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望まぬ機密漏洩1
しおりを挟む魔術騎士団長バルドメロ・オルティスには厳格でとっつきづらい印象が強いけれど、身分に傲らぬ人格者である……と思っていた。
団長は礼儀正しく穏やか、しかし国の大事には鬼神のごとき働きをする。傲ることなく、身分で人を蔑むこともなく、横暴な言動を聞くことがないと……そのはずであった。
その今まで抱いていた印象が、ガラガラと崩れていくような感覚に襲われている。
なんだか、めちゃくちゃひどい仕打ちを受けている気がする。
さっきから知りたくないことてんこ盛りで暴露され続けているんだけど。自分で暴露しておいて責任なすりつけるのやめて欲しい。
挙げ句、追い詰められて、ひどい二択を突きつけられている。
団長がこんな事を言うだなんて。
彼の在り方に尊敬と憧憬を抱いていた。完璧すぎて、非の打ち所もなくって、雲の上の人だと思っていた。それが表向きに作られた一面だったとしても、仕方がないのだろう。
でも、情に厚い優しい人だと、なんとなく思っていた。
殺される、ヤバいとは思いつつも、実のところなんとかしてくれるという期待も、少なからずあった。
私の団長への印象は間違っていたのだろうか。
一方的な信頼だ。でも、おそれおおくも、私も少なからず信頼されていると思っていただけに、あの二択はショックだった。
いや……信頼はそれなりに、されているのかもしれない。でなければ、結婚という言葉はでてこないだろうから。
チラリと目を向けると、またも団長らしくもなく、にっこりと笑って頷く。
「もちろん」
人の心の声に、勝手に答えないで下さい。
……団長の機密とか、知りたくなかったんですが。
「だからこそだ。君が嘘をついても絶対気付かれると知っていれば、君も迂闊な行動はできないだろう?」
溜息しか出ない。
「私が、それを誰かにばらすとは、思わないんですか?」
「君はしないさ。……言っただろう? 信頼しているよ」
じゃあ、放置しておいてくれた方がうれしかったんですが。
団長は笑顔でその願いを無視した。
聞こえているくせに!!
こんな魔術を使ってるなんて魔術騎士団長怖すぎる。
「まさか。魔術じゃないぞ。生まれ持った体質だ。そんな魔術がなくてよかったな」
全然よくないんですが……。
知りたくない。知りたくなかったです。え、考えてること読まれてるのに婚約者で常時監視って、嫌すぎない?
私の考えていることを読んでいるであろう団長は、にこにこと笑っている。
団長って、こんなににこにこ笑うのね……。
こんな状況でなければうれしかったのに。
「ちなみに、断れば…?」
「……事故には気をつけるといい」
ひときわいい笑顔を浮かべた団長がいた。こんな団長、見たことない。
「ああ、そうだ、若いお嬢さんが行方不明になる事件などもあるね」
「それを取り締まるのが、軍務の役目ではないでしょうか」
「残念ながら君も知っての通り街の治安維持は業務ではないんだ。そうはいっても、もちろん我が魔術騎士団を含め、民の力になるよう努力しているが、どうしても、人の命が失われる事故や事件は起こってしまう。悲しいことだ」
困った笑みを浮かべて小首をかしげる様子は、幼児をなだめる大人のようだ。
「特に君のような美しい女性を守りたいというのは、騎士としてだけではなく、一人の男としても思っているよ」
最上級の男が真摯な顔をして語りかける姿は、それは絵になった。
そして跪いて私の手を取り、彼は真っ直ぐな眼差しでささやいた。
「……俺に君を守らせてくれないか?」
演劇を見ているかのように完璧だった。
むしろ演劇で見たかった。相手は私以外で。
ときめくよりも先に、ヒクリと顔がひきつる。
なんかいいこと言ってるみたいな感じのこと言ってるけど、内容は思いっきり脅迫だ。
それとも先のプロポーズもどきを最低だと思った事への意趣返しだろうか。
プロポーズのやり直しでもしてるつもりとか? バカじゃないの?
脅してる内容は、ひとかけらも変わってないのに。
守りたいなら結婚の脅迫をせずに守るべきでは?
心の中で悪態を吐き続けていると、うっとりとした表情で、団長が笑った。
「手厳しい。やはり君には通用しないな。……素晴らしい」
……うっとり……?
この表情が何を意味するのかよくわからない。
ただ、これだけ動揺してても自分の表情が変わらないのだけが救いだ。動揺してる表情を晒したくない。内心を知られていようとも、これはプライドの問題だ。鉄壁の女官は伊達ではないのである。
そうは言っても、かなり追い詰められている。心を読まれているのが何より逃げ場がない。
なにより、こんなプロポーズに頷きたくない。
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