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第二章
第二話
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少し待てば、俺が頼んだチョコレートケーキとアイスティーが出てくる。そしてコーヒーの香りが漂ってくるなと思ったら、紫ノくんはブラックコーヒーだけを頼んでいた。
「紫ノくんお腹空かないの?」
俺はトレーを持って、席へと帰っていく。
紫ノくんはコーヒー片手に頷いた。
「まだ空いていない。朝ごはん食べすぎた」
「そういえば紫ノくん、いっつもおかわりしてたもんね」
「うん。燃費悪いよ」
それにしては、紫ノくんの体系はスマートだ。
腰が細くて、肩幅が広い。足も長くて、モデルみたいな体型だ。
(そりゃモテるわけだ)
俺は自分を見下ろす。特に長いわけでもない足、細くもない腰、割れてない腹筋。
平々凡々な身体。ちょっとだけ、紫ノくんと並んで歩くのが恥ずかしかった。
俺はテーブルにトレーを置くと、荷物をよけて、椅子に座る。
「改めて、お久しぶり、紫ノくん」
「うん、改めて。お久しぶり、日生くん」
お互い椅子に座りながら、頭を下げあう。
まるでお見合いだ、でも俺たちの間に羞恥はなくて、ただ再会の喜びに満ちていた。
顔を上げる。俺は自然と微笑んだ。それに、紫ノくんも小さく笑ってくれる。
紫ノくんは、俺相手だと、表情で感情を伝えてくれる。俺が昔「紫ノくんの笑顔が好き」と言ってから、紫ノくんは嬉しい時は、俺に笑顔で知らせてくれるようになった。
「それにしても、ほんとに偶然。よく見つけてくれたよな、俺のこと。俺ちっとも気づかなかった、ごめんな、紫ノくん」
「良いよ。俺も、忘れられてるかもしれないって、臆病になって声かけられなかっただけだから」
「うわあ、覚えてて良かった。紫ノくんのこと、俺だって忘れたくなかったんだよ。でも成長して、まさかこんなピカピカの男の子になってると思わなくてさあ」
「ピカピカ?」
「うん、輝いてるよ。昔、ずっと前髪で目元隠してたけど、切ったんだね」
俺が前髪を切るような仕草をしたら、紫ノくんは頷く。
「日生くんのこと、絶対見つけたくって」
「変わらず嬉しいこと言ってくれるよなあ、紫ノくん。見つけてくれて嬉しかったよ」
俺は昔のように、無邪気に微笑んでいられているような気がした。歳をとるにつれ、笑顔にも現実が現れる。俺は負け犬だ、すぐ人を好きになって、そして破れて。傷ついて、どんどん臆病者になっていった。
でも、紫ノくんの前ではそんなこと、忘れられる。誰かのことを純粋に好きになれた頃の自分を思い出させてくれるのだ。
だって、俺の初恋は紫ノくんだったから。
(ま、一生言わないけどさ)
紫ノくんにまで離れられたら、俺はどうにかなってしまうかもしれない。それくらい、俺は紫ノくんが好きだった。
一緒にいられた間、俺は確かに報われていた。愛情を与えれば与えるほど、紫ノくんは確かに俺の好意に報いてくれたから。
一緒にいようと理由を作らなかったって、紫ノくんとは一緒にいられた。なんだか寂しいと思う時は、大抵紫ノくんがいない時だった。
今恋をしているかと聞かれればそうじゃないけど、大切なことに変わりはない。
「中学の時、何してたの。他に友達できた?」
「図書委員を三年間してた。友達はいらない」
「俺、中学の頃吹奏楽部にいたよ。トランペット吹いてた」
「友達は?」
「うーん、まあまあ?」
「ふーん」
紫ノくんはつまらなさそうに呟く。
そして、コーヒーを一口飲んで、ストローを口から離した。
「僕みたいに、日生くんのこと、大切にしてくれる人は現れた?」
俺はその言葉に、なんと返事をすれば良いのか、わからなかった。
俺のことを、大切にしてくれる人。
日生くんくらい、俺を大切にしてくれる人。
心底傷ついた時に、その傷を隠すんじゃなくて、ちゃんと傷ついたと言えて、そして、その心を癒そうとしてくれる人。
「……いない」
「そっか。俺もずっと、日生くんのことが好きだったよ」
「俺も、紫ノくんのことがずっと好きだよ。俺と死ぬまで友達で居てくれ」
俺が笑いながらそう言えば、紫ノくんは笑うことなく、首を横に振る。
笑顔が、心が、冷たくなって固まるのがわかった。
「あー、いや、一生は重すぎたよな、ごめん。紫ノくん」
「違う」
「違う?」
「ずっと一生、俺といてよ。日生くん」
「紫ノくんお腹空かないの?」
俺はトレーを持って、席へと帰っていく。
紫ノくんはコーヒー片手に頷いた。
「まだ空いていない。朝ごはん食べすぎた」
「そういえば紫ノくん、いっつもおかわりしてたもんね」
「うん。燃費悪いよ」
それにしては、紫ノくんの体系はスマートだ。
腰が細くて、肩幅が広い。足も長くて、モデルみたいな体型だ。
(そりゃモテるわけだ)
俺は自分を見下ろす。特に長いわけでもない足、細くもない腰、割れてない腹筋。
平々凡々な身体。ちょっとだけ、紫ノくんと並んで歩くのが恥ずかしかった。
俺はテーブルにトレーを置くと、荷物をよけて、椅子に座る。
「改めて、お久しぶり、紫ノくん」
「うん、改めて。お久しぶり、日生くん」
お互い椅子に座りながら、頭を下げあう。
まるでお見合いだ、でも俺たちの間に羞恥はなくて、ただ再会の喜びに満ちていた。
顔を上げる。俺は自然と微笑んだ。それに、紫ノくんも小さく笑ってくれる。
紫ノくんは、俺相手だと、表情で感情を伝えてくれる。俺が昔「紫ノくんの笑顔が好き」と言ってから、紫ノくんは嬉しい時は、俺に笑顔で知らせてくれるようになった。
「それにしても、ほんとに偶然。よく見つけてくれたよな、俺のこと。俺ちっとも気づかなかった、ごめんな、紫ノくん」
「良いよ。俺も、忘れられてるかもしれないって、臆病になって声かけられなかっただけだから」
「うわあ、覚えてて良かった。紫ノくんのこと、俺だって忘れたくなかったんだよ。でも成長して、まさかこんなピカピカの男の子になってると思わなくてさあ」
「ピカピカ?」
「うん、輝いてるよ。昔、ずっと前髪で目元隠してたけど、切ったんだね」
俺が前髪を切るような仕草をしたら、紫ノくんは頷く。
「日生くんのこと、絶対見つけたくって」
「変わらず嬉しいこと言ってくれるよなあ、紫ノくん。見つけてくれて嬉しかったよ」
俺は昔のように、無邪気に微笑んでいられているような気がした。歳をとるにつれ、笑顔にも現実が現れる。俺は負け犬だ、すぐ人を好きになって、そして破れて。傷ついて、どんどん臆病者になっていった。
でも、紫ノくんの前ではそんなこと、忘れられる。誰かのことを純粋に好きになれた頃の自分を思い出させてくれるのだ。
だって、俺の初恋は紫ノくんだったから。
(ま、一生言わないけどさ)
紫ノくんにまで離れられたら、俺はどうにかなってしまうかもしれない。それくらい、俺は紫ノくんが好きだった。
一緒にいられた間、俺は確かに報われていた。愛情を与えれば与えるほど、紫ノくんは確かに俺の好意に報いてくれたから。
一緒にいようと理由を作らなかったって、紫ノくんとは一緒にいられた。なんだか寂しいと思う時は、大抵紫ノくんがいない時だった。
今恋をしているかと聞かれればそうじゃないけど、大切なことに変わりはない。
「中学の時、何してたの。他に友達できた?」
「図書委員を三年間してた。友達はいらない」
「俺、中学の頃吹奏楽部にいたよ。トランペット吹いてた」
「友達は?」
「うーん、まあまあ?」
「ふーん」
紫ノくんはつまらなさそうに呟く。
そして、コーヒーを一口飲んで、ストローを口から離した。
「僕みたいに、日生くんのこと、大切にしてくれる人は現れた?」
俺はその言葉に、なんと返事をすれば良いのか、わからなかった。
俺のことを、大切にしてくれる人。
日生くんくらい、俺を大切にしてくれる人。
心底傷ついた時に、その傷を隠すんじゃなくて、ちゃんと傷ついたと言えて、そして、その心を癒そうとしてくれる人。
「……いない」
「そっか。俺もずっと、日生くんのことが好きだったよ」
「俺も、紫ノくんのことがずっと好きだよ。俺と死ぬまで友達で居てくれ」
俺が笑いながらそう言えば、紫ノくんは笑うことなく、首を横に振る。
笑顔が、心が、冷たくなって固まるのがわかった。
「あー、いや、一生は重すぎたよな、ごめん。紫ノくん」
「違う」
「違う?」
「ずっと一生、俺といてよ。日生くん」
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