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望まぬ機密漏洩2
しおりを挟むと、そこで、ある不自然さに気付いた。
「……待って下さい。考えが読めるのなら、さっきの密談前、私がいたのに気付けていたんじゃないですか?」
こんな能力があるのなら、誰かの思考が近くにないか確認できたのではないだろうか。
「気付いていたらこんな事にはならなかったのではないかな?」
いかにも潔白といった笑顔で白々しく惚けているけれど、思い返してもあの団長の余裕は、わかってやっていたと考えてもおかしくない。
考えれば考えるほど、不信感がわいてくる。
「俺は常々、王妃宮で働く優秀な女官との繋がりが欲しいと思っていたんだ」
目元を細めて私を見つめていた団長が、私の手を取ったまま立ち上がる。
嵌められた。
自覚すると怒りで頭の中が熱くなる。
「杜撰な計画で取り込もうとしても駄目だな。やはり君は、気付いてしまうか。気付かれない方が楽だったのだが」
団長は小さく肩をすくめた。
は?
その言いざまに、ふつふつと怒りがわき上がってくる。
なんということはない。最初からあの密談は団長が意図して聞かせたということだ。
私はこの人に陥れられたのか。
最初から王妃宮の女官を団長側に引き込むことが目的だったのか。それで結婚なんて。面白半分に人の人生を壊すなんて。最低だ。
こんな人、だったなんて……。
落胆する。
尊敬していたのに。無関係な女官の人生を狂わすことを厭わない人だったなんて。
それは上に立つ者として必要な冷酷さかもしれない。けれど私は、この人をもっと謹厳実直な人だと思っていた。
それは私が勝手に理想を押し付けただけだ。けれど今、私には落胆する権利がある。絶対に。
私は、権力で人を理不尽に踏みにじる行為が心底嫌いだ。
オターニョ伯みたいなのは当然嫌いだけど、それだけじゃない。正義も時に人を理不尽に踏みにじる。
もしかしたらオターニョ伯を追い詰めるためのコマとして私が必要だったのかもしれない。この団長が必要だと思ったのなら、きっとそれは大義なのだろう。
でも、それがなんだというの。わずかな犠牲が大義のために必要だとしても、踏みにじられる側が恨むのは当然だ。大義なんて幸せのために語る物だ。幸せを踏み潰されてなにが大義だ。大義を成すのならその時踏みつけた者に恨まれる覚悟があってしかるべきだ。
どんなに立派な意義があったとしても、どれだけそれが正しいと評価されても、踏みにじられた側からすれば、そいつは唾棄すべき悪漢なのだから。
団長なりの理由はあるのだろう。でも、そんなことはどうでも良い。
団長のやることが大義なら、大義でいい。ただ私がこの人を許す必要はない。大多数の人にとって素晴らしくても、私にとって最低のことをしているのだ。
思い通りになるものかと、団長を睨みつけた。
聞こえたって知るものかと、心の中で罵倒を続けた。
すると、私が睨め付ける先で、余裕のあった団長の表情がうっとりとした笑みに変わってゆく。
……うっとり?
困惑している私の目の前で、熱い吐息を悩ましげに吐いた団長が呟いた。
「いいな……。もっと、罵ってくれないか……」
……なんて?
世界が、一瞬、止まった気がした。
なんて言ったの? この人……?
何度見てもそこにはうっとりと私を見つめてくる精悍な美丈夫がいる。
もしかして。……変……態……?
「……照れるな」
絶対照れるところじゃない。ていうか、人の心を読んで勝手に「変態」の言葉に反応しないで下さい。
先ほどまでの悲しさとか悔しさとかが一瞬で吹っ飛んでしまった。
はにかむ美丈夫を前に、浮かんだ気持ちは、一つだ。
え、なにこの人……きもちわるい……。
「……っ、はぁ……」
吐息混じりに、一層嬉しそうに笑った団長を前に、ぞわりと鳥肌が立った。思わず後ずさったらその分詰められた。手は握られたままである。
はなして変態。きもちわるい。
手を振りほどこうとするが、放れない。別に強く握られているわけじゃないのに、ぶんぶん手を振っても一緒にぶんぶん振りかえされて、これでは元気いっぱいの握手だ。
涙がにじむ。命がヤバいと思ったときでさえにじまなかった涙が。
手は握られたまま。うっとりと見つめてくる顔は、すこぶるいい男だ。
「君に、もっと罵られたい……」
……無理!
なにを言ってるの、この人。気持ち悪い。頭おかしすぎる。手を握らないで! この変態!
「いい……。君のその蔑む瞳がたまらない……」
いーーーーやぁーーーー!!!! 変態!!!! きもちわるいーーーー!!!!
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