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第二章 約束の場所
31こじれた運命
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ハルデナに戻ると、街はお祭り騒ぎだった。
街の人のどんちゃん騒ぎの音で、メルティアが目を覚ましたほどだ。
「メルティア様! ファルメリア王家! 万歳!」
「メルティア様!」
あちこちからメルティア様と呼ばれて、メルティアは困惑した。
そこに踊り狂っていた町長が飛び込んでくる。
「花が咲きはじめたんですよ!」
「え! そうなの? 速いですね」
「ええ、ええ! いったい何をされたのです?」
「え?!」
そういえば、メルティアたちは出かける前に必要な材料を取りに行くと言った気がする。
メルティアが言葉に詰まっていると、ジークがしれっと嘘をつく。
「メルティア様がその場で調合されたのですよ。鮮度が重要でしたので。それを撒いたので花が咲きはじめたのでしょう」
「おお! そうでしたか! 今日は宴ですぞ。メルティア様は……」
背負われているメルティアを見て、町長は魔法が解けたように静かになり、苦笑をする。
「宴は明日にしましょうか。今日はゆっくりお休みになってください。ありがとうございました、メルティア様」
「えっと……街の人たちが元気になってくださって良かったです」
言葉下手なメルティアはそれだけ言ってふわりと笑った。
街の人たちがきゃっきゃと騒ぎ出し、ジークは取り囲まれる前に会釈をして宿に向かう。
「花も咲くようですね」
「うん。よかった……」
ジークがメルティアを部屋まで送り届けてくれ、その場で別れる。
メルティアは気だるい体に鞭を打ち、なんとか湯船に浸かってすぐにベッドに倒れ込んだ。
「おやすみ、チーくん」
「おやすみ、メル」
次の日、メルティアたちは街の花咲き祭りに参加した。
メルティアの雄姿を後世に残そうと、突如設立された街の休日だった。
軽快な音楽が鳴り響き、街の食料を使って意味もなく楽しむ。
どこからともなく花吹雪が舞ったりして、街の人たちは神の祝福だと大いに盛り上がっていた。
そうして街をあとにして、メルティアはガタガタと揺れる馬車の中、ジークに寄りかかって寝ていた。
慣れない移動に、冒険。多くの人との会話。
気丈に振舞っていたけれど、疲労は限界を突破していた。
「……メルティア様」
愛しむようにメルティアを見て、ジークがそっとメルティアの髪をなでた。
来たときと同じように数日の馬車の旅を終え、メルティアはファルメリア王国王城へ帰還していた。
「お父様! お母様!」
「ティア! 大丈夫だったかい?」
「怪我はないの? 大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
両親と抱擁を交わし、室内に移動しながら簡単にあった出来事を報告する。
時にハラハラしながら、時に驚きながら、時に娘の雄姿に涙を浮かべながら、冒険談を聞いてくれた。
そして部屋の手前でジークに外で待っているように伝え、メルティアを招き入れる。
「お父様、お母様、どうしたの?」
「こっちへおいで、ティア」
メルティアは首をかしげながら両親に近づく。
ぎゅうっと抱きしめられて、よしよしと背中をなでられる。
「ティアは疲れているだろうから、もう少しあとにしようか迷ったんだが……こういうのは早い方がいいと思ってな」
「何かあったの?」
顔を見合わせる両親にメルティアは少し不安になる。
また何か事件でもあったのだろうか?
「ジークを連れていくこともあって、一応ランスト家に連絡を取ったんだ」
「うん。それがどうしたの?」
「そのときに……ジークが縁談を受けていることを聞いたよ。ティアは知ってたのかい?」
メルティアは顔をこわばらせて、うつむきながら小さくうなずく。
「知ってたんだね……」
「うん……」
「ラークも困惑していたよ。説得しているそうだが、聞く耳を持たないそうだ。申し訳なさそうに謝って来たよ」
「……おじ様のせいじゃないもん」
メルティアは小さく首を振った。
「ティアはどうしたい? 合意のない婚約もできるけど、うちではあまり聞かないね……」
「うん……」
「ただ、ティアは妖精のこともあるから……」
そこで言葉を止めた父にメルティアは小さくうなずく。
「妖精を知っているとなるとあとはベイリーだが、ティアが好きなのはジークだろう?」
「……」
メルティアは小さくうなずく。
「もう一度ジークとよく話し合ってみなさい。どうしてもジークがいいというなら、無理やり婚約も考えるよ」
「……」
メルティアはうなずけなかった。
そうなったらいいという思いはあるけれど、それではずっとジークに恨まれてしまう気がしたからだ。
「……ジークと話してみるね」
「帰って来たばかりなのにすまないね。一度破談になったそうだが、また縁談を考えているそうなんだよ」
「……そうなんだ」
よしよしと、父が労わるように大きな手でメルティアの頭をなでる。
メルティアに甘い家族だ。
メルティアが「ジークがいい!」と言ったなら、きっとジークと結婚させてくれる。
でもそれではジークの気持ちは置き去りだ。
ずっとそばにいて、それでもジークはほかの人を選んでいる。
それなのに無理やり結婚しろなんて言ったら、ジークはどこかへと消えてしまうかもしれない。
それに、人の心を無視するのは物語にでる悪いお姫様にそっくりな気がした。
「今日はゆっくりおやすみ」
「うん。報告書まとめたらまた持ってくるね」
メルティアは浮かない顔のまま部屋を出る。
部屋の前で待っていたジークが、出てきたメルティアを見て顔をしかめた。
「……何かあったのですか?」
「ううん。なんでもないよ」
ジークのせい! とは言えずに、メルティアは無理やり笑った。
部屋に戻ってからもメルティアはうんうん考える。
ジークには好きな人がいて、でもその好きな人を諦めていて、違う人と結婚しようとしている。
メルティアはごろりとベッドで仰向けになった。
「誰なんだろう……ジークの好きな人……」
もしも、もしもジークが本当に好きな人と結ばれたら、メルティアは諦められるような気がした。
きっと好きでもない人と結婚しようとしているから、「ならメルティアでもいいんじゃないのか」なんて気持ちが湧いてくる。
でも、もしジークが好きな人と結ばれたなら、メルティアは誰と結ばれたらいいのか。
「……ベイリー?」
消去法でベイリーしかいなかった。
でもベイリーは妖精が苦手だ。暗闇もあまり好きではないらしいからそういう性質なのだろう。
ベイリーと結ばれる未来というのはどうにもしっくりこなかった。
それに、ベイリーに好きな人がいないともかぎらない。
「……ねぇ、チーくん。一生独り身のお姫様って今までにもいた?」
「いるにはいるぜ。曰くつきだったり訳ありだったり」
「……曰くつきに訳あり……」
まさにメルティアのことじゃないかとショックと同時に納得した。
「メルが普通の生活がいいって言うなら、オイラは姿を消すこともできるぜ」
「えっ? やだよ! だったら一緒にどこかに隠れて暮らそう?」
チーはおかしそうに目を細める。
「まぁ、もっとよくジークと話したらいいんじゃないか?」
「チーくんは、ジークの好きな人知ってるんでしょ」
「さぁな」
ひょうひょうとした顔でチーはメルティアの追及をかわす。
どう考えても知っている顔だ。
「どうして教えてくれないの?」
「あれは、ジークの問題だ。ジークが自分で理解しないと意味がないのさ。ただ、どうやったらそれができるのか、オイラにもわからないね」
「どういうこと?」
「今のメルには理解できないだろうよ。まぁ、きっといい感じにまとまるんじゃないか? 運命ってのは、そういうものだろ」
それだけ言ってチーはあくびをして寝床で丸くなる。
もう話す気はないらしい。
「運命って、なに?」
メルティアとジークの間にそんなものがあるとは思えなかった。
運命の二人なら、もっととんとん拍子に結ばれるはずだ。
劇的な恋に落ちて、二人の恋で解決する。
でも、今のメルティアは一方的な片想いだ。
「ジークの運命の相手……それがジークの好きな人?」
メルティアはベッドの上で膝を抱えてため息をついた。
街の人のどんちゃん騒ぎの音で、メルティアが目を覚ましたほどだ。
「メルティア様! ファルメリア王家! 万歳!」
「メルティア様!」
あちこちからメルティア様と呼ばれて、メルティアは困惑した。
そこに踊り狂っていた町長が飛び込んでくる。
「花が咲きはじめたんですよ!」
「え! そうなの? 速いですね」
「ええ、ええ! いったい何をされたのです?」
「え?!」
そういえば、メルティアたちは出かける前に必要な材料を取りに行くと言った気がする。
メルティアが言葉に詰まっていると、ジークがしれっと嘘をつく。
「メルティア様がその場で調合されたのですよ。鮮度が重要でしたので。それを撒いたので花が咲きはじめたのでしょう」
「おお! そうでしたか! 今日は宴ですぞ。メルティア様は……」
背負われているメルティアを見て、町長は魔法が解けたように静かになり、苦笑をする。
「宴は明日にしましょうか。今日はゆっくりお休みになってください。ありがとうございました、メルティア様」
「えっと……街の人たちが元気になってくださって良かったです」
言葉下手なメルティアはそれだけ言ってふわりと笑った。
街の人たちがきゃっきゃと騒ぎ出し、ジークは取り囲まれる前に会釈をして宿に向かう。
「花も咲くようですね」
「うん。よかった……」
ジークがメルティアを部屋まで送り届けてくれ、その場で別れる。
メルティアは気だるい体に鞭を打ち、なんとか湯船に浸かってすぐにベッドに倒れ込んだ。
「おやすみ、チーくん」
「おやすみ、メル」
次の日、メルティアたちは街の花咲き祭りに参加した。
メルティアの雄姿を後世に残そうと、突如設立された街の休日だった。
軽快な音楽が鳴り響き、街の食料を使って意味もなく楽しむ。
どこからともなく花吹雪が舞ったりして、街の人たちは神の祝福だと大いに盛り上がっていた。
そうして街をあとにして、メルティアはガタガタと揺れる馬車の中、ジークに寄りかかって寝ていた。
慣れない移動に、冒険。多くの人との会話。
気丈に振舞っていたけれど、疲労は限界を突破していた。
「……メルティア様」
愛しむようにメルティアを見て、ジークがそっとメルティアの髪をなでた。
来たときと同じように数日の馬車の旅を終え、メルティアはファルメリア王国王城へ帰還していた。
「お父様! お母様!」
「ティア! 大丈夫だったかい?」
「怪我はないの? 大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」
両親と抱擁を交わし、室内に移動しながら簡単にあった出来事を報告する。
時にハラハラしながら、時に驚きながら、時に娘の雄姿に涙を浮かべながら、冒険談を聞いてくれた。
そして部屋の手前でジークに外で待っているように伝え、メルティアを招き入れる。
「お父様、お母様、どうしたの?」
「こっちへおいで、ティア」
メルティアは首をかしげながら両親に近づく。
ぎゅうっと抱きしめられて、よしよしと背中をなでられる。
「ティアは疲れているだろうから、もう少しあとにしようか迷ったんだが……こういうのは早い方がいいと思ってな」
「何かあったの?」
顔を見合わせる両親にメルティアは少し不安になる。
また何か事件でもあったのだろうか?
「ジークを連れていくこともあって、一応ランスト家に連絡を取ったんだ」
「うん。それがどうしたの?」
「そのときに……ジークが縁談を受けていることを聞いたよ。ティアは知ってたのかい?」
メルティアは顔をこわばらせて、うつむきながら小さくうなずく。
「知ってたんだね……」
「うん……」
「ラークも困惑していたよ。説得しているそうだが、聞く耳を持たないそうだ。申し訳なさそうに謝って来たよ」
「……おじ様のせいじゃないもん」
メルティアは小さく首を振った。
「ティアはどうしたい? 合意のない婚約もできるけど、うちではあまり聞かないね……」
「うん……」
「ただ、ティアは妖精のこともあるから……」
そこで言葉を止めた父にメルティアは小さくうなずく。
「妖精を知っているとなるとあとはベイリーだが、ティアが好きなのはジークだろう?」
「……」
メルティアは小さくうなずく。
「もう一度ジークとよく話し合ってみなさい。どうしてもジークがいいというなら、無理やり婚約も考えるよ」
「……」
メルティアはうなずけなかった。
そうなったらいいという思いはあるけれど、それではずっとジークに恨まれてしまう気がしたからだ。
「……ジークと話してみるね」
「帰って来たばかりなのにすまないね。一度破談になったそうだが、また縁談を考えているそうなんだよ」
「……そうなんだ」
よしよしと、父が労わるように大きな手でメルティアの頭をなでる。
メルティアに甘い家族だ。
メルティアが「ジークがいい!」と言ったなら、きっとジークと結婚させてくれる。
でもそれではジークの気持ちは置き去りだ。
ずっとそばにいて、それでもジークはほかの人を選んでいる。
それなのに無理やり結婚しろなんて言ったら、ジークはどこかへと消えてしまうかもしれない。
それに、人の心を無視するのは物語にでる悪いお姫様にそっくりな気がした。
「今日はゆっくりおやすみ」
「うん。報告書まとめたらまた持ってくるね」
メルティアは浮かない顔のまま部屋を出る。
部屋の前で待っていたジークが、出てきたメルティアを見て顔をしかめた。
「……何かあったのですか?」
「ううん。なんでもないよ」
ジークのせい! とは言えずに、メルティアは無理やり笑った。
部屋に戻ってからもメルティアはうんうん考える。
ジークには好きな人がいて、でもその好きな人を諦めていて、違う人と結婚しようとしている。
メルティアはごろりとベッドで仰向けになった。
「誰なんだろう……ジークの好きな人……」
もしも、もしもジークが本当に好きな人と結ばれたら、メルティアは諦められるような気がした。
きっと好きでもない人と結婚しようとしているから、「ならメルティアでもいいんじゃないのか」なんて気持ちが湧いてくる。
でも、もしジークが好きな人と結ばれたなら、メルティアは誰と結ばれたらいいのか。
「……ベイリー?」
消去法でベイリーしかいなかった。
でもベイリーは妖精が苦手だ。暗闇もあまり好きではないらしいからそういう性質なのだろう。
ベイリーと結ばれる未来というのはどうにもしっくりこなかった。
それに、ベイリーに好きな人がいないともかぎらない。
「……ねぇ、チーくん。一生独り身のお姫様って今までにもいた?」
「いるにはいるぜ。曰くつきだったり訳ありだったり」
「……曰くつきに訳あり……」
まさにメルティアのことじゃないかとショックと同時に納得した。
「メルが普通の生活がいいって言うなら、オイラは姿を消すこともできるぜ」
「えっ? やだよ! だったら一緒にどこかに隠れて暮らそう?」
チーはおかしそうに目を細める。
「まぁ、もっとよくジークと話したらいいんじゃないか?」
「チーくんは、ジークの好きな人知ってるんでしょ」
「さぁな」
ひょうひょうとした顔でチーはメルティアの追及をかわす。
どう考えても知っている顔だ。
「どうして教えてくれないの?」
「あれは、ジークの問題だ。ジークが自分で理解しないと意味がないのさ。ただ、どうやったらそれができるのか、オイラにもわからないね」
「どういうこと?」
「今のメルには理解できないだろうよ。まぁ、きっといい感じにまとまるんじゃないか? 運命ってのは、そういうものだろ」
それだけ言ってチーはあくびをして寝床で丸くなる。
もう話す気はないらしい。
「運命って、なに?」
メルティアとジークの間にそんなものがあるとは思えなかった。
運命の二人なら、もっととんとん拍子に結ばれるはずだ。
劇的な恋に落ちて、二人の恋で解決する。
でも、今のメルティアは一方的な片想いだ。
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