14 / 35
春になって心機一転するかどうかはまた別の話し 6
しおりを挟む
ルルルルルル、ルルルルルル、ルルルルルル……
そんなちょっと独特な音がお婆ちゃんの電話機の音。
と言うか、ここに引っ越してきてもうすぐ一か月経とうとするけど初めて聞いた音。
スマホ社会になってもお婆ちゃんは電話を愛用していたが、外では出来るお婆ちゃんという様にスマホを使いこなすご婦人だったが、一歩家の中に入れば昭和を生きるお婆ちゃんは晩年も健在だった。
そしてこちらから連絡を取る相手もいるという事で未だに電話も維持しているという流れ。
何度かそれを見ていたから俺は一応ディスプレイを確認してから取る。
「お電話ありがとうございます。緑風荘の瀬奈と申します」
なんてビジネス風に応対してしまって少し恥ずかしくなった。
だけど電話だから顔が見えないので相手は一瞬ためらった後
「お世話になっています。藤田不動産の田口と申します」
「あ、お世話になってます。緑風荘の新しい管理人になりました瀬名修司です。ええと、管理人の変更の手続きに何か不備がありましたか?」
何か書き忘れか判子の推し忘れがあったのかと思ったものの田口さんはごく普通に
「ええと、新しい入居者の募集があったのでご連絡をさせていただきました」
「は?」
「え?」
なんてお互い一瞬言葉を失った。
「ええと、新しい入居者、ですか?」
「緑風荘の新規入居者の停止の連絡はなかったので」
「そこだったか!!!」
何か不備があったのかと思ったがまさかの新規入居者停止の連絡忘れ!
あと三年で閉鎖するつもりが一年延びたことが決定。
「受け入れ、お断りは……」
「できませんよね。それがもとで契約しているのですから」
やっちまった。
その空気は受話器越しにも伝わったようで
「でしたら今後の受け入れは……」
「でしたらこの3月いっぱいまででお願いします。
部屋はまだ空いてるし、この条件で入居希望の方を無下にできないので」
「ありがとうございます。
でしたらさっそく3月1日から入居予定を希望されていて……」
「でしたら来週直ぐの希望をされていて……」
「まだ入学式に一週間以上あるのに?」
「必要なものはみんなこちらで購入したいしバイトもすぐに見つけたいと言ってまして」
雑談の中から拾った新規入居者の事情だろう。
「でしたらすぐにでもどうぞと連絡をしていただいてもいいですよ」
なんせずっとしのさんに綺麗にしてもらったのだ。
この緑風荘を処分するにもボロボロの姿のままと言うのはなんか寂しくて、無理言って修繕してもらったのだけど、思わぬ形で功を成したというか……
「ついでに記入済みの履歴書も用意するように言ってください。
恒例の銭湯のバイトも紹介したいので」
「大家が変わってもそこは変わらずですね」
「今時風呂のないアパートの入居してもらう以上最低限のフォローはします。
野田銭湯の方には俺からも連絡をしますので、その事も伝えてください」
「はい、わかりました。
あと、先日頂いたメールアドレスですがそちらに詳しい情報を送りましたのでご確認ください」
「はい…… 確認しました。
今後もよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。失礼いたします」
なんて電話は終わった。
田口さん、ちょっとぽっちゃり系の人なのに電話越しの声めっちゃいい人だなとこの声で営業されたら断れないじゃんと思わぬ罠にはまったけど……
「お婆ちゃん。予定よりもう少しこの緑風荘には長生きしてもらう事になったよ」
お婆ちゃんが隠した宝物のある箪笥に向かって話しかけるのは決して目の前の、テレビの横にあるからではない。
だけど何かあった時に視線を向けるのは一番大切な場所、それを誤魔化すためのこの配置。
なんてったってテレビ台は実家から持ってきたいかにもごつい防御力だけは高そうなテレビ台だからね。
って言うか、なんで鍵付きの扉がテレビ台なんだよ。いかにも過ぎて誤魔化す方が難しいだろ?なんて思うも
『そうやって混乱させるアイテムにちょうどいいんだよ』
なんてしのさんの言葉。
たぶん俺は騙された事にも気づかない世間知らずなんて思われているかもしれないけど、大切なものは銀行の貸金庫。
近年その概念も崩れ始めているが、この古くてどうしようもないセキュリティの家にあるよりは安全だといろんな権利書と一緒に貸金庫に放り込んだのは俺の安全のため。そしてお婆ちゃんの宝物については俺が管理している事だけは親父に伝えておいた。
危険かと思ったが、親が親なら子供も子供。
まるでお婆ちゃんの指輪をあきらめろと言わんばかりにお袋に指輪をプレゼントしたらしいのだから、結婚って大変だなと自分の結婚なんて彼女すらいない真っ白の予定に他人事のように考えてもみない話だった。
そんなちょっと独特な音がお婆ちゃんの電話機の音。
と言うか、ここに引っ越してきてもうすぐ一か月経とうとするけど初めて聞いた音。
スマホ社会になってもお婆ちゃんは電話を愛用していたが、外では出来るお婆ちゃんという様にスマホを使いこなすご婦人だったが、一歩家の中に入れば昭和を生きるお婆ちゃんは晩年も健在だった。
そしてこちらから連絡を取る相手もいるという事で未だに電話も維持しているという流れ。
何度かそれを見ていたから俺は一応ディスプレイを確認してから取る。
「お電話ありがとうございます。緑風荘の瀬奈と申します」
なんてビジネス風に応対してしまって少し恥ずかしくなった。
だけど電話だから顔が見えないので相手は一瞬ためらった後
「お世話になっています。藤田不動産の田口と申します」
「あ、お世話になってます。緑風荘の新しい管理人になりました瀬名修司です。ええと、管理人の変更の手続きに何か不備がありましたか?」
何か書き忘れか判子の推し忘れがあったのかと思ったものの田口さんはごく普通に
「ええと、新しい入居者の募集があったのでご連絡をさせていただきました」
「は?」
「え?」
なんてお互い一瞬言葉を失った。
「ええと、新しい入居者、ですか?」
「緑風荘の新規入居者の停止の連絡はなかったので」
「そこだったか!!!」
何か不備があったのかと思ったがまさかの新規入居者停止の連絡忘れ!
あと三年で閉鎖するつもりが一年延びたことが決定。
「受け入れ、お断りは……」
「できませんよね。それがもとで契約しているのですから」
やっちまった。
その空気は受話器越しにも伝わったようで
「でしたら今後の受け入れは……」
「でしたらこの3月いっぱいまででお願いします。
部屋はまだ空いてるし、この条件で入居希望の方を無下にできないので」
「ありがとうございます。
でしたらさっそく3月1日から入居予定を希望されていて……」
「でしたら来週直ぐの希望をされていて……」
「まだ入学式に一週間以上あるのに?」
「必要なものはみんなこちらで購入したいしバイトもすぐに見つけたいと言ってまして」
雑談の中から拾った新規入居者の事情だろう。
「でしたらすぐにでもどうぞと連絡をしていただいてもいいですよ」
なんせずっとしのさんに綺麗にしてもらったのだ。
この緑風荘を処分するにもボロボロの姿のままと言うのはなんか寂しくて、無理言って修繕してもらったのだけど、思わぬ形で功を成したというか……
「ついでに記入済みの履歴書も用意するように言ってください。
恒例の銭湯のバイトも紹介したいので」
「大家が変わってもそこは変わらずですね」
「今時風呂のないアパートの入居してもらう以上最低限のフォローはします。
野田銭湯の方には俺からも連絡をしますので、その事も伝えてください」
「はい、わかりました。
あと、先日頂いたメールアドレスですがそちらに詳しい情報を送りましたのでご確認ください」
「はい…… 確認しました。
今後もよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします。失礼いたします」
なんて電話は終わった。
田口さん、ちょっとぽっちゃり系の人なのに電話越しの声めっちゃいい人だなとこの声で営業されたら断れないじゃんと思わぬ罠にはまったけど……
「お婆ちゃん。予定よりもう少しこの緑風荘には長生きしてもらう事になったよ」
お婆ちゃんが隠した宝物のある箪笥に向かって話しかけるのは決して目の前の、テレビの横にあるからではない。
だけど何かあった時に視線を向けるのは一番大切な場所、それを誤魔化すためのこの配置。
なんてったってテレビ台は実家から持ってきたいかにもごつい防御力だけは高そうなテレビ台だからね。
って言うか、なんで鍵付きの扉がテレビ台なんだよ。いかにも過ぎて誤魔化す方が難しいだろ?なんて思うも
『そうやって混乱させるアイテムにちょうどいいんだよ』
なんてしのさんの言葉。
たぶん俺は騙された事にも気づかない世間知らずなんて思われているかもしれないけど、大切なものは銀行の貸金庫。
近年その概念も崩れ始めているが、この古くてどうしようもないセキュリティの家にあるよりは安全だといろんな権利書と一緒に貸金庫に放り込んだのは俺の安全のため。そしてお婆ちゃんの宝物については俺が管理している事だけは親父に伝えておいた。
危険かと思ったが、親が親なら子供も子供。
まるでお婆ちゃんの指輪をあきらめろと言わんばかりにお袋に指輪をプレゼントしたらしいのだから、結婚って大変だなと自分の結婚なんて彼女すらいない真っ白の予定に他人事のように考えてもみない話だった。
305
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる