはそんなつもりじゃ………」
食事処でウエイトレスをしている兎獣人ミンはこの店の看板娘だ。
頭から覗くうさ耳は可愛らしく、大きめの赤っぽい瞳がチャーミングだ。
小さな鼻に、薄いピンクの唇が可愛らしさに拍車をかける。
茶色の髪を丁寧に結いこんであり、清楚な雰囲気の16歳くらいの女の子だ。
店長の趣味かどうかはわからないが、ピチピチの白いTシャツは胸部を強調している。
短いズボンから覗く白く美しい長い脚は、いつも視線を感じるほどだ。
清楚な顔に、煽情的な体のアンバランスさが、集客に大きな影響を与えているのは言うまでもない。
まあ、若い男性に限っての事ではあるが。
「さっきから俺様を熱い瞳で見つめておいて、いまさらそんなこと言ったって、俺様はもう我慢できないんだよ」
昼間なのにエールを飲んで酔っぱらっているらしい。
赤い顔をした男の欲望はますます膨らんでいった。
そう言って掴んでいる腕を強引に自分に引き寄せる。
はずみで思わず抱き着く格好になってしまう。
強調された胸が座っている男の顔に当たってしまった。
「へへへっ、いいもん持ってんじゃねえか」
男はいきなりわしづかみにし、手をいやらしく動かす。
「痛っ!!……いや……離して……」
夜のお店でない食堂でのトラブルに、他のお客は固まってしまった。
「イヤッ………いやあ……グスッ………ひっく……」
思わず泣きだすミン。
そこへ颯爽と2mはあるドラゴニュートが扉を開けて駆け付けた。
ドラゴニュートは男の手をつかみ、ねじるようにひねった。
「グアッ!イデデデデデ、てっ、てめえ!何しやがる!!!」
堪らず床に転がる男、大きな足の蹴りが男の腹にめり込む。
「ぐはっ……おえええ―――」
「お嬢さん、大丈夫かい?まったく昼間から盛りやがって」
ドラゴニュートは優しく手を取りミンを立たせてあげた。
見た目にそぐわぬ紳士的対応に思わずミンは顔を染める。
「あ、ありがとうございました……助けてくれて……ヒック、ぐすっ……」
怖かったのだろう。
安心してまた涙が止まらなくなってしまった。
「おい店主!!少しは衣装考えてやれ!こんな格好じゃコイツみたいな馬鹿がわんさか出るぞ。ただでさえ暑いんだ。何ならお前がパンイチで接客してみろ。気持ちがわかるだろうよ」
思わず店内に笑いが起こる。
嫌な雰囲気が一掃された。
「いやー、俺がパンイチって、店潰れちゃいますよ?」
店主の一言がさらに笑いを誘うのだった。
野蛮な男は警ら中の自警団に連行されていった。
※※※※※
ドラゴニュートの男は、大盛りのパスタに舌鼓を打っていた。
お礼だからと聞かない店主のおごりだ。
「なあ店主。こんなに旨いんだ。あの子の格好考えてやれよ。うまい飯だけだって十分客は来るだろうに。むしろ清楚なあの子に似合う格好にしてみろ。女性客だって増えるぞ」
この店の男性率は異常だった。
まるでガールズバーのようなウエイトレスの格好に多くの住民が引いていた。
「うっす。ありがとうございます兄貴」
「誰がお前の兄貴だ」
「いやー、さっきは本当格好良かったです。男の俺も惚れちゃいますよ」
「冗談は顔だけにしろ」
そんなやり取りを、ミンは熱のこもった瞳で見つめていた。
「兄貴、せめて名前だけでも教えてくださいよ。ミンの親にも知らせないと」
「そんなつもりじゃねえんだ。たまたまだ。気にすんな」
ドラゴニュートの男はそういって席を立った。
ミンと思わず目が合う。
「お嬢さん、店主が改善してくれるだろうから、怖いと思うが頑張ってみてくれ。次来た時にお嬢さんがいなかったら少し寂しいからな………もし改善しなかったら俺がまた言ってやるから」
そう言って豪快に笑い「旨かった」と言って男は店を後にした。
「兄貴かっけー」
店主のつぶやきがミンの耳にいつまでも残っていた。
※※※※※
彼の名はナハムザート・レイオン。
92歳のドラゴニュートだ。
長寿の種族故、見た目は20代後半だ。
まあ、ドラゴン顔でいまいち判断はつきにくいが。
存在値は1200を超えており、ドラゴニュートの中では相当の猛者だ。
オレンジ色の眼光を宿し、世の中の悪意を滅ぼす旅を続けていた。
自分の犯した罪を少しでも償うために。
天命を全うするために。
彼は2か月ほど前、騎士団の仲間を20人以上自らの手で殺していた。
※※※※※
(新星歴4817年6月8日)
武を貴ぶナグラシア王国において、力比べはどこの組織でも取り入れられており、回復魔法が普通にあるこの世界では、結構な大けがを伴う模擬戦もしょっちゅう行われていた。
王であるガランドの通達により、回復士がいない所では禁止されていたが、慣れているためそこまで徹底されていないのが実情だったりもするのだが。
国防軍第3部隊の小隊長として任命されていたナハムザートは、この日同じ小隊長を務める魔族ハルミット・カムサルから訓練場へ向かう通路で対抗戦の打診を受けていた。
ハルミットの親は王国で副将軍の座に就く実力者で尊敬できる人だが、こいつは親の威光を笠に、くだらないことをする小物だった。
恵まれた種族にもかかわらず、存在値は400ほどしかない。
ナハムザートに出世欲などはみじんもなかったが、対極に位置するコイツの嫌がらせにはほとほと嫌気がさしていた。
「なああ、ナハムザート。たまにはガチンコで勝負しないか?お前ら強いくせにいつも手加減するからなまりまくってるじゃねえか」
「ああ?馬鹿野郎。俺たちは条件つけて訓練してんだ。お前たちみたいにみだらに力を誇示したりはしないんだよ」
「はあ…さすがお強い皆さんは言うことが違うねえ。たった7人の小隊のくせにお強いもんなあ……いいさ、怖いなら怖いって素直に言えばいいのによおお!」
聞き捨てならない言葉に、思わず反応してしまった。
いつもならこんなたわごと、気にもしないのに。
「ああ?怖いだと?ばかばかしい。そんなはずないだろうが。お前らじゃ相手にならねえって言ってんだよ」
「そんなに言うなら試してみればいいじゃねえか。ほら、いつでも相手になってやんよ!!…今頃お前たちの連中もひどい目にあってなきゃいいけどなあ!!」
いつも俺の顔色を見ておどおどしているコイツにしては態度がおかしい。
少し冷静になったナハムザートはハルミットの言葉に嫌な予感がし、踵を返して自分の詰め所へと向かった。
そして、詰め所で起こっていた事態に固まってしまった。
ハルミットの部下3人が、ナハムザートの部下であるエルフ族のミュイムストを凌辱していたのだ。
その周りには武装したハルミットの部下10人ほどと、血だらけで息絶えた5人の部下がころがされていた。
「!?……何を……」
後ろから嘲り笑う声が近づいて来た。
10人ほど武装した男たちを連れて。
「だからあ、なまりまくってるって言っただろ?奇襲ですぐ死ぬんだからなあ」
そう言って死んでいる部下を蹴り飛ばした。
おもむろに凌辱されているミュイムストの髪の毛をつかみ、無理やり立たせ、胸をわしづかみにする。
「可哀そうになあア…隊長様が頼りなくてよお『隊長、助けて』ってさんざん泣いていたのによお。へへっ、まあいい味だったぜえ」
そして床にたたきつける。
ナハムザートの視界が怒りで真っ赤に染まった。
※※※※※
気が付いた時、ナハムザートの詰め所には地獄が広がっていた。
ハルミットだったものは四肢をもぎ取られ、原形をとどめていないものも多く、辺りは咽かえるような血の匂いが充満していた。
自分以外に動く者はおらず、傍らには息絶えたミュイムストが倒れていた。
ナハムザートは膝から崩れ落ち、咆哮を上げる。
途中から感じた、力をふるう快感に、気が狂いそうになる後悔を乗せて。
憎さが爆発し、歯止めが利かなくなる心におびえながら。
※※※※※
「あー、大丈夫―?見た感じお前は悪くないよー。だからあんまり気にしないで―」
ひとしきり泣いて茫然としていたナハムザートは、突然声を掛けられ我を取り戻した。
「っ!??」
跪くナハムザート。
そこには火の神アグアニードが佇んでいた。
「…まあ、今回のことは、お前のせいではない。真核を見ればわかる……せめて弔ってやれ」
「はっ!」
アグアニードはナハムザートの肩に手を置き、優しく口を開いた。
「しばらく休むといい。お前の心の中の悪意は取り除いた。王には俺から言っておく」
そして神は姿を消した。
ナハムザートは駆け付けたほかの小隊の仲間とともに、大切な部下と憎いアイツらをとりあえず弔ったのだった。
※※※※※
王には止められたが、ナハムザートは自ら責任を取り、軍を抜けた。
あの後ひょっこり神が自分に会いに来て驚いたりもしたが。
理由は教えてくれなかったが、制限できずに暴れる人族が増えているらしい。
それから俺には何か因子があるらしく、強い心でいれば呑まれないらしいと言われた。
これは天命だ。
俺はナハムザート・レイオン。
世界を回り、悪意を滅ぼす旅に出る。
この誓いを忘れないために。
四季のあるファルスーノルン星ではこの時期やはり暑い。
どうしても麗しい女性たちが薄着になるため、世の純情で健康な男子は目のやり場に困る季節だ。
あの事件以来、かなりの広がりを見せた『オーブ』によるきっかけから始まる騒動。
回収された後もなお、少なくない影響をこの星に住む住民たちに与えていた。
つまり節制の効かない人たちが目立ち始めていた。
レイノート大陸の北部に位置する火の神を奉るナグラシア大国も、その影響が露見し始めていた。
ナグラシア王国は、火の神であるアグアニードの性格を反映したような、強さがかなりの権力を持たせる国民性を有している。
現在の王ガランド・ジスターブも少数しか現存していない『火喰い族』と呼ばれる特殊能力を有する種族の猛者で、存在値は4000を超える。
正に人外の強さを誇っていた。
因みに眷族の第10席に名を連ねている。
『お前はさー王様だろー。いつも呼べないからーそんくらいだなー』
とか言われて悔しかったのを覚えている。
実力はイアードに次ぐ2番目なのだが。
王の在任期間は決まっていない。
問題がない限りはアグアニードが決めるまでは変わらないからだ。
細かい規律や内政については天才のアースノートが、ゲームで負けた時の条件で草案を作成していた。
つまりあり得ないほど効率的で、意外にも国力は非常に高く、住民も幸せに暮らしていた。
※※※※※
「おいっ!!良いから今夜は俺に付き合えやっ!……へへへっ、たっぷり可愛がってやるからよ~」
見るからに野蛮そうな男が、兎獣人族の可愛い女の子の腕をつかみ強引にナンパしていた。
「いやっ、放してください。わたしはそんなつもりじゃ………」
食事処でウエイトレスをしている兎獣人ミンはこの店の看板娘だ。
頭から覗くうさ耳は可愛らしく、大きめの赤っぽい瞳がチャーミングだ。
小さな鼻に、薄いピンクの唇が可愛らしさに拍車をかける。
茶色の髪を丁寧に結いこんであり、清楚な雰囲気の16歳くらいの女の子だ。
店長の趣味かどうかはわからないが、ピチピチの白いTシャツは胸部を強調している。
短いズボンから覗く白く美しい長い脚は、いつも視線を感じるほどだ。
清楚な顔に、煽情的な体のアンバランスさが、集客に大きな影響を与えているのは言うまでもない。
まあ、若い男性に限っての事ではあるが。
「さっきから俺様を熱い瞳で見つめておいて、いまさらそんなこと言ったって、俺様はもう我慢できないんだよ」
昼間なのにエールを飲んで酔っぱらっているらしい。
赤い顔をした男の欲望はますます膨らんでいった。
そう言って掴んでいる腕を強引に自分に引き寄せる。
はずみで思わず抱き着く格好になってしまう。
強調された胸が座っている男の顔に当たってしまった。
「へへへっ、いいもん持ってんじゃねえか」
男はいきなりわしづかみにし、手をいやらしく動かす。
「痛っ!!……いや……離して……」
夜のお店でない食堂でのトラブルに、他のお客は固まってしまった。
「イヤッ………いやあ……グスッ………ひっく……」
思わず泣きだすミン。
そこへ颯爽と2mはあるドラゴニュートが扉を開けて駆け付けた。
ドラゴニュートは男の手をつかみ、ねじるようにひねった。
「グアッ!イデデデデデ、てっ、てめえ!何しやがる!!!」
堪らず床に転がる男、大きな足の蹴りが男の腹にめり込む。
「ぐはっ……おえええ―――」
「お嬢さん、大丈夫かい?まったく昼間から盛りやがって」
ドラゴニュートは優しく手を取りミンを立たせてあげた。
見た目にそぐわぬ紳士的対応に思わずミンは顔を染める。
「あ、ありがとうございました……助けてくれて……ヒック、ぐすっ……」
怖かったのだろう。
安心してまた涙が止まらなくなってしまった。
「おい店主!!少しは衣装考えてやれ!こんな格好じゃコイツみたいな馬鹿がわんさか出るぞ。ただでさえ暑いんだ。何ならお前がパンイチで接客してみろ。気持ちがわかるだろうよ」
思わず店内に笑いが起こる。
嫌な雰囲気が一掃された。
「いやー、俺がパンイチって、店潰れちゃいますよ?」
店主の一言がさらに笑いを誘うのだった。
野蛮な男は警ら中の自警団に連行されていった。
※※※※※
ドラゴニュートの男は、大盛りのパスタに舌鼓を打っていた。
お礼だからと聞かない店主のおごりだ。
「なあ店主。こんなに旨いんだ。あの子の格好考えてやれよ。うまい飯だけだって十分客は来るだろうに。むしろ清楚なあの子に似合う格好にしてみろ。女性客だって増えるぞ」
この店の男性率は異常だった。
まるでガールズバーのようなウエイトレスの格好に多くの住民が引いていた。
「うっす。ありがとうございます兄貴」
「誰がお前の兄貴だ」
「いやー、さっきは本当格好良かったです。男の俺も惚れちゃいますよ」
「冗談は顔だけにしろ」
そんなやり取りを、ミンは熱のこもった瞳で見つめていた。
「兄貴、せめて名前だけでも教えてくださいよ。ミンの親にも知らせないと」
「そんなつもりじゃねえんだ。たまたまだ。気にすんな」
ドラゴニュートの男はそういって席を立った。
ミンと思わず目が合う。
「お嬢さん、店主が改善してくれるだろうから、怖いと思うが頑張ってみてくれ。次来た時にお嬢さんがいなかったら少し寂しいからな………もし改善しなかったら俺がまた言ってやるから」
そう言って豪快に笑い「旨かった」と言って男は店を後にした。
「兄貴かっけー」
店主のつぶやきがミンの耳にいつまでも残っていた。
※※※※※
彼の名はナハムザート・レイオン。
92歳のドラゴニュートだ。
長寿の種族故、見た目は20代後半だ。
まあ、ドラゴン顔でいまいち判断はつきにくいが。
存在値は1200を超えており、ドラゴニュートの中では相当の猛者だ。
オレンジ色の眼光を宿し、世の中の悪意を滅ぼす旅を続けていた。
自分の犯した罪を少しでも償うために。
天命を全うするために。
彼は2か月ほど前、騎士団の仲間を20人以上自らの手で殺していた。
※※※※※
(新星歴4817年6月8日)
武を貴ぶナグラシア王国において、力比べはどこの組織でも取り入れられており、回復魔法が普通にあるこの世界では、結構な大けがを伴う模擬戦もしょっちゅう行われていた。
王であるガランドの通達により、回復士がいない所では禁止されていたが、慣れているためそこまで徹底されていないのが実情だったりもするのだが。
国防軍第3部隊の小隊長として任命されていたナハムザートは、この日同じ小隊長を務める魔族ハルミット・カムサルから訓練場へ向かう通路で対抗戦の打診を受けていた。
ハルミットの親は王国で副将軍の座に就く実力者で尊敬できる人だが、こいつは親の威光を笠に、くだらないことをする小物だった。
恵まれた種族にもかかわらず、存在値は400ほどしかない。
ナハムザートに出世欲などはみじんもなかったが、対極に位置するコイツの嫌がらせにはほとほと嫌気がさしていた。
「なああ、ナハムザート。たまにはガチンコで勝負しないか?お前ら強いくせにいつも手加減するからなまりまくってるじゃねえか」
「ああ?馬鹿野郎。俺たちは条件つけて訓練してんだ。お前たちみたいにみだらに力を誇示したりはしないんだよ」
「はあ…さすがお強い皆さんは言うことが違うねえ。たった7人の小隊のくせにお強いもんなあ……いいさ、怖いなら怖いって素直に言えばいいのによおお!」
聞き捨てならない言葉に、思わず反応してしまった。
いつもならこんなたわごと、気にもしないのに。
「ああ?怖いだと?ばかばかしい。そんなはずないだろうが。お前らじゃ相手にならねえって言ってんだよ」
「そんなに言うなら試してみればいいじゃねえか。ほら、いつでも相手になってやんよ!!…今頃お前たちの連中もひどい目にあってなきゃいいけどなあ!!」
いつも俺の顔色を見ておどおどしているコイツにしては態度がおかしい。
少し冷静になったナハムザートはハルミットの言葉に嫌な予感がし、踵を返して自分の詰め所へと向かった。
そして、詰め所で起こっていた事態に固まってしまった。
ハルミットの部下3人が、ナハムザートの部下であるエルフ族のミュイムストを凌辱していたのだ。
その周りには武装したハルミットの部下10人ほどと、血だらけで息絶えた5人の部下がころがされていた。
「!?……何を……」
後ろから嘲り笑う声が近づいて来た。
10人ほど武装した男たちを連れて。
「だからあ、なまりまくってるって言っただろ?奇襲ですぐ死ぬんだからなあ」
そう言って死んでいる部下を蹴り飛ばした。
おもむろに凌辱されているミュイムストの髪の毛をつかみ、無理やり立たせ、胸をわしづかみにする。
「可哀そうになあア…隊長様が頼りなくてよお『隊長、助けて』ってさんざん泣いていたのによお。へへっ、まあいい味だったぜえ」
そして床にたたきつける。
ナハムザートの視界が怒りで真っ赤に染まった。
※※※※※
気が付いた時、ナハムザートの詰め所には地獄が広がっていた。
ハルミットだったものは四肢をもぎ取られ、原形をとどめていないものも多く、辺りは咽かえるような血の匂いが充満していた。
自分以外に動く者はおらず、傍らには息絶えたミュイムストが倒れていた。
ナハムザートは膝から崩れ落ち、咆哮を上げる。
途中から感じた、力をふるう快感に、気が狂いそうになる後悔を乗せて。
憎さが爆発し、歯止めが利かなくなる心におびえながら。
※※※※※
「あー、大丈夫―?見た感じお前は悪くないよー。だからあんまり気にしないで―」
ひとしきり泣いて茫然としていたナハムザートは、突然声を掛けられ我を取り戻した。
「っ!??」
跪くナハムザート。
そこには火の神アグアニードが佇んでいた。
「…まあ、今回のことは、お前のせいではない。真核を見ればわかる……せめて弔ってやれ」
「はっ!」
アグアニードはナハムザートの肩に手を置き、優しく口を開いた。
「しばらく休むといい。お前の心の中の悪意は取り除いた。王には俺から言っておく」
そして神は姿を消した。
ナハムザートは駆け付けたほかの小隊の仲間とともに、大切な部下と憎いアイツらをとりあえず弔ったのだった。
※※※※※
王には止められたが、ナハムザートは自ら責任を取り、軍を抜けた。
あの後ひょっこり神が自分に会いに来て驚いたりもしたが。
理由は教えてくれなかったが、制限できずに暴れる人族が増えているらしい。
それから俺には何か因子があるらしく、強い心でいれば呑まれないらしいと言われた。
これは天命だ。
俺はナハムザート・レイオン。
世界を回り、悪意を滅ぼす旅に出る。
この誓いを忘れないために。
0
あなたにおすすめの小説
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
転生したら遊び人だったが遊ばず修行をしていたら何故か最強の遊び人になっていた
ぐうのすけ
ファンタジー
カクヨムで先行投稿中。
遊戯遊太(25)は会社帰りにふらっとゲームセンターに入った。昔遊んだユーフォーキャッチャーを見つめながらつぶやく。
「遊んで暮らしたい」その瞬間に頭に声が響き時間が止まる。
「異世界転生に興味はありますか?」
こうして遊太は異世界転生を選択する。
異世界に転生すると最弱と言われるジョブ、遊び人に転生していた。
「最弱なんだから努力は必要だよな!」
こうして雄太は修行を開始するのだが……
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる