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雪那 由多

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静かにならない昼下がり 4

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「あー、海野お前も弁当組か」
「ええと、三浦君だっけ」
「克己で良いよ。って言うかこの間から見てたけど弁当美味そうだな」
「食事つきのアパートに住んでいるんだけど、大家さんが作ってくれるおかずが美味しいんだ。
 俺が弁当を持って行くって話をしたら昨日の夜の残りだけどおかずも余分に作ってくれたんだ」
 言いながらささみの梅肉紫蘇巻の天ぷらを口へと運ぶ。
 梅の酸っぱさと紫蘇のさわやかな香りがお弁当の天ぷらなのにあっさりと美味しく食べれるし、何よりぱさぱさになりがちのささみもしっとりと柔らかくてこれだけでご飯が食べれて幸せ。
 思わず感動していれば克己は空き教室の片隅でお弁当を食べる俺の正面の席に座り
「俺も一緒に食べさせてね」
 言っておにぎりを三つ、そして冷凍食品を詰めたタッパーを広げた。
「なかなか大きなおにぎりだね」
「お米は実家から送ってくれるから。一人暮らしだから何とか自力で食べないといけないし、仕送りしてもらってる身なのに外食なんてやってられないからな。俺んち下に二人兄弟がいるから節約しないといけないし。大学行かせてくれただけでありがたいよ」
 言いながらおにぎりに齧り付いていた。
 たぶん克己も俺と同じくもっと家が裕福ならと考えた事は一度や二度じゃないのだろう。
 大学に通う事で親からプレゼントしてもらった車に乗ってきたり、休みの日に旅行に行こうなんて話が飛び交う世界の中で気持ちはなんだかみじめになっていく。
 とは言えアパート生活は思ったより悪くない。
 寧ろあの風呂無し共同トイレに共同台所と言う悪条件のアパートなはずなのに楽しく過ごしている事にまずびっくりする。
 修司さんのご飯が美味しいのが一番だし、アパートもみんなよくしてくれて本当に心強いし。
 築年数のわりに綺麗に手入れもしてあるし、初めて見た時よりも整っていくお庭に思わず草むしりの手伝いをしてしまうし。
 と言うかお庭の整い方が猛スピードで変化されていくのが驚きだ。
 ある日突然がらりと変わるのだから……
 どうなってるんだろうと本気で目を疑っている。
 それはともかく

「あのさ、俺の住んでるアパートってちょっと俺の知る常識と違っててさ、克己のアパートってどんな感じ?」
「んー、築30年ちょいで普通にバストイレが一緒のタイプのやつ。あと6畳にミニキッチン付きのよくある学生アパートだよ」
 瞬く間におにぎりを一個食べてしまった勢いに驚いていれば
「じゃあ、海野の所はどうなんだよ。常識と違うってどんな感じ?」
 なんて好奇心の輝く瞳で聞かれれば
「渉で良いよ。
 うちは一応アパートって取り扱いらしいけど一軒家をシェアするみたいな?
 大家さんが朝晩二食ご飯を作ってくれて学生さんだけで構成されているんだ」
「寮って言った方がいいかも。
 そう聞くと俺もそっちの方に引っ越したいかも」
 違約金がなければと言う克己に
「台所、トイレ共有に風呂無しでよければ?」
「何と言うか、それはきついな。って言うか風呂どうしてるんだ?」
 今時不潔は嫌われるのは当たり前だけど俺からそういった気配を感じる事がないという様に眉間を狭める克己に
「うちのアパートは基本近くの銭湯でバイトすることになってるんだ。
 特典としてタダでお風呂に入れるの。もちろん備え付けのシャンプーとボディーソープも使えるんだ」
 実家にいた時は冬場は二日に一回だったし夏場はシャワーだけで済ませていた風呂事情。
 終い湯だけどたっぷりのお湯で足どころか縁に頭を乗せて全身伸ばせるお風呂に毎日は入れる幸せ。贅沢だよな。
「なんか昔ばなしみたいなアパートだな」
「うん、最初は本当にここでいいのか悩んだけど、不動産屋の人がアパートにあまりお金かけれないのならここが絶対いいからって進められて決めたんだけどね。
 食事付きで三万円なら絶対ありだって言われてね」
「まじか?!
 そんな美味しそうなお弁当を食べさせてもらって三万円?!
 いや、でも風呂ないし、共同トイレだし……」
「学校のトイレも共同だと思えば問題ないよ。しかもこの春にトイレの交換と壁と床も綺麗に作り変えてくれたし、共同相手が知ってる人だから嫌悪感はないよ」
「なるほど、嫌悪感は不特定多数と言うと所から来るのか……」
 そうなのか?と小首をかしげる克己に笑ってしまえば
「なぁ、今度お前のアパートに遊びに行ってもいいか?
 何なら課題の事で少し勉強会しようぜ」
 なんて好奇心旺盛な克己の勢いに戸惑いながらも
「ええと、一度大家さんに聞いてみないと……」
「あー、だよな。他の人もいるし……
 一度見てみたいってだけで無理にとは言わないってことを前提にお願いします!」
 なんて勢いよく頭を下げる克己のおにぎりは気が付けば全部なくなっていた。
 いつの間に食べたんだろう。
 くしゃくしゃに丸められたラップを不思議そうに眺めながら俺もお弁当を食べる。
 自作のちょっと甘めに焼いた卵焼きに満足しながら
「戦前からある古いお家だけど地元の名家って言うのかな?すごく素敵なお家だから外からだけでも見てもらいたいな」
「うわー、そういった古民家って俺好きなんだけど」
「まず家って言うのがいいよね。うち、本当に昔ながらのアパートだから家の中に階段があるだけでもテンション上がるよ」
「わかる!実家も平屋だから階段いいよな!」
 なんて思わず握手。
 二階建てに住んでる人から見たらバカだろうと言われるかもしれないけど……
「ますます見に行てぇ……」
「がんばって大家さん説得するね」
「じゃあ、とりあえず連絡先交換よろしく」
 なんて流れでスマホを取り出していた。

 アパート、バイト関係なく大学で初めて出来た友人の三浦克己の名前をしばらく眺めていた。




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