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戦いの鐘
しおりを挟む若き魔術騎士団長バルドメロ・オルティス。雄々しく鍛え上げられた逞しい肉体を持ち、ダークブロンドの髪と鋭い眼光は、獅子を彷彿させる。この国の軍神、最強の騎士と呼ばれる男だ。
若き団長……と言っても、壮年と呼ばれる年齢に差し掛かった三十二歳であるが、そもそも団長が三十代前半というのは相当若い。団長になるには強さだけでなく、統率力や指揮能力、何より騎士からの人望が必要になる。四十代ですら若いと言われるのが団長という地位だ。
更には、まとめるのが最も難しいとされる実力主義の魔術騎士団の団長である。
彼は二十代後半という異例の若さで団長に就任した実力者だ。
就任直後は相応の反発があったと噂に聞いたけど、その約一年後、私が軍務に回された頃には過去の話となっていた。今では圧倒的な支持を受けている団長である。
その裏側でどれだけの攻防があったのか当時を想像するだけで恐ろしい。
私は女官の中でも彼と対面する機会が多い。
その人柄は噂のように威圧的でも冷徹でもなく、むしろ厳しくも穏やかで落ち着いた人物という印象だ。後ろめたい人間ほど彼に恐ろしい印象を抱くのではと思っている。私の知る団長は基本的に優しい。
一般的な評価は、鉄面皮だとかいつも怒っているようだとか、もっと怖いものだが、実際のところ、表情に慣れてしまえば、穏やかな人だとわかる。
ただ、威風堂々とした佇まいや、整った顔が無表情だったりするから迫力が増し、人は勝手に萎縮してるんじゃないかと思う。
堅物というのは、わりと合ってると思う。いつも規律正しい真面目な方だ。融通がきかないというわけでもないのだけれど、不真面目な人には結構厳しい。
そして彼は、印象の通り有能ですごい人で、普通に仕事には厳しい。尊敬はしているけど、対立とか絶対したくない人だ。
間違いなく侮れない一角の人物であろうことは感じられる。
私を「盗み聞きする小ネズミ」と呼んだ人は、そういう人なのだ。
これ、なんて地獄?
……最高の、職場だったんだけどな……。
今は地獄直行の職場となった。
カツンと目の前で足音が止まる。
先ほどの密談の片割れ、そして今し方目の前に現れた男性を、私は覚悟して見上げる。
「……さて、ソレル殿。今後について、話し合おうか?」
現れた団長がにこりと笑う。
私はいつものように表情に感情を乗せないよう落ち着いて礼を取った。
「オルティス団長、お疲れさまでございます」
「ああ、君もね」
団長もこんな密会を聞かれるような迂闊な真似をするのねと、遠い目になる。その癖して、顔を見る前に私と気付いていた様子なのが憎らしい。
それなら密会の前に、存在に気付いて欲しかった。
とてつもなく恨みがましい気持ちで団長を見る。
彼は珍しくにっこりと笑っているのに、私の目には随分と獰猛に見えた。
気のせいであって欲しい。ひくりと引きつりそうな頬をなんとか抑え、静かに礼を取る。
「業務のお邪魔をしてしまったようで、申し訳ございません。……今後とおっしゃいましても、今のところ魔術騎士団との差し迫った仕事はなかったはずです。私にはそれ以外のことでなにかを話す予定もございません」
なにも聞いてませんよ、なにも話しませんよ、と、すっとぼけてみるが、この国の「軍神」は、無情だった。
「ソレル殿の仕事ぶりには、俺も感謝しているから見逃してやりたいのだが、さすがに宰相補佐の暗殺け……」
「あ! 私、今急いでいる案件がございまして!」
突然叫んで決定的な言葉を遮ってみる。
暗殺までは聞いてないです!! 失脚を狙ってるのだと!!
一気に身の危険度が爆上がりした。
口を滑らせすぎじゃないですか?!
やめて下さい!! なんで新たなヤバい情報をわざわざ言おうとするんですか……!! 死刑宣告ですか?!
私は団長に向かってにこりと普段は浮かべない笑みを浮かべる。
「そろそろ、席を外させて頂きたく存じます」
私は! 聞いていません!!
クッと団長が楽しげに笑った。その弧を描いた目元は、獲物を弄ぶ猛獣を彷彿させる。けれど、負けるわけにはいかない。だって私、まだ死にたくない。
私の命をかけた戦いの鐘が鳴った。
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