負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第五章

第六話

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「じゃあ、あんたが臆病者なのね。ちゃんと、最後までやり切って、それでもダメなら離れなさい」
 俺の決意が揺らぐ。ばあちゃんの言っていることに対して、確かに、と思ったから。
 まだ俺は、紫ノくんから恋人がいて、その人に恋をしていたとは聞いていない。
 でも、聞く勇気が出ないのだ。本当は昔、一度恋をしたことがあったなんて言われたら、俺はまた、惨めな負け犬になる。
 でも、誰が恋愛をしようが自由だ。河辺さんも言っていた。カモフラージュだったと思う、と。
 そうなのかもしれない。
 一週間経ったら、覚悟を決めよう。
「ばあちゃん」
「ん?」
 布団に入って、天井を眺めながら、俺は言った。
「一週間経ったら、俺、ちゃんと勇気、出すよ」
「そうしなさい」
「うん」
 紫ノくんごめんね。
 ちょっと時間が欲しいんだ。
 だって紫ノくんは、俺以外も好きになれるでしょ? 女の子とだって恋ができる。
 俺は男としか恋愛ができなくて、それも、叶った事もない。
 俺は紫ノくんに見捨てられたら、死んじゃうから。
 だから、ちょっとだけ待って。
 
 俺はばあちゃんの家で、朝早くに起きて、家の掃除をして、庭にできた野菜を作って朝ごはんを作ってもらう、そして昼ごはんは俺とばあちゃんで買い物に行って、夜ご飯の材料と一緒に昼ごはんの材料も買うのだ。
 お昼ご飯、今日俺が作るのはしらす丼だ。
 手抜きだろうがなんだろうが、美味しければいい。俺はしらすをご飯の上に散らして、黄卵と鰹節、刻みネギと白胡麻と醤油を入れる。
 そしてどんぶりを両手にもつと、居間の座卓に置いた。
「ありがとう」
「うん、緑茶でいい?」
「そうね、煎れる?」
「ううん、冷蔵庫ので良い」
「じゃあばあちゃんの分も入れてくれる?」
「うん」
 俺は二つのグラスに緑茶を入れると、箸を二人分持って、ばあちゃんに渡した。
 テレビは着きっぱなしで、バライティ番組が流れている。
 最近、過去有名だったらしい司会者が亡くなったという、追悼の映像が流れていて、俺はそれを誰かも知らないのに眺めていた。
「美味しいわね。これ、ちょっと隠し味入れてるでしょ」
「うん。何入ってると思う?」
「ばあちゃんを試そうなんてね」
 そしてニヤリとした顔で隠し味を当てるから、俺は頷いた。さすがばあちゃんだ。
「何年料理してると思うの。わかってくるもんよ」
「俺はまだまだ未熟だってことだ」
 肩を竦める。
 するとばあちゃんは美味しそうにしらす丼を食べながら、俺に大学生活のことをぽつりぽつりと聞く。
「どうなの、将来に何になるかとか、考えたりするの?」
「うん、まだわかんないかな。でも、誰かの役に立てる仕事に就きたいなあ」
「いい心掛けね。ばあちゃん、感激しちゃうわ」
「じいちゃんにも、就職したら挨拶しないとな」
 また一口、スプーンを口に運ぶ。我ながら美味しくできたなと思った。
「さて、昼ごはん食べたら、蔵の中にあるお着物の虫干しも手伝ってもらうわよ」
「うわ、大変なやつだ」
 俺が嫌そうな顔をするのを見て、ばあちゃんは笑う。
「頑張ってもらいますからね」
「はーい」
 実際、俺は嫌だなんて思っていなかった。俺みたいな戦力がいないと、簡単にはできないことなのだろう。
 着物は、ばあちゃんの母さんから受け継いだものだった。
 ばあちゃんはお金持ちのお嬢様で、じいちゃんはその屋敷に雇われた庭師の弟子だったらしい。そこで恋に落ちて、十八の時に駆け落ちしたのだ。
 晩年、自分の母親の体調が悪いと使用人に聞かされて、ばあちゃんは会いに行った。
 そこで昔のことを叱られて、大層な遺産は残せないから、と着物を受け継いだらしい。そこには、今となればとんでもない値段になる一枚もあるらしい。俺はばあちゃんが心配だった。いつ強盗が現れるかもわからない。
 でも俺はどうしてばあちゃんが家の鍵をかけないのか、その理由を知っているから、キツく言えないのだ。
 俺は夕飯を食べ終えてさっさと食器を洗うと、虫干しを手伝いに行く。
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