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雪那 由多

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春になって心機一転するかどうかはまた別の話し 5

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 少しずつお婆ちゃんの荷物が無くなり、代わりに俺の荷物が増えて行った。
 箪笥、本棚、茶箪笥。
 生活するうちに必要になったお婆ちゃん愛用の物はそのまま使わせてもらっている。
 単に親父からそれは送ってくるなとくぎを刺されたからという事もあるが、実家には似合わない家具たちの置き場も困るのでお袋のストレスを減らすためにも活用を探せば



「要は今時の時代に合わないから困っているんだよね」

 ある日しのさんがリフォームに来てくれた時にご飯を食べながら言った時の言葉。
 まあ、正直今時ないような古臭いサイズと年季の入った色合い。それに……
「ガタついて使い勝手が悪い件」
「その程度ならすぐ直せるよ」
 そういってご飯を食べ終えた後部屋にビニールシートを敷いて作業部屋から鉋を持ってきた。
 荷物を片付けて空っぽの箪笥から引き出しの動きを調べるまでもなくとりだして

 シュ……
 シュ……
 シュ……

 なんて鉋を走らせる。時々引き出しをいろんな角度から見た後箪笥に戻す。
 それを引き出しの数だけ繰り返し、同時に雑巾で箪笥の内側も綺麗にしていく。
 そこで分かったのが
「隠し引き出しから宝物がでたよ」
 そういって指が向いた先に置かれた青いベルベットの生地を張った小さな箱。
 と言うか
「隠し引き出しがあるのか?」
 どこどこ?
 そんな好奇心から引き出しを探せば
「こういうのは大体小さな引き出しを取り出して……」
 しのさんの言う言葉どおり二つある小さな引き出しを取り出した。
 一つは隠し引き出しがないもので
「あ、本当にあった」
 もうひとつの引き出しを引っ張り出せば奥行きがそこまでなく、代わりに引き出しを引っ張りだし切らないと見つける事の出来ない引き出しがあった。
 今はしのさんが中身を取り出したから空っぽだが
「結構大きな空間だな」
「ちょっとしたへそくりも隠せそうだね」
 きっと大切なものを入れていたのだろう。
 そう考えれば青いベルベットの小さな箱のふたを開ける。
 親父の所にも幾つも送った箱に似た箱だけど、わざわざそれとは別に置いてあるのだからと思って少し緊張をしながら箱の中を見れば

「うわっ、どおりで見かけないと思ったら」
「ふわー…… 何カラット? 3カラットはありそうだね」

 大きいという事はしのさんでもわかってくれたらしい。
 1gに達しない重さだからカラット。0.2gと言う宝石の重さの単位と言うのは分かっているのか目を細めてもっとありそうだねと予測するのは…… 考えるのはやめておこう。
「これはお婆ちゃんがお爺ちゃんに結婚20年の時の記念に買ってもらった物で5カラットはあるんだ」
「はぁー…… やっぱり大きかった」
「うん。家一軒ぐらい建つんじゃないかな?」
「そんなにも?!」
 じっくり見るためにのぞき込んでいたのに仰け反るしのさんがかわいくてつい笑ってしまう。

「この指輪の逸話って言うのかな?
 お婆ちゃん大切な記念日には必ずこれをつけるんだけどそのたびに
 『あの人ったら私に黙ってこんなにも大きな指輪を黙って買ってね。
 旧家の修繕の為に貯めていたお金を全部つぎ込んで結婚記念日にって渡してくれたのよ?
 もう怒れちゃって三か月の間実家に帰ったのよ』
 って言う話までついてくるんだ」

 からからと笑う俺にしのさんは顔を真っ青にしながら
「それで、無事だったんだよね?」
「無事だったからお爺ちゃんとお婆ちゃんは同じ墓に入っているってる。
 まあ、親父が言うにはお爺ちゃんはお婆ちゃんの実家に毎日足を運んでいたって、息子ながら呆れたって言うまでがこの話の全部。
 ったく、お爺ちゃんにとって無駄遣いとサプライズは禁止っていうルールがうちに根付いたんだ」
「まあ、本人の意思を無視した贈り物って全くありがたみがないからね」
「……」
 しのさんの性格がよくわかる一言を聞いた。
 そしてそれはお婆ちゃんにとっても同じで、時間に余裕のある時に足を運んで来てくれるしのさんにサプライズなんて真似はしない。
 どこにしまったのか分からなくてお互いにけん制しながらもざわざわしているお袋たちの気持ちもわからないわけはない。
 そして、たぶん親父はこれの場所を知っていたのだろう。
 だから俺に
『いずれ結婚する恋人に母さんの宝石あげたいと思わないのか?』 
 なんて言ったのだろう。
 お袋たちがひそかに探している指輪がここにあるからこその言葉。
 って言うか、この指輪が似合う人間を探す方が難しいんだけど。いっそのことお婆ちゃんを焼くときに一緒に焼いてもらえればと思うもやっぱりもったいないなと思う気持ちの方が大きくて……

「しのさん、これ、同じ場所に戻しておいてくれませんか?」
「いいけど、たぶんドロボウとかって古い箪笥にはこういった隠し引き出しがあるの知ってるだろうから気付かないうちに持ってかれても知らないよ?」
 
 何、その具体的な言葉はと思うも俺は笑みを浮かべて

「そう言う時はそう言う時だから。
 その時はずっと気付かないふりをしておくのが俺の仕事なんだよ」

 しのさんは全く理解できないという顔をしていたけど俺の中ではこの指輪を誰かに繋げる、それが役目だと理解した。
 例えばお袋たち。
 例えば通りすがりのドロボウ。
 例えば、もしそれが誰かと結婚をして生まれた子供や孫たちがこの箪笥の整理をした時とか。
 その時は発見した時の子孫にすべてを託そうと思う。
 
 

 表面の漆を削り取って化粧をしていない無垢なの箪笥を目の前に俺は隠し引き出しの中に青いベルベットに包まれた指輪の箱をしまった。
 桐の箪笥だったことにも驚いたが……

「たぶん寸分狂いのない物を作る職人の確かな腕が作った桐の箪笥だよ。
 似たような箪笥はいくらでもあるけど、この箪笥を残したのは、茶箪笥とか本棚とかも見たけど、他の物に比べたら別次元で良い物だから。
 いろいろな物を処分してきたけど、これを処分しなかった修司の感、すごいねと褒めるよ」

 そんなしのさんの誉め言葉。
 たぶん俺はお婆ちゃんが残した指輪よりもその認められる言葉の方がはるかに嬉しくて……



 お婆ちゃんの本棚から取り出した本を片手に茶箪笥に置いた茶葉を取り出してお茶を淹れ、本棚から選んだ本のページを開く。
 これはなんて幸せな時間なのだろうか。
 そして、俺がするべき事を教えてくれたしのさんに感謝しながらも

「それはそれで保管の場所を変えないとな」

 明日は銀行に行かないとなと面倒だなと考えてみた。



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