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第十六話
しおりを挟む「……ふむ。故郷のボルメルン王国を助けたいと……」
「んでも、エミリアちゃんを追放したんだろー? それでも助けたいもんなんだな」
「イリーナさん、エミリアさんを追放したのは国であって、家族ではありません。ですから――」
「家族……がいるからか。すまないな、エミリアちゃん。ちっと、無神経だったわ」
ノエルがクラウドとイリーナに私が自分の故郷を助けたいと思っているという話をしてくれました。
彼女の話を聞いた二人は真剣な表情をして私を見ます。
無理な相談だということは分かってますから、だんだん私は申し訳なくなってきました。
「すみません。私も無神経でした。今はメーリンガム王国の巫女ですから。この国のことに集中します」
私はいたたまれなくなって二人に謝罪します。
そう、今の自分はメーリンガムの巫女。この国の治安を守ることだけを考えなくてはなりません。
「……そうですな。その心がけは大事でしょう。――ですが、エミリア様。貴女は巫女として……我が国にとってかけがえのない存在になっています。それならば、貴女の心労を取り払うのは私たち護衛隊の役目……!!」
「そういうこと。あたしらを頼ってくれて全然いいんだ。エミリアちゃんが悩んでるなら、あたしらは全力でそれを解決してやるからさ」
お二人は力を貸してくれると仰ってくれます。
こうやって悩みを打ち明けて、それを助けようと言ってくれる人たちと出会えたことは僥倖でした。
――しかし、デルナストロ山脈によって隔てられた隣国を救うということは思った以上に難しい話でした。
クラウドが国王にその話をすると、彼はこのように述べたそうなのです。
「エミリア・ネルシュタインは確かに我が国では英雄じゃ。しかしながら、隣国ボルメルン王国では国外追放された罪人。無論、ワシもお前と同様にエミリアの無実を信じておるが、彼女がボルメルンを救いたいのなら、冤罪を晴らして、あちら側が頭を下げて助けを乞うのを待つべきであろう。追放された国へ入ることはままならんのだから」
つまり、私がボルメルン王国で結界を張りたいのなら、まずは自分の冤罪を晴らさなくてはならない。
国家追放されている身である私が故郷に入るための最低条件は満たさないとこの話は到底受け入れられないと彼は仰せになられたということです。
「んじゃ、仕方ない。イリーナ姐さんがちょっくらボルメルンで探りを入れてきてやるわ」
「おい、イリーナ。何を急に――」
「だってさ、勝手にエミリアちゃんの冤罪が晴れるなんつーこと、起こるわけないだろ? だったら、あたしが晴らしてやるってんだ。エミリアちゃんはここで吉報を待ってな」
なんとイリーナがボルメルンへ赴いて、私の無罪を証明してくれると主張されました。
そ、そんな……。イリーナにだって仕事はありますし、私のために危険を冒すなんて……。
「気にすんな。つーか、あたしは止めたっていくぞ」
私が彼女の身を案じると彼女はニヤリと笑って止めても行くと断言されます。
クラウドも見ていないで止めてほしいです。
「はぁ……。エミリア様、イリーナがこの顔のときは何を言っても無駄です。……行くからには手ブラは許さんぞ――」
「えっ? クラウドさん?」
「はっはっは! これで決まりだ。んじゃ、ボルメルン王国に行ってくる。お土産期待して待っててくれ」
いつもは沈着冷静なクラウドは信じられないことにイリーナの背中を押しました。
イリーナは上機嫌そうに笑って出かける準備をします。
ほ、本当に私の無罪を証明するために行ってしまわれた……。
止められなかった私は……彼女の帰りを待つことになるのですが、思いもよらぬ展開になることをまだ知りませんでした――。
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