変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

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最悪の遭遇

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「かかったか。これでベレンゲールを処分できるな」

 聞こえてきたその内容に息を呑んだ。それは一介の女官が聞いてはいけない内容だった。

 何でこんなところでそんな話を……!!

 私は恨めしい気持ちいっぱいで、身を縮込ませた。

 ここは王宮の軍務棟にある軍務執務室……という名の魔窟と化した倉庫部屋。来る人なんて、ほとんどいない。
 だからといって確認もせずにそんな話するって、油断しすぎではないでしょうか!!
 私は隠れるように仕事を続けていた事を悔やんだ。彼らが入ってきたのに気付いたとき、面倒だからと知らんふりするんじゃなかった。
 その結果が、密会の不本意な盗み聞きだなんて、あんまりだ。

 悔やんでいる最中もずっと大変センシティブな内容を聞かされ続けている。聞きたくないのに会話が聞こえてくる。耳を塞いでこのまま逃げたいのに、足音で気付かれるのが怖くてできない。内容が内容なだけに、聞こえていることに気付かれると我が身が危ない。下手したら、ひっそりと始末されかねない。
 先客アピールをしておきたい人生だった。

 ベレンゲールとは、恐らく宰相補佐のオターニョ伯のことだろう。かなりの黒い噂のつきまとう人物である。ついでに女官にとっても色々厄介な要注意人物で、いっそのこといなくなって欲しいと常々願ってはいる人物である。が、それはそれ。処分だなんて不穏すぎる。

 オターニョ伯、そろそろ更迭かぁ……。

 ありがたい……。
 なんて感慨にふける心の余裕などない。
 大変喜ばしいとさえ思っているけど、誰がどう動こうとしてるかなんていう裏事情なんて聞きたくない。

 私は聞いてない、聞いてない……。

 心の中で唱えながら聞かないようにがんばる。聞こえてくるけど。
 そういう内容は噂で聞くものであって、現在進行形で聞く物ではない。
 私は息を潜めて、気付かれませんように、そのまま立ち去ってくれますように……と、ドクドクと打ち付ける胸元を押さえながら祈った。

 けれど、得てしてイヤなことほど、思い通りには行かないのだ。
 やっと密会が終わった頃、そのまま一人は部屋を出た。
 ほっと一息ついたところで声がした。

「さて、さっきから盗み聞きをしている小ネズミは、誰だ?」

 ……!?

 心臓が止まるかと思った。止まりかけた心臓が、今度は早鐘を打つ。心臓の変化が忙しすぎて死ぬ。

 気付かれていたの? いつから? どうして?

 ドクドクと打つ胸の鼓動が、一層強くなる。
 足音が私の方に近づいてくる。
 逃げられない圧迫感がとんでもない。首元をつかまれたような息苦しさが襲う。
 神はいなかった……。

 盗み聞きじゃなくて勝手に聞こえただけだし。人がいるのに気づかず不用意に誰でも入れる場所で喋る方が悪いし。……と、心の底から訴えたい。密談を聞いてしまった以上、そんな言い分なんて、何の意味もないわけだけれども。

 団長。こんなところで会いたくなかったです。

 私はこの声の主を知っている。この国で軍神とも呼ばれる、もっとも強い男だ。

 私、死ぬかもしれない……。

 冗談抜きで。
 グラシアナ・ソレル、二四歳。今、思いがけず、死の危機に直面しています。
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