緑風荘へようこそ

雪那 由多

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静かにならない昼下がり 3

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 金曜夜は野田さんの所でバイトをしてさっぱりした所でコンサートの撤去作業と言うバイトに出かける。
 もちろん緑風荘メンバー勢ぞろいで向かう。
 春休み期間から何度か参加しているから渉ももう慣れたように仕事終わりの軽食のおにぎりを握っていた。
 始発が動き出すまでどうしても時間があるのでその間の軽食にと用意する。
 まあ、炊飯器がお米を炊いてくれるのでお米を研いで水を入れてセットすればいいだけなのでお米ぐらいはいくらでも炊いてやる。

 そんなお米だけど昨今の高騰の具合に頭を悩ませていたらしのさんがお安いお米を提供してくれるところを紹介してくれた。ちなみに大学時代の話しだ。
 紹介先からは古米、古古米でよければと言う条件。
 農家さんから直接の売買で送料込みで30キロの玄米を精米してもらって買わせてもらっているので全然問題ない。むしろありがとうございますとお中元、お歳暮、新年のあいさつは欠かさず何か贈らせてもらっている。
 最初は古米、古古米なんて大丈夫なのかと思うも冷暗所での温度管理が出来ている場所での保管の上に送る直前で精米してもらっているので思ったほど悪くない状態だとおもった。
 ひと月で30キロペースで消費されるアパート事情。
 古米、古古米で十分とそこはお婆ちゃんも納得してくれていた。
 さらにみんなも
「薬局で買う格安のお米より断然美味しいから問題ないです!」
 家庭の事情で中々厳しい食事事情で育った事情。
 聞いていて思わず両手で顔を覆ってしまいたくなる内容だけど、戦前生まれのお婆ちゃんはうんうんと頷きながら
「石の入ってないご飯ほど美味い物はないからね」
 飽食の時代に贅沢に育ててもらった俺は俺の知識の中の贅沢がどんどん変わっていくのを覚えずにはいられなかった。

 因みに古米、古古米と言う条件の理由は聞いて泣けた。
 なんでも毎年ご近所の知り合いの方々が一年分を予約してくれるので確保しているというが、限界集落問題を抱える村なので引き取りにこれない事情が多発。それが積もり積もって新米を食べる前にそちらを消費しなくてはいけないという事情。
「売るとなると家畜の餌になるしかないから。それでよければ送料代だけでいいよ。って言うか本当にこんなお米でいいのかい?」
 その事情にも泣けた。
 テレビで騒ぐ古米、古古米で喚く世間様。だけど農家様はずっとこのような暮らしを知っていて……
 とりあえずその方にはほんと感謝しながら買わせてもらっているお米はほんとこのアパートの経済事情にはありがたいものだった。
 
 そういった経緯で入手した以上お米だからみんなには沢山食べてもらっている。
 冷暗所で玄米のまま保存されたお米は少し水加減を多くするだけで気にならない。
 そこの所は米農家のお米事情を知る颯也が教えてくれたので学ばせてもらっている。
 ちなみにどんな事情に発展するかわからないから内輪の取引はしないというお婆ちゃんが決めたルールは守っている。最初こそなんで、ひょっとしたらお米安く買えたのにと思ったけど颯也の家の事情を聴くたびに取引をしてはいけない家と言う不信感が募っていくばかりなのでお婆ちゃんの言う通り内輪の取引はしない事に決めている。
 お婆ちゃんは最後まで俺に言わなかったけど颯也がそこの所を教えてくれた。
 優先的に譲りますよ。
 なんて市場価格で売りつけようとしていたという。
 もちろんその年のお米の価格で。
 そこの所はお婆ちゃんもちゃんとした金銭感覚を持っていた、と言うかお金にはシビアなお婆ちゃんだったから颯也が知った時にはきっぱりとお断りした後。
 お婆ちゃん強い、俺の中では最強はお婆ちゃんだ。
 
 そんな経緯で手に入れたお米を頬張ってくれるみんなが軽食をもってバイトに出かけるのを見送り、戸締りをした後は俺は自分の家に戻って風呂に入って早々に寝る。
 時間はまだ日付をまたぐには早い時間。 
 だけど俺は缶ビールと本を片手にベッドにもぐりこむ。
 英語の勉強ではないけど英語の本は読み続けている。
 大学時代翻訳したバイトが俺的にはやりがいがあったとはいえ受験以上に頭を使った達成感。アレを忘れることが出来ないという中毒。
 社会人になってから連絡はないけど、こうやって緑風荘の管理人をやって、家の手伝いをしている事をどこかで聞いたら……
「まあ、ないな」
 ひょっとしてまた何かの翻訳をさせてもらえるだろうかと期待をする心は淡くもあるが
「あったとしてもどうせなんかの専門書に決まってるだろうから」
 断ったとはいえ何度かもらった話は全て専門書。
 むしろあれから成長しただろと言ってもっと厄介なものを持ってくる予感しかない。
 絶対やばい案件既に確定と震えた所で本を置いて缶に残っていたビールを一気飲み。
 布団に入ってさっさと眠った所で気が付いた。

タン、タタタン、タタタタタタタタ……

 なんて着信音。
 癒し系クラッシックと言われる曲が流れたという事は俺の癒しからの連絡。 
 眠たい瞼をこじ開けてみたメッセージは

「おはよ。
 起きてても寝ててもいいけどお庭の手入れを始めちゃうから気にしないで寝ててもいいから」

 なんて……

「しのさん、早いよ!!!」

 時計を見れば朝の六時前。
 始発の電車に乗って来たのだろうことはいつもの事。
 だけど慌てて外に出れば車が一台出発した所。
 そしてしのさんの足元には苗が詰まった箱。あと植木鉢も。
 なんて言うかまだ夢を見ているというか……

「レイズドベッドを飾りに来たよ!
って、まだ眠そうだから寝てていいから。今日はおそば持ってきたからそれでお昼にしようね」

なんて朝にふさわしい眩しい笑顔。 
頭がまだ眠っているのに朝日を浴びたような眩しさに目は冷めていくも頭は現実逃避という様にまだ起動しない。

「あーあ、寝癖酷いよ?
 とりあえず眠いなら二度寝した方がいいよ。
 お昼には起こすから、台所借りるから裏口は開けておいてね」

 言いながらしのさんに引っ張られてベッドへと逆戻りされてしまった。
 いや、お布団かけてもらってぽふぽふと肩口の隙間も押さえてもらって、なんて言うか

「しのさんの子供になりたい」
「まだねぼけてるな?」

 なんて笑っていたけどカーテンも隙間なく絞められてしまった暗い室内。
 その暗さと現実逃避にあっという間に瞼が重くなって、気が付けば

「あ、おはよう。二度目なの覚えてる?
 もうすぐお蕎麦ゆで上がるから起きててね。天ぷらも揚げたから熱々のうちに食べようね。
 あとみんな帰って来たけど眠いから寝るから夕方のバイトの時間には起きるので三時ごろにご飯をお願いしますって」

 連絡了解ですって言うかなんか先日と似たようなメニューを聞いたけど……
 ふらふらとした足取りで机の所で待っていればすぐに出される緑茶と漬物。
 のどを潤すように緑茶をゆっくりとすすった後は冷蔵庫でよく冷やされた漬物を頂きゆっくりと目を覚ましていく。
 その間にも机に並べられていく天ぷら。
 箸を使わず手でつまみ上げての実食。

 一流の中華の料理人とは言え料理を教えてもらった人から学んだ俺の天ぷらは美味しいとお婆ちゃんを始め親父もお袋も喜んでもらったのにしのさんの野菜のかき揚げを食べるとなんというか、それがお世辞ではないかと思ってしまうくらい期待を膨らませる食感のさっくりとした揚具合。
 何が違うんだと思いながら食べていれば

「つまみ食い禁止だよ」

 ざるそばを持ってきた篠さんに見つかってしまった。
「いや、あまりにも美味しそうだったから」
 言えばしのさんはふにゃりと笑って
「仕方がないなあ」
 なんて言うしのさんの好物が天ぷらという事を知る俺はご機嫌を取るように野菜のかき揚げの作り方を聞きだしていた。

 
 
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