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雪那 由多

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春になって心機一転するかどうかはまた別の話し 3

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「とりあえず空き部屋だから室内の作業場を一つ用意するよ」
「部屋代払わないよ?」
「入居者の予定はないから好きに使って」

 そうして玄関から遠い一階の日当たりの悪い北側の部屋をしのさんの作業場として提供した。昼間でも暗く明りの欲しくなる部屋だけど、しのさんはありがたく使わせてもらうと言って喜んでいた。
 いろいろ機材も購入したので置き場も欲しいし瑞己たちの窓とかのメンテを住人の留守の間部屋でやるというのは気が引けると言って外で仕事をしようとするしのさんに空き部屋を一つ提供する事にしたのだが、さっそく部屋作りに取り掛かるあたり本当に喜んでいるみたいでこっちの方が逆に申し訳なくなる。
 最初は汚れるからと気が引いていたしのさんだが、みんなが卒業した後は予定のないこの家に一部屋ぐらいこういう場所があってもいいのではと俺はおもう。むしろ作業場のある家っていう方がかっこいいと思うのはないしょだ。
 何せ、もう新規の住人も来ないのに思い出の為に綺麗にしてくれるのだ。
 普通の業者ならもったいないからと誰もやってくれないだろう。
 だけど俺と同じくお婆ちゃんを知るしのさんはその思い出の為にこの家を手入れしてくれるという。
 費用は俺持ちだが忙しいしのさんの時間をもらう謝礼は最低限。
 それ以上は過剰だと受け取ってもらえないが、そういう気質は損をしていると思うもしのさんなりのお婆ちゃんへの感謝の気持ちだというからそれ以上強く言えないでいる俺がいる。
 まあ、親父たちはそういう事だったらありがたくその気持ちを受け取りなさいと言う。
 まあ、それがしのさんの気持ちだというのならこれ以上言うのも野暮だしという事で好きにしてもらっている。
 結果。
 入り口のドアがきしむ音もなくスムーズになり、なんとなくサイズが合わなくてはみ出していた靴がきちんと入るようにしてくれたり、扉と言う扉はちゃんと扉の役目を果たすようになった。
 共用部分の床は薄汚れていたけど綺麗に研磨してくれて木の香りがあふれ出しているし、ボロボロになった土壁はいつの間にか綺麗な土壁に塗り替えられてた。
 って言うかいつの間に……

「さすがに古い土壁に新しい土壁を塗ってもはがれてきちゃうから下板を貼ってその上に塗っただけだけどね」
「って言うか、その角材とか下板とかいつ持ってきたの?」
「さっきの宅急便だよ。今時配達してくれるからありがたいよね」
 住宅地に荷物を運ぶ宅急便屋さんもまさか角材を運ぶ日が来るとは思わなかっただろう。
「今日はできそうもないけどレンガも用意したからお庭とかもちょっといじろうね?」
「しのさんが楽しいならなんなりと」
 言えば小さくガッツポーズ。
 全力で楽しんでいるしのさんがかわいくて何よりと思うも
「だけどもうご飯の時間だから手を洗ってきてくれ」
「もう?!」
 そういってぱっと外をむけばしっかり暗い外の様子に固まっていた。
「明日も用事あるならほどほどで切り上げないと」
「あー、続きは今度か」
「当分ここをに住み着く予定だから何時でもきていいよ」
「うん。週一ぐらいで手入れしに来るからその時はご飯よろしく」
 言いながらも押入れの襖を既に外して工具を並べて片付けるその様子。すっかりしのさんの基地となっていて俺も仲間に入れて欲しいと思うのは当然か。
「せめて初心者向けDIYとかで棚が作れると良いんだけど」
 そう、俺が住んでる今の家は棚が少なくって不便を感じている。
 お婆ちゃんはその歳に合わせて増えたものを部屋の隅に置くスタイルだけど俺は棚に片付けたい派だ。ミニマムとかまではいわないけど、部屋の隅に置くのではなく棚に片付け、できれば目に見えなければなおいいその程度には片づけたいと思っている。
 その程度に片付けれるものが欲しいという俺にしのさんはいつもの優しい笑顔で
「だったらよくある簀の子DIYしようか。簀の子三枚あれば十分だし?」
「今度来る前に勝ってくる!そしてネットで予習しておく」
「その予習がちゃんとできてるか今度来るときが答え合わせだね?」
「やば、絶対何かしでかすフラグがたった?!」
「失敗して学べばいいんだから今から構えないの」
 なんて恐ろしい事をさらりと仰って下さるしのさんは早くご飯にしようと言わんばかりにアパートの共同キッチン、と言うか台所と言うのがふさわしい部屋へと向かう。
 昭和レトロ。
 とは言えそれなりに手を入れているので今ではオール電化の台所。だけどステンレスの流しだったり流行りから取り残されたシステムキッチンはギリ昭和時代というものだろうか。
 水色の羽の換気扇もレトロに見えて、そのくせ冷蔵庫は使ってないのも併せて5台もある。
 個人的に持ち込んだものと後輩の為に置いて行ったものが今でも鎮座している。
 冷蔵庫の処分は有料だからね。冷蔵庫5台もいらないぞ!なんてそのうち一台をご飯用に使ってるけど。
 因みにみんなの冷蔵庫にはお茶なりビールなり欲望、ではなく夜食が詰まっている。いや非常食か。
 一応ご飯の時いない場合は冷蔵庫の中に入れているが、苦学生の皆さんなので一番の活用方法になっている。
 後はレンジと電気ポッド。どこにでもあるご家庭の台所と変わらない設備だ。
 鍋とかフライパンと言った調理器具とかは共用で貸し出し、調理後は速やかに洗って返しなさいというルール。食器とかはみんな冷蔵庫の上に置いてあるかごの中に突っ込んでいる。ちなみにこのかごも代々冷蔵庫と一緒に受け継がれているらしい。
 そんな台所で気にしなければという様に置かれた食器をしのさんは並べていく。
 慣れたように配膳をこなし
「修司、みんなの分は取り分けておく?」
「頼む。ついでに今のうちに取り分けて冷ましておこうか」
 なんてお願いすればそこはしのさん。
 ちゃんとみんな平等に彩りよくくろ黒酢酢豚を盛って行く。
 黒酢を使っているだけに野菜の色鮮やかさが目立つ一品にしのさんはご満悦状態。
 後は普通に中華スープと青菜炒め。
 俺の正面に席を決めたしのさんは早く食べようという様にお茶まで入れてくれて。
「悪いね。この後駅まで送ってもらうのにビールなしで」
「気にするなって。この後つまみ作って飲むから」
「あー、むしろそれも気になる」
「しのさんこそ料理上手いのに。むしろしのさんの夜食の方が気になるんだけど」
「俺はあまり夜食食べないかも。食べても晩御飯の残りだったり簡単にうどんとかだから面白くはないよ?」
「意外に普通だったか……」
 チャーシューの切れ端と湯がいたもやしをチャーシューのタレに絡めて食べるなんてするのは俺ぐらいかと少し食べすぎかと思う間にしのさんはいただきますをして幸せそうに黒酢酢豚を食べる。
 たっぷりと餡を絡めた豚肉とパプリカを同時に口へと運び、豪快に一口で食べて
「ご飯が進む危険な奴!」
 そういってご飯も口に運ぶ顔は幸せそのもの。
 自作とは言え目の前でそんな風に美味しそうに食べる姿を見れば俺もいただきますをして酢豚を口に運び
「うん。我ながらなかなかの出来栄えで」
 最初はやっぱりお肉という様に食べれば教えてもらった通りの餡の出来栄えに満足すればご飯を口に運ばずにはいられない。
 そうやって半分ほど夢中で食べた所でしのさんは言う。
「今度チンジャオロースがいいな。ピーマンと筍のが入った奴」
「だったら次回はチンジャオロースに決まり」
「あと修司のシュウマイも久しぶりに食べたい!」
「了解しました」
 そんなこのアパートのリフォームの報酬。
 次回も食べたいものが食べれると嬉しそうな顔を隠さないしのさんに俺も料理を学んで誰かに食べてもらうことが生きていて嬉しいと思うのは、やっぱり誰かと食べるご飯は大切だと身に染みるのだった。



 
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