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第五章
第四話
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「え、知ってるの?」
「高校一緒だったの」
「ええ、そうなんだ」
「うん。染崎くんは覚えてないと思うけどね。でも、染崎くん、バイだったんだ……」
「?」
「あ、いや、……染崎くん、高校生の頃学校で一番美人だっていう女の子付き合ってたの」
俺の胸に、大きな穴が空いた。
河辺さんは俺の顔色をすぐ察して、自分が失言したと思っただろう。何か言えることはないかと、目の前で探している様を、俺はぼんやり眺めていた。
「でも高校卒業したと同時に別れたって言ってたから。二人とも未練ない感じだったよ。噂で、男よけ女よけで付き合ってたって言われてたし」
河辺さんの言葉が右から左と流れていく。
そうか、紫ノくんは女の子も好きになれるんだ。
——俺だけじゃなかったんだ。
俺は授業を受け終えると、紫ノくんからの連絡を無視して、大学を出た。
そしてそのまま、俺は祖母の家へと逃げたのだ。
駅のホームで、電話する。
「ばあちゃん、家行っていい? 泊まりたい」
「あら、来るの? 良いわよ、気をつけてね」
ばあちゃんは気軽に頷いて、俺に何を食べたいか聞いてくるから、なんでも良いと言っておいた。ばあちゃんの作るご飯はみんな美味しいからと。
俺は電車に乗り込むと、何度も乗り換えをして、二時間後に、他県にある祖母の家の最寄駅へと辿り着いた。
その頃には着信が山ほどあって、全部紫ノくん、そして一件は河辺さんからだった。余計な事を言ってしまった”と、染崎くんと離れて欲しくないと、そう言ったメッセージだった。俺は河辺さんには嘘をついて、大丈夫だと送った。気にすることはないと。
紫ノくんのメッセージには祖母に突然呼び出されたと言っておいた。嘘だ。
でも、本当のことを言う気分でもなかった。
そして俺はスマホの電源を切ると、電車に乗り込んで、何度も乗り換えをしながら、田舎町に着く。
「らでん、らでん、ボタンを押して、扉をお開けください」
俺は降りると、二十分歩いて、ばあちゃんの家に辿り着いた。
ばあちゃんも、俺がゲイであることを知っている人間の一人だった。
「日生が幸せになれるなら、おばあちゃんは誰でも良いわ。幸せならいいの」
そう言って幼い頃の俺を抱きしめてくれた。紫ノくんが消えて、孤独に喘ぐ俺に。きっとその時、ばあちゃんは気づいていただろう。俺が紫ノくんに友情以上の感情を抱いていることに。そしてそれを黙り続けてくれていた。自分で気づくまで。
インターホンを押すまでもなく、俺は門扉をあけて、鍵のかけられていない引き戸を引く。
「ばあちゃん!」
そう大きな声で呼び掛ければ、奥から「はーい」と声が聞こえた。
そして片手にはたきを持った割烹着のばあちゃんが笑ってくる。
「久しぶりねえ。大きくなった?」
「身長は相変わらずだよ、おばあちゃんがちっちゃくなったんじゃない?」
俺がニヤリと笑って見せれば、おばあちゃんも微笑む。
「よく来たわね、上がっていきなさい。おばあちゃん、おじいちゃんの仏壇の掃除が終わったら行くから」
「はーい」
俺はなんでもない顔で、靴を脱いで、居間へと歩いた。
座卓が置かれていて、目の前には大きな液晶テレビがある。隣の部屋は縁側になっていて、じいちゃんは生きている間、ずっと縁側にロッキングチェアを置いて、庭の景色を眺めていた。
俺は居間の座布団に座ると、あ、と立ち上がる。
そして二人分のグラスにお茶を入れて、座卓に置いた。
少しして、俺がテレビを見ていたら、ばあちゃんが居間に帰ってくる。
そして手を洗っているから、俺は背後に声をかけた。
「ばあちゃん、お茶用意したから飲んで」
「はーい」
「俺はじいちゃん拝んでくる」
「はい」
俺は廊下を駆けると、じいちゃんの仏壇の前に座って、おりんを鳴らして手を合わせる。そして居間に戻った。
ばあちゃんは割烹着を脱ぐと、テレビの真正面に座っていた。画面には夕方のニュース番組が流れていた。
「明日、真夏日ですって」
「嫌だなあ。ねえ、ばあちゃん。一週間くらい、この家に居て良い?」
「好きにしなさい。その代わり、いろいろ手伝ってね」
「わかった」
俺はそれから、ばあちゃんと特に話すことはなかった。ばあちゃんは俺に何かがあったことを察しているのか、テレビを眺めては、たまに一人でつっこんでいる。
夜になった頃だ。日が落ちるのがどんどん遅くなっている。十八時ごろ、外はまだ明るかった。
「高校一緒だったの」
「ええ、そうなんだ」
「うん。染崎くんは覚えてないと思うけどね。でも、染崎くん、バイだったんだ……」
「?」
「あ、いや、……染崎くん、高校生の頃学校で一番美人だっていう女の子付き合ってたの」
俺の胸に、大きな穴が空いた。
河辺さんは俺の顔色をすぐ察して、自分が失言したと思っただろう。何か言えることはないかと、目の前で探している様を、俺はぼんやり眺めていた。
「でも高校卒業したと同時に別れたって言ってたから。二人とも未練ない感じだったよ。噂で、男よけ女よけで付き合ってたって言われてたし」
河辺さんの言葉が右から左と流れていく。
そうか、紫ノくんは女の子も好きになれるんだ。
——俺だけじゃなかったんだ。
俺は授業を受け終えると、紫ノくんからの連絡を無視して、大学を出た。
そしてそのまま、俺は祖母の家へと逃げたのだ。
駅のホームで、電話する。
「ばあちゃん、家行っていい? 泊まりたい」
「あら、来るの? 良いわよ、気をつけてね」
ばあちゃんは気軽に頷いて、俺に何を食べたいか聞いてくるから、なんでも良いと言っておいた。ばあちゃんの作るご飯はみんな美味しいからと。
俺は電車に乗り込むと、何度も乗り換えをして、二時間後に、他県にある祖母の家の最寄駅へと辿り着いた。
その頃には着信が山ほどあって、全部紫ノくん、そして一件は河辺さんからだった。余計な事を言ってしまった”と、染崎くんと離れて欲しくないと、そう言ったメッセージだった。俺は河辺さんには嘘をついて、大丈夫だと送った。気にすることはないと。
紫ノくんのメッセージには祖母に突然呼び出されたと言っておいた。嘘だ。
でも、本当のことを言う気分でもなかった。
そして俺はスマホの電源を切ると、電車に乗り込んで、何度も乗り換えをしながら、田舎町に着く。
「らでん、らでん、ボタンを押して、扉をお開けください」
俺は降りると、二十分歩いて、ばあちゃんの家に辿り着いた。
ばあちゃんも、俺がゲイであることを知っている人間の一人だった。
「日生が幸せになれるなら、おばあちゃんは誰でも良いわ。幸せならいいの」
そう言って幼い頃の俺を抱きしめてくれた。紫ノくんが消えて、孤独に喘ぐ俺に。きっとその時、ばあちゃんは気づいていただろう。俺が紫ノくんに友情以上の感情を抱いていることに。そしてそれを黙り続けてくれていた。自分で気づくまで。
インターホンを押すまでもなく、俺は門扉をあけて、鍵のかけられていない引き戸を引く。
「ばあちゃん!」
そう大きな声で呼び掛ければ、奥から「はーい」と声が聞こえた。
そして片手にはたきを持った割烹着のばあちゃんが笑ってくる。
「久しぶりねえ。大きくなった?」
「身長は相変わらずだよ、おばあちゃんがちっちゃくなったんじゃない?」
俺がニヤリと笑って見せれば、おばあちゃんも微笑む。
「よく来たわね、上がっていきなさい。おばあちゃん、おじいちゃんの仏壇の掃除が終わったら行くから」
「はーい」
俺はなんでもない顔で、靴を脱いで、居間へと歩いた。
座卓が置かれていて、目の前には大きな液晶テレビがある。隣の部屋は縁側になっていて、じいちゃんは生きている間、ずっと縁側にロッキングチェアを置いて、庭の景色を眺めていた。
俺は居間の座布団に座ると、あ、と立ち上がる。
そして二人分のグラスにお茶を入れて、座卓に置いた。
少しして、俺がテレビを見ていたら、ばあちゃんが居間に帰ってくる。
そして手を洗っているから、俺は背後に声をかけた。
「ばあちゃん、お茶用意したから飲んで」
「はーい」
「俺はじいちゃん拝んでくる」
「はい」
俺は廊下を駆けると、じいちゃんの仏壇の前に座って、おりんを鳴らして手を合わせる。そして居間に戻った。
ばあちゃんは割烹着を脱ぐと、テレビの真正面に座っていた。画面には夕方のニュース番組が流れていた。
「明日、真夏日ですって」
「嫌だなあ。ねえ、ばあちゃん。一週間くらい、この家に居て良い?」
「好きにしなさい。その代わり、いろいろ手伝ってね」
「わかった」
俺はそれから、ばあちゃんと特に話すことはなかった。ばあちゃんは俺に何かがあったことを察しているのか、テレビを眺めては、たまに一人でつっこんでいる。
夜になった頃だ。日が落ちるのがどんどん遅くなっている。十八時ごろ、外はまだ明るかった。
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