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第二章 約束の場所
28妖精の眠る洞窟
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チーの言葉を聞いたメルティアは目を瞬いて小首をかしげた。
「どういうこと?」
「そのまんまさ。この街はあの場所に近いから一番影響が強かったんだろ」
「全然わかんないよ……」
眉を寄せるメルティアに、ジークが声をかける。
「チーはなんと?」
「なんかね、妖精たちが寝てるのが原因だって」
「寝てる?」
「確かにね、この街には妖精が全然いないの」
ジークは見えないものを探すように周囲を見回した。
「起こすにはどうしたらいいと?」
「えっと……」
「起こしに行けばいい。あの場所に」
「あの場所?」
チーは目を細めて妖しく笑った。
メルティアたちは戻ってきたロイと一緒に、町長の家へと行った。
そこで聞いた話は街の老人が言っていたものとほとんど一緒だった。
花が枯れ、そして動物たちがやってくるようになったと。今はそれで警備も手一杯だそうだ。
町長が少し羨ましそうにメルティアの後ろにいる兵たちを見た。
それに気づいたメルティアは後に控えている兵を見て、次にロイを見た。
そして、メルティアは本題である洞窟が近くにあるか尋ねる。
「北に鉱石の発掘をしている洞窟があります。そこに何の御用が……?」
「えっと……」
理由をまったく考えていなかったメルティアはジークを振り返る。
ジークは顔色ひとつ変えず、すらすらと嘘とも本当とも言えることを口にする。
「花を咲かせるのに必要な材料が足りないが、そこにあるらしいと伺いました」
「おお! そうでしたか! 花を咲かせられると! さすが王族だ!」
満面の笑みで手をたたいて喜ぶ町長にメルティアは慌てる。
「花を咲かせられるかもしれないというだけで、試してみないとわかりませんので……」
「いえいえ、それでもすぐに方法を閃くだけで十分ですよ! 街の者たちでは八方塞がりでしたので……」
メルティアは小さく苦笑いをした。
街の人たちが分からないのは当然だ。
まさか、街の花が咲かないのは妖精が寝ているからだと思うはずがない。
そもそも、普通の人に妖精は見えないのだから。
話を終えたメルティアたちは、町長が用意してくれた街で一番いい宿へとやってくる。
一日体を休めてから洞窟へと行くことになった。
それぞれ部屋の前で兵たちと別れたメルティアは、ジークだけを自分の部屋に呼ぶ。
「どうされました?」
「あ、あのね……」
メルティアは言いにくそうに視線を下に向けた。
「何か問題でも?」
「……他の兵は、置いていこうと思うんだけど、どう思う?」
「……妖精だからですか?」
「それもあるけど、街の警備も手が足りないって言ってたでしょう? ロイに聞いたらね、街の周りに警備を置いてるけど間に合わないんだって。人が怪我することもあるみたいなの」
メルティアはチラッとうかがうようにジークを見る。
「だから街の警備のお手伝いをしてもらおうと思うんだけど……。それだとジークが大変になっちゃうかなと思って、ジークの意見も聞こうかなって。一応ね、チーくん起きててくれるって」
「あなたがそう決めたのならそれに従いますよ」
メルティアはむぅっと口を尖らせた。
「ジークの意見を聞きたいのに」
じっと睨むように見ると、ジークはふぅっと息を吐いて肩の力を抜く。
「……俺はかまいませんよ。逆にロイを連れていくとか言われたらどうしようかと思っていました」
「ロイ? どうして?」
「仲が良かったと言っていたでしょう」
「仲は良かったと思うけど……でも今はジークがいるから。ジークより仲のいい人なんていないよ」
「……そうですか」
ジークが眉にぐっと力を入れ、微妙な顔をしてうなずいた。
嬉しそうにも見えるし、困っているようにも見える。
メルティアは首をかしげながら自分の言葉を反芻して、ほんのり顔を赤らめた。
事実ではあるが大胆なことを言ってしまった気がしたのだ。
「えっと、その……」
「兵たちには街の警備をするように伝えておきます。隣の部屋にいますので、どこかに行くときは必ず声をかけてください」
「う、うん。わかった」
「それでは、失礼します」
ジークはあっさり部屋を出ていった。
ぽつんと残されたメルティアは、ベッドでぐだぐだしているチーに声をかける。
「今の顔、どういう意味だと思う?」
「さあな」
「ジーク嬉しそうだった?」
「どっちとも言えないんじゃないか?」
「もう、チーくんいじわる」
「オイラは本当のこと言ってるだけだぜ」
もうちょっと期待させるようなことを言ってくれてもいいのに。
チーはいつもそうだ。微妙にそっけない。まるでジークみたいだ。
「チーくん、洞窟に危険はないんだよね?」
「まぁな。逆にメルは居心地いいんじゃないか?」
「そうなの? お花が咲いてるってこと?」
「空気が澄んでる」
チーがニヤリと笑ってメルティアを指さした。
「この街、居心地悪いだろ」
「それは……少しだけ……」
「ここは国境に近いからな。城と違って妖精が少ないから外の影響を受けやすい」
メルティアはチーから外という言葉が出たことに驚く。
ディルから聞いてはいるものの、チーからその話をするのは珍しかった。
「外って、どうなってるの?」
「オイラたちからしたら地獄」
「じ、地獄?」
「空気は汚いし、自然もない。今は砲撃の煙と死臭でいっぱいだぜ」
想像してみたけれど、見ず知らずの人の悲鳴が聞こえた気がしてメルティアは身震いした。
「……怖いところなんだね。ディルにぃ大丈夫なのかな」
「アレは撃たれても踏まれても死なないだろ」
「ディルにぃ不死身じゃないよ……」
次の日、メルティアはジークと二人で目的の洞窟へと向かった。
北にある下り坂を降りて行った先に、岩が口を開けたような大きな入り口があった。
洞窟というから中は薄暗いと思っていたけど、天井がまるごと吹き飛んだかのようにいくつか穴が開いていて、そこから光が差し込んでいた。
「意外と明るいんだね」
「そうですね。夜になる前に戻れるといいですが……一応夜明かしができるように準備もしてきましたよ」
ジークは背中に大きなリュックを背負っていた。
「重くない?」
「問題ありません。それより離れないでください」
「う、うん」
ジークの服の裾をつかみながらメルティアは洞窟に入っていく。
たまにぬめり気があって岩が滑るが、それさえ気を付ければ大きな問題はなかった。
生き物がいる気配もない。ただ、岩のところどころにキラキラ光る物がくっついている。
「これが発掘している鉱石かな?」
「おそらく。岩は尖っているのもありますので、不用意に触れないように」
「わ、わかった」
興味本位で触ろうとしていたメルティアをジークが素早く窘める。
メルティアは慌てて手を引っ込めた。
そのまま足元に気をつけつつ、順調に中を進んでいく。
チーが言っていたように、洞窟の中は息苦しくなく、清涼な空気が漂っていた。
「チーくん、目的の場所までどのくらい?」
「もう少しさ。この先に吹き抜けてる場所がある。とりあえずそこまで行くといい」
「わかった」
足元に気を付けつつ進んでいくと、チーの言う通り吹き抜けた場所に出た。
上も下も、何かが貫通したかのように一直線に穴が開いている。
メルティアたちが歩ける場所は、穴の周りの細い道だけだ。
しかも、周りの壁が反射する鉱石でできているのか、わざわざ手で磨いているのか、鏡のようにメルティアたちの姿を映し出していた。
「わっ。すごいところだね」
「メルティア様、このあたり滑りやすいようです。足元に気を付けてください」
「う、うん」
穴の下はだいぶ深いようで、目を凝らしてみても暗くてよく見えなかった。
先を歩くジークのあとを、メルティアは慎重についていく。
「ここ、道が細いですから。腕をつかんでください」
「だ、大丈夫。ジークの前の道も細いし、ジークの負担が増えちゃうから……」
メルティアはそう言ったが、道はあまりにも細く、穴はあまりにも深かったため足はかすかに震えていた。
落ちたら、死んじゃうかもしれない。
そんなことを思うと足がこわばる。
ジークはメルティアの震える足を見て片眉を上げると、無理やりメルティアの手を取って自分の腕を握らせる。
「引き返しますか?」
「う、ううん。大丈夫」
少し足を動かすたびに、崩れた石が奈落の底に落ちていく。
それを見たメルティアはごくりと唾をのんだ。
気を付けて、慎重に……。
そうやって足を動かして、ふと、横の壁に映った自分と目が合う。
鏡のようなものだから、いつもの自分が映る、はずなのに。
そこに映ったメルティアの瞳の色が、一瞬透き通るピンクに変わった。
口元も、かすかに笑ったように見えた。
「ッ!」
バクンッと心臓が大きく跳ねた。
見てはいけないものを見た。
そんな気がして、ぞわりと恐怖が襲ってくる。メルティアは驚いて身を引いた。
そして、地面に触れると思っていた足が、宙を掻いたことにひゅっと息をのんだ。
落ちる。
そう思ったときには、メルティアはジークをつかんでいた手を離した。
引っ張られたジークが一緒に落ちてしまうと思ったからだ。
ジークが振り返って、目を見開く。
「メルティア様!」
ジークが躊躇いなく地面を蹴り、勢いをつけて飛び込んできた。
すでに落ちていたメルティアに追いついて、護るようにぎゅっと小さな体を抱き込む。
「どうして……っ。ジークも、落ちちゃ……っ」
「衝突する直前、あなたを宙に投げます。おそらく生きられるはずです」
びゅびゅうと風が切る中、ジークが淡々と答える。
意味を理解したメルティアはさらに体を硬くする。
「やだ……」
「わがままを言わないでください」
「だったらジークと一緒に死ぬ」
ジークが目を丸くして苦笑いをする。
「あなたは生きるべきです。王族なのですから」
メルティアは納得できなかった。
ジークがいない世界に生きて何の意味があるのか。
だって、メルティアは……。
「おーい。オイラがいるの忘れてるだろ?」
「どういうこと?」
「そのまんまさ。この街はあの場所に近いから一番影響が強かったんだろ」
「全然わかんないよ……」
眉を寄せるメルティアに、ジークが声をかける。
「チーはなんと?」
「なんかね、妖精たちが寝てるのが原因だって」
「寝てる?」
「確かにね、この街には妖精が全然いないの」
ジークは見えないものを探すように周囲を見回した。
「起こすにはどうしたらいいと?」
「えっと……」
「起こしに行けばいい。あの場所に」
「あの場所?」
チーは目を細めて妖しく笑った。
メルティアたちは戻ってきたロイと一緒に、町長の家へと行った。
そこで聞いた話は街の老人が言っていたものとほとんど一緒だった。
花が枯れ、そして動物たちがやってくるようになったと。今はそれで警備も手一杯だそうだ。
町長が少し羨ましそうにメルティアの後ろにいる兵たちを見た。
それに気づいたメルティアは後に控えている兵を見て、次にロイを見た。
そして、メルティアは本題である洞窟が近くにあるか尋ねる。
「北に鉱石の発掘をしている洞窟があります。そこに何の御用が……?」
「えっと……」
理由をまったく考えていなかったメルティアはジークを振り返る。
ジークは顔色ひとつ変えず、すらすらと嘘とも本当とも言えることを口にする。
「花を咲かせるのに必要な材料が足りないが、そこにあるらしいと伺いました」
「おお! そうでしたか! 花を咲かせられると! さすが王族だ!」
満面の笑みで手をたたいて喜ぶ町長にメルティアは慌てる。
「花を咲かせられるかもしれないというだけで、試してみないとわかりませんので……」
「いえいえ、それでもすぐに方法を閃くだけで十分ですよ! 街の者たちでは八方塞がりでしたので……」
メルティアは小さく苦笑いをした。
街の人たちが分からないのは当然だ。
まさか、街の花が咲かないのは妖精が寝ているからだと思うはずがない。
そもそも、普通の人に妖精は見えないのだから。
話を終えたメルティアたちは、町長が用意してくれた街で一番いい宿へとやってくる。
一日体を休めてから洞窟へと行くことになった。
それぞれ部屋の前で兵たちと別れたメルティアは、ジークだけを自分の部屋に呼ぶ。
「どうされました?」
「あ、あのね……」
メルティアは言いにくそうに視線を下に向けた。
「何か問題でも?」
「……他の兵は、置いていこうと思うんだけど、どう思う?」
「……妖精だからですか?」
「それもあるけど、街の警備も手が足りないって言ってたでしょう? ロイに聞いたらね、街の周りに警備を置いてるけど間に合わないんだって。人が怪我することもあるみたいなの」
メルティアはチラッとうかがうようにジークを見る。
「だから街の警備のお手伝いをしてもらおうと思うんだけど……。それだとジークが大変になっちゃうかなと思って、ジークの意見も聞こうかなって。一応ね、チーくん起きててくれるって」
「あなたがそう決めたのならそれに従いますよ」
メルティアはむぅっと口を尖らせた。
「ジークの意見を聞きたいのに」
じっと睨むように見ると、ジークはふぅっと息を吐いて肩の力を抜く。
「……俺はかまいませんよ。逆にロイを連れていくとか言われたらどうしようかと思っていました」
「ロイ? どうして?」
「仲が良かったと言っていたでしょう」
「仲は良かったと思うけど……でも今はジークがいるから。ジークより仲のいい人なんていないよ」
「……そうですか」
ジークが眉にぐっと力を入れ、微妙な顔をしてうなずいた。
嬉しそうにも見えるし、困っているようにも見える。
メルティアは首をかしげながら自分の言葉を反芻して、ほんのり顔を赤らめた。
事実ではあるが大胆なことを言ってしまった気がしたのだ。
「えっと、その……」
「兵たちには街の警備をするように伝えておきます。隣の部屋にいますので、どこかに行くときは必ず声をかけてください」
「う、うん。わかった」
「それでは、失礼します」
ジークはあっさり部屋を出ていった。
ぽつんと残されたメルティアは、ベッドでぐだぐだしているチーに声をかける。
「今の顔、どういう意味だと思う?」
「さあな」
「ジーク嬉しそうだった?」
「どっちとも言えないんじゃないか?」
「もう、チーくんいじわる」
「オイラは本当のこと言ってるだけだぜ」
もうちょっと期待させるようなことを言ってくれてもいいのに。
チーはいつもそうだ。微妙にそっけない。まるでジークみたいだ。
「チーくん、洞窟に危険はないんだよね?」
「まぁな。逆にメルは居心地いいんじゃないか?」
「そうなの? お花が咲いてるってこと?」
「空気が澄んでる」
チーがニヤリと笑ってメルティアを指さした。
「この街、居心地悪いだろ」
「それは……少しだけ……」
「ここは国境に近いからな。城と違って妖精が少ないから外の影響を受けやすい」
メルティアはチーから外という言葉が出たことに驚く。
ディルから聞いてはいるものの、チーからその話をするのは珍しかった。
「外って、どうなってるの?」
「オイラたちからしたら地獄」
「じ、地獄?」
「空気は汚いし、自然もない。今は砲撃の煙と死臭でいっぱいだぜ」
想像してみたけれど、見ず知らずの人の悲鳴が聞こえた気がしてメルティアは身震いした。
「……怖いところなんだね。ディルにぃ大丈夫なのかな」
「アレは撃たれても踏まれても死なないだろ」
「ディルにぃ不死身じゃないよ……」
次の日、メルティアはジークと二人で目的の洞窟へと向かった。
北にある下り坂を降りて行った先に、岩が口を開けたような大きな入り口があった。
洞窟というから中は薄暗いと思っていたけど、天井がまるごと吹き飛んだかのようにいくつか穴が開いていて、そこから光が差し込んでいた。
「意外と明るいんだね」
「そうですね。夜になる前に戻れるといいですが……一応夜明かしができるように準備もしてきましたよ」
ジークは背中に大きなリュックを背負っていた。
「重くない?」
「問題ありません。それより離れないでください」
「う、うん」
ジークの服の裾をつかみながらメルティアは洞窟に入っていく。
たまにぬめり気があって岩が滑るが、それさえ気を付ければ大きな問題はなかった。
生き物がいる気配もない。ただ、岩のところどころにキラキラ光る物がくっついている。
「これが発掘している鉱石かな?」
「おそらく。岩は尖っているのもありますので、不用意に触れないように」
「わ、わかった」
興味本位で触ろうとしていたメルティアをジークが素早く窘める。
メルティアは慌てて手を引っ込めた。
そのまま足元に気をつけつつ、順調に中を進んでいく。
チーが言っていたように、洞窟の中は息苦しくなく、清涼な空気が漂っていた。
「チーくん、目的の場所までどのくらい?」
「もう少しさ。この先に吹き抜けてる場所がある。とりあえずそこまで行くといい」
「わかった」
足元に気を付けつつ進んでいくと、チーの言う通り吹き抜けた場所に出た。
上も下も、何かが貫通したかのように一直線に穴が開いている。
メルティアたちが歩ける場所は、穴の周りの細い道だけだ。
しかも、周りの壁が反射する鉱石でできているのか、わざわざ手で磨いているのか、鏡のようにメルティアたちの姿を映し出していた。
「わっ。すごいところだね」
「メルティア様、このあたり滑りやすいようです。足元に気を付けてください」
「う、うん」
穴の下はだいぶ深いようで、目を凝らしてみても暗くてよく見えなかった。
先を歩くジークのあとを、メルティアは慎重についていく。
「ここ、道が細いですから。腕をつかんでください」
「だ、大丈夫。ジークの前の道も細いし、ジークの負担が増えちゃうから……」
メルティアはそう言ったが、道はあまりにも細く、穴はあまりにも深かったため足はかすかに震えていた。
落ちたら、死んじゃうかもしれない。
そんなことを思うと足がこわばる。
ジークはメルティアの震える足を見て片眉を上げると、無理やりメルティアの手を取って自分の腕を握らせる。
「引き返しますか?」
「う、ううん。大丈夫」
少し足を動かすたびに、崩れた石が奈落の底に落ちていく。
それを見たメルティアはごくりと唾をのんだ。
気を付けて、慎重に……。
そうやって足を動かして、ふと、横の壁に映った自分と目が合う。
鏡のようなものだから、いつもの自分が映る、はずなのに。
そこに映ったメルティアの瞳の色が、一瞬透き通るピンクに変わった。
口元も、かすかに笑ったように見えた。
「ッ!」
バクンッと心臓が大きく跳ねた。
見てはいけないものを見た。
そんな気がして、ぞわりと恐怖が襲ってくる。メルティアは驚いて身を引いた。
そして、地面に触れると思っていた足が、宙を掻いたことにひゅっと息をのんだ。
落ちる。
そう思ったときには、メルティアはジークをつかんでいた手を離した。
引っ張られたジークが一緒に落ちてしまうと思ったからだ。
ジークが振り返って、目を見開く。
「メルティア様!」
ジークが躊躇いなく地面を蹴り、勢いをつけて飛び込んできた。
すでに落ちていたメルティアに追いついて、護るようにぎゅっと小さな体を抱き込む。
「どうして……っ。ジークも、落ちちゃ……っ」
「衝突する直前、あなたを宙に投げます。おそらく生きられるはずです」
びゅびゅうと風が切る中、ジークが淡々と答える。
意味を理解したメルティアはさらに体を硬くする。
「やだ……」
「わがままを言わないでください」
「だったらジークと一緒に死ぬ」
ジークが目を丸くして苦笑いをする。
「あなたは生きるべきです。王族なのですから」
メルティアは納得できなかった。
ジークがいない世界に生きて何の意味があるのか。
だって、メルティアは……。
「おーい。オイラがいるの忘れてるだろ?」
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