2 / 73
戦いの鐘
しおりを挟む若き魔術騎士団長バルドメロ・オルティス。雄々しく鍛え上げられた逞しい肉体を持ち、ダークブロンドの髪と鋭い眼光は、獅子を彷彿させる。この国の軍神、最強の騎士と呼ばれる男だ。
若き団長……と言っても、壮年と呼ばれる年齢に差し掛かった三十二歳であるが、そもそも団長が三十代前半というのは相当若い。団長になるには強さだけでなく、統率力や指揮能力、何より騎士からの人望が必要になる。四十代ですら若いと言われるのが団長という地位だ。
更には、まとめるのが最も難しいとされる実力主義の魔術騎士団の団長である。
彼は二十代後半という異例の若さで団長に就任した実力者だ。
就任直後は相応の反発があったと噂に聞いたけど、その約一年後、私が軍務に回された頃には過去の話となっていた。今では圧倒的な支持を受けている団長である。
その裏側でどれだけの攻防があったのか当時を想像するだけで恐ろしい。
私は女官の中でも彼と対面する機会が多い。
その人柄は噂のように威圧的でも冷徹でもなく、むしろ厳しくも穏やかで落ち着いた人物という印象だ。後ろめたい人間ほど彼に恐ろしい印象を抱くのではと思っている。私の知る団長は基本的に優しい。
一般的な評価は、鉄面皮だとかいつも怒っているようだとか、もっと怖いものだが、実際のところ、表情に慣れてしまえば、穏やかな人だとわかる。
ただ、威風堂々とした佇まいや、整った顔が無表情だったりするから迫力が増し、人は勝手に萎縮してるんじゃないかと思う。
堅物というのは、わりと合ってると思う。いつも規律正しい真面目な方だ。融通がきかないというわけでもないのだけれど、不真面目な人には結構厳しい。
そして彼は、印象の通り有能ですごい人で、普通に仕事には厳しい。尊敬はしているけど、対立とか絶対したくない人だ。
間違いなく侮れない一角の人物であろうことは感じられる。
私を「盗み聞きする小ネズミ」と呼んだ人は、そういう人なのだ。
これ、なんて地獄?
……最高の、職場だったんだけどな……。
今は地獄直行の職場となった。
カツンと目の前で足音が止まる。
先ほどの密談の片割れ、そして今し方目の前に現れた男性を、私は覚悟して見上げる。
「……さて、ソレル殿。今後について、話し合おうか?」
現れた団長がにこりと笑う。
私はいつものように表情に感情を乗せないよう落ち着いて礼を取った。
「オルティス団長、お疲れさまでございます」
「ああ、君もね」
団長もこんな密会を聞かれるような迂闊な真似をするのねと、遠い目になる。その癖して、顔を見る前に私と気付いていた様子なのが憎らしい。
それなら密会の前に、存在に気付いて欲しかった。
とてつもなく恨みがましい気持ちで団長を見る。
彼は珍しくにっこりと笑っているのに、私の目には随分と獰猛に見えた。
気のせいであって欲しい。ひくりと引きつりそうな頬をなんとか抑え、静かに礼を取る。
「業務のお邪魔をしてしまったようで、申し訳ございません。……今後とおっしゃいましても、今のところ魔術騎士団との差し迫った仕事はなかったはずです。私にはそれ以外のことでなにかを話す予定もございません」
なにも聞いてませんよ、なにも話しませんよ、と、すっとぼけてみるが、この国の「軍神」は、無情だった。
「ソレル殿の仕事ぶりには、俺も感謝しているから見逃してやりたいのだが、さすがに宰相補佐の暗殺け……」
「あ! 私、今急いでいる案件がございまして!」
突然叫んで決定的な言葉を遮ってみる。
暗殺までは聞いてないです!! 失脚を狙ってるのだと!!
一気に身の危険度が爆上がりした。
口を滑らせすぎじゃないですか?!
やめて下さい!! なんで新たなヤバい情報をわざわざ言おうとするんですか……!! 死刑宣告ですか?!
私は団長に向かってにこりと普段は浮かべない笑みを浮かべる。
「そろそろ、席を外させて頂きたく存じます」
私は! 聞いていません!!
クッと団長が楽しげに笑った。その弧を描いた目元は、獲物を弄ぶ猛獣を彷彿させる。けれど、負けるわけにはいかない。だって私、まだ死にたくない。
私の命をかけた戦いの鐘が鳴った。
33
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる