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雪那 由多

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静かにならない昼下がり 5

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「初めまして、三浦克己です!
 渉と同じ学部でお昼の時にアパートの話を聞いて一度どんな所か見てみたいとわがままを言わせてもらいました!
 今日は一晩お邪魔します!」
 「「「物好きさんいらっしゃーい!」」」
 なんて歓迎会。
 バイトが終わったころの銭湯前で待ち合わせをして合流してからの歓迎会。無事克己と合流できてほっとしていればアパートに帰るまでにみんなと打ち解けて
「いやいや、渉に友達が出来てほっとしたよ。
 って言うか、俺これからちょっと出かけるからあとよろで」
「あー、修司さん明日法事でしたっけ」
「ああ、月命日って奴。
 週末に重なったからたまには集まろうってさ。ついこの間四十九日やったばかりだって言うのに」
 ぼやく修司さんに
「毎回呼び出されるわけじゃないからお呼びがかかった時ぐらいは顔を見せに行きましょうよ」
 瑞己がそういうけど
「週二で会社に顔を出しているのに必要か?」
 ぶつぶつ言いながらも立ち上がり
「じゃあ、あとはほんとよろしく。戸締りだけは気をつけろ。あと20歳未満の渉と克己だったな。酒は飲ませるなよ。ちなみにここは禁煙だ。お客さんでも守らすように」
 なんて年長者の瑞己と颯也に言い聞かす。
 だけどすでに始まったパーティ。
「りょーかい」
「明日の晩御飯の用意するまでには戻るから。朝は悪いけどパンと冷蔵庫にポタージュを作っておいたから温めてたべてくれ」
「朝ごはんぐらいよかったのに。でもありがと。
暗いから気を付けてねー」
 なんて思わず雑な挨拶になってしまう理由は歓迎会でポテトと唐揚げを用意しておけばいいという正義に大家と言う地位が負けたらしい。
 仕方がない。
 唐揚げなら負けるのは仕方がないよ修司さん。
 そんな修司さんはポテトじゃないだけましだと少しの寂しさを背中で語りながら着替えをもって一人寂しくアパートの外から鍵を閉めて車に乗て行ってしまった。
「ほんと寂しいんだけど!!!」
 なんて叫んでいる事を知らない俺達は
「修司さんのから揚げホント最高!」
「お客さんが来てくれたおかげでいつもより唐揚げマシマシ天国かよ!」
「って言うか、渉のお弁当を毎日見てたけど見た目通り本当に美味しいですね!」
「だろ?修司さんのご飯本当においしいんだ!」
 俺達のアパートの大家さんが褒められてテンション高くなってしまう。
「それより克己は今日渉の部屋でお泊りか?」
「一応寝袋持ってきてるんで!」
「それであの大荷物!」
「電車の中で目立たない都会最高!」
 なんて克己は唐揚げを掴んだ箸を高く掲げれば
「田舎だと目立つのか?」
「まあ、そういう観光がない場所だから」
「なのに寝袋持ち?」
 思わずという様に颯也が聞けば

「ああ、うち家が狭いから布団敷く場所がないから。寝袋だとちょうどいいんだ」

 その言葉に思わず涙を滝のように流すのは誰か。
「俺達も結構実家の生活が苦しかったりするけど……」
「ちゃんと布団に寝れた。布団に寝る贅沢、贅沢だったんだ……」
「俺、今度の休み実家に帰ろう。
 弟がちゃんとした人の生活をさせてもらえるか抜き打ちチェックしないと……」
 瑞己、陽人、そして何か物騒な事を言ってる颯也もみんなぎりぎりの生活をしている仲間同士。
 思う所が一緒なのが少し悲しいけど……
「とりあえず明日は修司さんいないから寝坊決定!」
「じゃあ今のうちの朝メシ分けておこう」
「だなだな」 
 なんて手慣れている瑞己の提案に大家さんの冷蔵庫から取り出した鍋からポタージュを分けてから一言。
「いいか。これは朝飯だ。
 いくら美味しそうだからって今晩食べると明日の朝の分はないから注意しろ」
 至極真剣に語る瑞己の言葉。
 そして気付いてしまった。
「ちゃんと分けた後は自己責任、という奴ですね」
 後はいつ食べても誰も迷惑がないと言うということに気付いてからポタージュを見ればたらりと涎が垂れた。
「渉、よだれ、よだれ!」
「あ!うわっ、はずっ!!!」
 思わず袖口で拭うも
「分かる。分かるよ。
 修司さんのポタージュってなんで美味しいんだろうって本当に思うよね。
 普通に缶詰のコーンの奴使ってるのになんでこんなにもおいしいんだろうって思わずスプーンが……」
「落ち着け陽人。お前は俺より修司さんのご飯を食べるチャンスがあるんだ。
 我慢しろ」
 なんて瑞己さんの説得になぜか颯也が泣いていた。
 まだ一年留年している事を知らない克也は小首をかしげていたが
「俺もここのアパートに入りたい! 
 だけど今のアパートの一年縛りがあぁぁ!!!
 あと風呂無し、悩む!!!」
 もだえる克己に
「銭湯のバイトに慣れたら気にならないよ?」

「分かってる。分かってるけどあああぁぁぁっっっ!
 生活は厳しいけどやっと手に入れた人並みの生活、もうちょっと堪能したい!!!」

 それを言われたらどうしようもないという様に俺はこれ以上誘う言葉を見つけることが出来なくて……
「とりあえず一年経ったらもう一度考えてみようか」
「唐揚げ最高だし、考えてみる」
 それまでにはこっちに引っ越すかどうか考えよう?という様に課題を与えて見ればかなり不純な動機にみんなで修司さんの唐揚げに勝てるわけないよなと心の中で時間の問題な事を察するのだった。


 
 そしてその晩瑞己たちに巻き込まれてもにょもにょ……
 リビングと言うか畳の部屋でみんなで朝方までゲーム大会からの雑魚寝。
 気が付けばお昼に近い時間に目が覚めて、天気も良かったからまだ開発途中の庭に置かれたキャンプセットのテーブルにご飯を並べて珍しくバイトのない優雅な日を楽しむのだった。

 

 
 

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