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第二章 約束の場所
32恋のかけら
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結局、何も決められないまま数日が過ぎた。
メルティアはいつも通りジークと砂いじりをして、いつも通りの日々を送る。
こんなことではダメだとわかっているのに、なかなかジークに切り出せないでいた。
「メルティア様、肥料の材料なくなりかけていますよ」
倉庫の整理をしていたジークが戻ってくる。
「欠けている鉢植えとかもありましたね」
「そうなの? そろそろ買いに行かないと」
メルティアはぐるりとガラスハウスを見回して、先に買い物に行こうと立ち上がる。
「街に行かれますか?」
「うん! 準備してくるね!」
メルティアは自分の部屋に戻って、街に行くために着替える。
ささっと準備を終えて、部屋の外で待っていたジークと門に向かう。
いつものように馬車に乗り込み、メルティアたちは街に向かった。
先にジークが降りてメルティアに手を差し出す。
わりとよくある光景なので、街の人も驚いたりする様子はない。
ただ、ひそひそとうわさ話をすることはあるが。
「他にも補充した方が良さそうなものをリストアップしておきました」
「本当? ありがとう!」
ジークからメモを受け取って、メルティアはその文字を追っていく。
急ぎでないものは城に運んでもらって、今すぐ欲しい物は手で持って帰ることにした。
いつもの店で必要な物の注文を終えたメルティアは、荷物を抱えたジークとぶらぶら歩いていた。
「鉢植えも欠けちゃってるんだっけ?」
「はい。いつもの店で注文しますか?」
メルティア今ある鉢植えの形や色を思い浮かべる。
「うーん。別のお店も見てみようかな」
「わかりました。どちらに行きます?」
「ジーク荷物重い?」
「そうでもありませんよ。いろいろ見て回りますか?」
「……いい?」
メルティアが言い出す前にジークが察してくれる。
ジークは「もちろんですよ」と言って、くるりと辺りを見回す。
「とはいえ花屋は多いですからね」
「良さそうなお店があったら入ってみるね」
「わかりました。行きましょうか」
メルティアは街を歩きながら店先に並んだ花たちを見て回る。
せっかくだからお花も買っていこうということになったのだ。
色の艶や匂いを嗅いだりして、新しく部屋に迎えるお花を探していく。
そしてしばらく歩いて、メルティアは一軒の店の前で足を止めた。
二階建ての建物で、ベランダに巻き付いた蔦と、綺麗に咲く花が印象的な可愛い店。
店先には鮮やかな色をした鉢植えがいくつも並べられていた。
「わぁ、きれい」
「……ここに行かれるのですか?」
「うん。綺麗な色してるし、かわいいもん」
答えながら顔を上げて、メルティアは目を丸くする。
ジークがあまり乗り気ではなさそうだったのだ。
「ジークどうしたの?」
「……別の場所にしませんか?」
「えっ? 珍しいね、ジークがそんなこと言うの。何かあった?」
メルティアは変な物でもあったのかと鉢植えを注意深く見る。
「いえ、そういう訳ではありませんが……」
ジークの曇った顔を吹き飛ばすように、お店の扉が開いた。
綺麗な花の咲いた鉢植えを抱えた、可愛らしい女の人だ。茶色の髪をポニーテールにして、大きなぱっちりした目がよく見える。エプロンをしているから店員だろうか。
「あら? ジーク様! ……に、メルティア様!?」
「……どうも」
「あらあらお揃いで! ついに連れてきてくださったんですか?」
ジークが渋い顔であいさつをして、女の人は弾けた笑顔でジークに話しかける。
メルティアは驚いて目を大きく見開きながらその光景を見つめた。
メルティアが呆然としていると、女の人はメルティアを見てきゃっと両手を合わせ、興奮に瞳を輝かせる。
「やーん。うわさに違わず可愛らしい! お目目大ッきい! お肌つやっつや。唇もピンクでぷるっぷる!」
「あ、え、えっと……はじめまして。メルティア・P・ファルメリアです」
「声も可愛い!」
そのあとも髪の先から爪の先まで褒められて、メルティアは身をきゅうッと小さくして頬を染めた。
「メルティア様が困っているでしょう」
「あらあら、可愛くてつい。お花を買いにいらしてくださったんですか?」
「あ……鉢植えとお花を買いたくて……入ってもいいですか?」
「もちろん! メルティア様がウチにいらしてくださったなんて光栄ですわ。どうぞどうぞ」
扉を開けてくれたから、メルティアはお礼を言って中に入る。
そしてふと振り返って、ジークが扉を開けるのを変わっているのを見て少しだけドキッとした。
なにか一言二言言葉を交わして、女の人がクスクスと可愛らしく笑う。
メルティアは、その時感じた感覚がなんなのかわからなかった。
けれども、これが、『女の勘』と呼ばれるものなんじゃないかと、なんとなく思った。
店内は店先よりもたくさんの花があった。
全部色が鮮やかで、花びらに張りがある。大切に育てられた花のようだ。
メルティアは、ひとつひとつ花を見ていく。
今メルティアの部屋にあるのは暖色系が多いから、青い花が欲しかった。
「ジーク、これ……」
振り返ったメルティアはきゅっと口を閉じた。
あの可愛らしい女の人と何か話していたジークが、ほんのり顔を赤くしていたのだ。
驚きとショックで言葉が出なかった。
ジークが今まであんな顔をしたのを、メルティアは見たことがなかった。
基本的にジークはあまり表情が変わらずわかりにくい。
嘘だって、思ってないことだって、平然と言ってのける。
だからメルティアは少しでもジークの心がわかるようにと、ジークをひたすら観察して癖を見つけたくらいだ。
それが、あんなにわかりやすく感情を見せるなんて。
メルティアはくるっとジークたちから背を向けた。
手にしていた花をきゅっと抱きしめる。
何ごともなかったみたいに、メルティアは鉢植えを探した。
ジークに「このお花どう思う?」と聞くのはやめた。
邪魔をしてはいけない気がしたからだ。
メルティアが鉢植えを見ていると、ジークがやってくる。
「いいのはありましたか?」
「うん。このお花と、この鉢植えにしようかなって」
メルティアが答えると、ジークはわずかに眉を上げたが、「ではそれにしましょうか」と同意する。
「鉢植えはもっと買っておきましょうか?」
「……ううん。必要な時に自分で選びたいから大丈夫」
「……わかりました。ではそちらだけ買って帰りましょう」
ジークがお会計をしてくれている間、メルティアは離れたところで花をながめた。
チラリと横目にジークたちを見る。
やっぱり、仲がいいのか、知り合いだったのか、楽しそうに何か話していた。
『ジークの好きな人って、どんな人?』
『可愛らしい人ですよ』
そう言っていたジークの言葉がよみがえる。
たしかに可愛らしい人だ。
花がよく似合って、明るくて、パッとその場に色がつくような、そんな人。
店を出て、メルティアは不自然にならないように気を付けながらジークに声をかける。
「ジーク、あの人と知り合いだったの?」
「……知り合いと言いますか、客と店員ですよ」
「でも仲良さそうだったよ」
「それは気のせいでしょう」
うそつき。
メルティアは心の中でジークに砂を投げた。
城へと戻ったメルティアは、買った花を早速部屋に飾った。
そして、違っていてほしいという気持ちを込めながら、メルティアの部屋に飾られている鉢植えの裏を見た。
部屋にある全部の鉢植えを確認して、メルティアは小さく息を吐く。
女の勘というのは恐ろしいものだ。
当たって欲しくないことほど、当たってしまう。
「ジーク、あのお店に行くために、わたしにお花をくれてたんだ……」
メルティアの部屋にはたくさんの花があった。
それは、ジークが外へ行くたびに、メルティアにお土産として買って来てくれていたからだ。
ジークがくれた花だったから、メルティアは何よりも大切に育てた。
その鉢植え全部に、あの店の印が刻まれていた。
きっとこれまでくれた花は全部そうだったのだろう。
この花たちは全部、ジークの恋の欠片だったのだ。
「……可愛らしい人……」
ジークの言った通り、可愛い人。
どうしてジークは恋を諦めてしまったのだろう。
こんなに足繁く通うほど、想いは強いというのに。
「ジークのばか……」
メルティアはきゅっと鉢植えを抱きしめて、小さく呟いた。
メルティアはいつも通りジークと砂いじりをして、いつも通りの日々を送る。
こんなことではダメだとわかっているのに、なかなかジークに切り出せないでいた。
「メルティア様、肥料の材料なくなりかけていますよ」
倉庫の整理をしていたジークが戻ってくる。
「欠けている鉢植えとかもありましたね」
「そうなの? そろそろ買いに行かないと」
メルティアはぐるりとガラスハウスを見回して、先に買い物に行こうと立ち上がる。
「街に行かれますか?」
「うん! 準備してくるね!」
メルティアは自分の部屋に戻って、街に行くために着替える。
ささっと準備を終えて、部屋の外で待っていたジークと門に向かう。
いつものように馬車に乗り込み、メルティアたちは街に向かった。
先にジークが降りてメルティアに手を差し出す。
わりとよくある光景なので、街の人も驚いたりする様子はない。
ただ、ひそひそとうわさ話をすることはあるが。
「他にも補充した方が良さそうなものをリストアップしておきました」
「本当? ありがとう!」
ジークからメモを受け取って、メルティアはその文字を追っていく。
急ぎでないものは城に運んでもらって、今すぐ欲しい物は手で持って帰ることにした。
いつもの店で必要な物の注文を終えたメルティアは、荷物を抱えたジークとぶらぶら歩いていた。
「鉢植えも欠けちゃってるんだっけ?」
「はい。いつもの店で注文しますか?」
メルティア今ある鉢植えの形や色を思い浮かべる。
「うーん。別のお店も見てみようかな」
「わかりました。どちらに行きます?」
「ジーク荷物重い?」
「そうでもありませんよ。いろいろ見て回りますか?」
「……いい?」
メルティアが言い出す前にジークが察してくれる。
ジークは「もちろんですよ」と言って、くるりと辺りを見回す。
「とはいえ花屋は多いですからね」
「良さそうなお店があったら入ってみるね」
「わかりました。行きましょうか」
メルティアは街を歩きながら店先に並んだ花たちを見て回る。
せっかくだからお花も買っていこうということになったのだ。
色の艶や匂いを嗅いだりして、新しく部屋に迎えるお花を探していく。
そしてしばらく歩いて、メルティアは一軒の店の前で足を止めた。
二階建ての建物で、ベランダに巻き付いた蔦と、綺麗に咲く花が印象的な可愛い店。
店先には鮮やかな色をした鉢植えがいくつも並べられていた。
「わぁ、きれい」
「……ここに行かれるのですか?」
「うん。綺麗な色してるし、かわいいもん」
答えながら顔を上げて、メルティアは目を丸くする。
ジークがあまり乗り気ではなさそうだったのだ。
「ジークどうしたの?」
「……別の場所にしませんか?」
「えっ? 珍しいね、ジークがそんなこと言うの。何かあった?」
メルティアは変な物でもあったのかと鉢植えを注意深く見る。
「いえ、そういう訳ではありませんが……」
ジークの曇った顔を吹き飛ばすように、お店の扉が開いた。
綺麗な花の咲いた鉢植えを抱えた、可愛らしい女の人だ。茶色の髪をポニーテールにして、大きなぱっちりした目がよく見える。エプロンをしているから店員だろうか。
「あら? ジーク様! ……に、メルティア様!?」
「……どうも」
「あらあらお揃いで! ついに連れてきてくださったんですか?」
ジークが渋い顔であいさつをして、女の人は弾けた笑顔でジークに話しかける。
メルティアは驚いて目を大きく見開きながらその光景を見つめた。
メルティアが呆然としていると、女の人はメルティアを見てきゃっと両手を合わせ、興奮に瞳を輝かせる。
「やーん。うわさに違わず可愛らしい! お目目大ッきい! お肌つやっつや。唇もピンクでぷるっぷる!」
「あ、え、えっと……はじめまして。メルティア・P・ファルメリアです」
「声も可愛い!」
そのあとも髪の先から爪の先まで褒められて、メルティアは身をきゅうッと小さくして頬を染めた。
「メルティア様が困っているでしょう」
「あらあら、可愛くてつい。お花を買いにいらしてくださったんですか?」
「あ……鉢植えとお花を買いたくて……入ってもいいですか?」
「もちろん! メルティア様がウチにいらしてくださったなんて光栄ですわ。どうぞどうぞ」
扉を開けてくれたから、メルティアはお礼を言って中に入る。
そしてふと振り返って、ジークが扉を開けるのを変わっているのを見て少しだけドキッとした。
なにか一言二言言葉を交わして、女の人がクスクスと可愛らしく笑う。
メルティアは、その時感じた感覚がなんなのかわからなかった。
けれども、これが、『女の勘』と呼ばれるものなんじゃないかと、なんとなく思った。
店内は店先よりもたくさんの花があった。
全部色が鮮やかで、花びらに張りがある。大切に育てられた花のようだ。
メルティアは、ひとつひとつ花を見ていく。
今メルティアの部屋にあるのは暖色系が多いから、青い花が欲しかった。
「ジーク、これ……」
振り返ったメルティアはきゅっと口を閉じた。
あの可愛らしい女の人と何か話していたジークが、ほんのり顔を赤くしていたのだ。
驚きとショックで言葉が出なかった。
ジークが今まであんな顔をしたのを、メルティアは見たことがなかった。
基本的にジークはあまり表情が変わらずわかりにくい。
嘘だって、思ってないことだって、平然と言ってのける。
だからメルティアは少しでもジークの心がわかるようにと、ジークをひたすら観察して癖を見つけたくらいだ。
それが、あんなにわかりやすく感情を見せるなんて。
メルティアはくるっとジークたちから背を向けた。
手にしていた花をきゅっと抱きしめる。
何ごともなかったみたいに、メルティアは鉢植えを探した。
ジークに「このお花どう思う?」と聞くのはやめた。
邪魔をしてはいけない気がしたからだ。
メルティアが鉢植えを見ていると、ジークがやってくる。
「いいのはありましたか?」
「うん。このお花と、この鉢植えにしようかなって」
メルティアが答えると、ジークはわずかに眉を上げたが、「ではそれにしましょうか」と同意する。
「鉢植えはもっと買っておきましょうか?」
「……ううん。必要な時に自分で選びたいから大丈夫」
「……わかりました。ではそちらだけ買って帰りましょう」
ジークがお会計をしてくれている間、メルティアは離れたところで花をながめた。
チラリと横目にジークたちを見る。
やっぱり、仲がいいのか、知り合いだったのか、楽しそうに何か話していた。
『ジークの好きな人って、どんな人?』
『可愛らしい人ですよ』
そう言っていたジークの言葉がよみがえる。
たしかに可愛らしい人だ。
花がよく似合って、明るくて、パッとその場に色がつくような、そんな人。
店を出て、メルティアは不自然にならないように気を付けながらジークに声をかける。
「ジーク、あの人と知り合いだったの?」
「……知り合いと言いますか、客と店員ですよ」
「でも仲良さそうだったよ」
「それは気のせいでしょう」
うそつき。
メルティアは心の中でジークに砂を投げた。
城へと戻ったメルティアは、買った花を早速部屋に飾った。
そして、違っていてほしいという気持ちを込めながら、メルティアの部屋に飾られている鉢植えの裏を見た。
部屋にある全部の鉢植えを確認して、メルティアは小さく息を吐く。
女の勘というのは恐ろしいものだ。
当たって欲しくないことほど、当たってしまう。
「ジーク、あのお店に行くために、わたしにお花をくれてたんだ……」
メルティアの部屋にはたくさんの花があった。
それは、ジークが外へ行くたびに、メルティアにお土産として買って来てくれていたからだ。
ジークがくれた花だったから、メルティアは何よりも大切に育てた。
その鉢植え全部に、あの店の印が刻まれていた。
きっとこれまでくれた花は全部そうだったのだろう。
この花たちは全部、ジークの恋の欠片だったのだ。
「……可愛らしい人……」
ジークの言った通り、可愛い人。
どうしてジークは恋を諦めてしまったのだろう。
こんなに足繁く通うほど、想いは強いというのに。
「ジークのばか……」
メルティアはきゅっと鉢植えを抱きしめて、小さく呟いた。
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