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第五章
第五話
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「ばあちゃん、今日の夕飯決まってる?」
「あんたが来たから、庭の茄子使って麻婆茄子にするわ。その他は、そうねえ、オクラの醤油あえとか良いかしら。冷奴に、お味噌汁。それでいい?」
「うん。十分。手伝うよ」
「良いわよ。ゆっくりしておきなさい。後で、おばあちゃんに何があったのか、話せるなら話してね」
「……うん」
ばあちゃんが台所へ消えていく。
ばあちゃんはいつも、俺が逃げ出してくると必ず受け入れてくれるのだ。
中学生の頃「ホモ野郎」と罵倒された時、傷が大きすぎて、誰にも言えなくてばあちゃんの家に逃げ込んだ時も、ばあちゃんは何も言わず、そばにいてくれた。父さんと母さんには言えなかった。今となれば俺がゲイだって知ってるけど、それも、行ったのは高校生の頃だ。それまで、俺が女の子を好きになれないことを知っていたのは、ばあちゃんだけだった。
俺は立ち上がって、ばあちゃんの邪魔にならないところに座ると、その料理姿を眺める。
するとばあちゃんは手のひらを皿にして、麻婆茄子の味見をさせてくれた。
「美味しい」
「良かった」
そう言って、俺は出来上がった料理をみんな座卓に置いていく。
「お味噌汁、いっぱい飲む?」
「うん」
俺はばあちゃんの味噌汁が大好きだった。じゃがいもがゴロゴロ入っていて、味がよく染みているのだ。
そして、準備が終わって、俺は座布団の上、正座をした。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
「ばあちゃん」
「うん?」
「染崎紫ノくんって覚えてる?」
「ああ、あの親友の子?」
「そう」
俺は箸を取ると、まずお味噌汁に箸を入れる。じゃがいもを掴んで、口の中に入れると、予想通り熱くて、俺は口の中に空気を入れながら、噛み締めた。
おばあちゃんは俺の方を見ながら、麻婆茄子に箸を伸ばしている。
「その子にさ、告白っていうか、ずっと好きだったって言われたんだよね」
「そう」
「でも、俺、今まで失恋しかしたことないし、それに、……紫ノくん、高校の頃、彼女が居たみたいで」
「うん」
ばあちゃんの相槌は穏やかで、何もかも話してしまいそうだった。本当に、何もかも話しても、きっとばあちゃんは受け止めてくれるだろう。
「俺だけが好きだって言ってたのに」
恨み言だった。
俺は、紫ノくんの気持ちに応えた訳でもないのに、紫ノくんがもしかしたら恋をしていたのかもしれないと思うと、心が嫉妬に焼き切れるのだ。
その女の子が良いなら、ずっとその子と付き合っていれば良かったじゃないか。別れたって、どうして別れたの。俺のことだけ、好きだったんじゃないの。
「嫉妬してるのね」
はっきりと口にされると、俺は笑うことしかできなかった。
「そうだね、嫉妬してるんだと思う」
「はっきりそう言えば良いじゃない」
「嫉妬してるって?」
「そうよ。好きな子に嫉妬されて嫌がる男なんていないでしょう」
「面倒くさいって思われたらどうしたらいいの?」
「それくらいの器の男だったってことよ」
バッサリと切り捨てられる。でも、その意見は尤もだなと思った。多分、紫ノくんは俺が嫉妬したと聞いたら、嬉しそうに笑って、俺を抱きしめてくるだろう。
紫ノくんは、女の子とも恋愛ができる。
良いんじゃないかと思った。紫ノくんの家族は、きっと紫ノくんが男に恋心を抱いているなんて思わないだろう。いつか、紫ノくんを理解してくれる誰かが現れると思っているはずだ。
ずっとそばに居て欲しい。
俺だってそう思ってる。でも、現実は優しくない。
俺は、帰ったら紫ノくんの告白を、正式に断ろうと思った。
それが、俺にとって一番良い選択肢だと思ったから。紫ノくんにとっての最善は考えなかった。きっと俺を忘れて、他の誰かを好きになってくれることを祈るしかできない。
俺は夕飯を食べ終えると、お風呂に入って、ばあちゃんと布団を並べた。
「その紫ノくんって子は」
「?」
「本当にあんたに、言ったの? 好きな人が昔に出来て、その子と恋人同士になったって」
「……言ってないけど」
「あんたが来たから、庭の茄子使って麻婆茄子にするわ。その他は、そうねえ、オクラの醤油あえとか良いかしら。冷奴に、お味噌汁。それでいい?」
「うん。十分。手伝うよ」
「良いわよ。ゆっくりしておきなさい。後で、おばあちゃんに何があったのか、話せるなら話してね」
「……うん」
ばあちゃんが台所へ消えていく。
ばあちゃんはいつも、俺が逃げ出してくると必ず受け入れてくれるのだ。
中学生の頃「ホモ野郎」と罵倒された時、傷が大きすぎて、誰にも言えなくてばあちゃんの家に逃げ込んだ時も、ばあちゃんは何も言わず、そばにいてくれた。父さんと母さんには言えなかった。今となれば俺がゲイだって知ってるけど、それも、行ったのは高校生の頃だ。それまで、俺が女の子を好きになれないことを知っていたのは、ばあちゃんだけだった。
俺は立ち上がって、ばあちゃんの邪魔にならないところに座ると、その料理姿を眺める。
するとばあちゃんは手のひらを皿にして、麻婆茄子の味見をさせてくれた。
「美味しい」
「良かった」
そう言って、俺は出来上がった料理をみんな座卓に置いていく。
「お味噌汁、いっぱい飲む?」
「うん」
俺はばあちゃんの味噌汁が大好きだった。じゃがいもがゴロゴロ入っていて、味がよく染みているのだ。
そして、準備が終わって、俺は座布団の上、正座をした。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
「ばあちゃん」
「うん?」
「染崎紫ノくんって覚えてる?」
「ああ、あの親友の子?」
「そう」
俺は箸を取ると、まずお味噌汁に箸を入れる。じゃがいもを掴んで、口の中に入れると、予想通り熱くて、俺は口の中に空気を入れながら、噛み締めた。
おばあちゃんは俺の方を見ながら、麻婆茄子に箸を伸ばしている。
「その子にさ、告白っていうか、ずっと好きだったって言われたんだよね」
「そう」
「でも、俺、今まで失恋しかしたことないし、それに、……紫ノくん、高校の頃、彼女が居たみたいで」
「うん」
ばあちゃんの相槌は穏やかで、何もかも話してしまいそうだった。本当に、何もかも話しても、きっとばあちゃんは受け止めてくれるだろう。
「俺だけが好きだって言ってたのに」
恨み言だった。
俺は、紫ノくんの気持ちに応えた訳でもないのに、紫ノくんがもしかしたら恋をしていたのかもしれないと思うと、心が嫉妬に焼き切れるのだ。
その女の子が良いなら、ずっとその子と付き合っていれば良かったじゃないか。別れたって、どうして別れたの。俺のことだけ、好きだったんじゃないの。
「嫉妬してるのね」
はっきりと口にされると、俺は笑うことしかできなかった。
「そうだね、嫉妬してるんだと思う」
「はっきりそう言えば良いじゃない」
「嫉妬してるって?」
「そうよ。好きな子に嫉妬されて嫌がる男なんていないでしょう」
「面倒くさいって思われたらどうしたらいいの?」
「それくらいの器の男だったってことよ」
バッサリと切り捨てられる。でも、その意見は尤もだなと思った。多分、紫ノくんは俺が嫉妬したと聞いたら、嬉しそうに笑って、俺を抱きしめてくるだろう。
紫ノくんは、女の子とも恋愛ができる。
良いんじゃないかと思った。紫ノくんの家族は、きっと紫ノくんが男に恋心を抱いているなんて思わないだろう。いつか、紫ノくんを理解してくれる誰かが現れると思っているはずだ。
ずっとそばに居て欲しい。
俺だってそう思ってる。でも、現実は優しくない。
俺は、帰ったら紫ノくんの告白を、正式に断ろうと思った。
それが、俺にとって一番良い選択肢だと思ったから。紫ノくんにとっての最善は考えなかった。きっと俺を忘れて、他の誰かを好きになってくれることを祈るしかできない。
俺は夕飯を食べ終えると、お風呂に入って、ばあちゃんと布団を並べた。
「その紫ノくんって子は」
「?」
「本当にあんたに、言ったの? 好きな人が昔に出来て、その子と恋人同士になったって」
「……言ってないけど」
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