9 / 73
婚約者2
しおりを挟む私が婚約者になったことは、ひとまず伏せられることになった。と言っても、隠すわけではなく、わざわざ公表しないというだけのことだ。逃げようとすれば、婚約が大々的に公表されるらしい。
「君が逃げずに俺の役に立てば白紙に戻してやってもいい」
と、脅された。微妙に逃げ場を残してあるところがえげつない。返って逃げにくい。何度でも言おう。最低だ。
けれど困ったことに、闇雲に嫌がるだけの理由が、実はあまりないのだ。
正直なところ私の損はほとんどないのが現状で、なんだかんだと流されている原因のひとつなのだ。そこのバランスの取り方が上手いのが、これまた憎らしい。
「もちろん、このまま結婚でも俺は大歓迎だ」
さあ、罵ってくれといわんばかりに、はぁはぁと息を荒らげている変態から目をそらす。
ヤバい。なんとしてでもこの変態から逃げなきゃ……。
私は決意を新たにした。
婚約の契約は二人の間で交わされ、証人として軍部を束ねる将軍が証人の判を押した。つっこみを入れられて反対されることを期待したけれど、将軍は驚きの寛容さで受け入れてしまった。
なぜですか。
叫びたかったけど、団長ですら敬語を使う相手、私などが口を出せるはずもなかった。逃げ場がない。
そして魔術騎士団団長の補佐官になる件については、翌週にはあっけなく管轄が変わっていた。驚きの手際の良さだ。
知ってた、仕事ができる人だって、私、知ってた……。
意外と反対がないのは、身内で周りを固めるのはよくある手法だからかもしれない。
王宮なんて、縁故あってなんぼな社会でもある。
けれど団長は風通しが悪くなるからと、ほぼ実力主義を貫いていた。ここに来て、婚約者を補佐にとは。
「婚約は公言してないし、君の能力は軍でも認められているし、誰も疑問には思わないさ」
苦言を呈したフリして管轄の変更から逃げようとしたけれど、褒められて反応に困るだけに終わった。悔しい。
管轄は変わったけど、仕事は今までとあまり変わらない。魔術騎士団長補佐の名目のまま、王妃宮向きの軍務との連携は、魔術騎士団のみではなく、魔術師団や騎士団にも今まで通りの業務をそのまま私が行うことになったためだ。
あえて違いを挙げるのなら、私の所属先と帰って行く仕事場が魔術騎士団の軍務棟に変わったこと、それから女官の一般業務がなくなって、団長の事務的な仕事を回されるようになったということぐらいか。それもそう難しいことではない。
「団長の補佐なのに、他の団の方も私が請け負って大丈夫なんですか?」
がんばって、抵抗しようと試みるも、団長はどこ吹く風だ。
「騎士団と魔術騎士団は魔術騎士団から技術に特化して派生したものだから問題ない」
それ、いつの話ですか……。各団の成り立ちを随分遡りましたね……。国の歴史を持ち出すのは暴論過ぎないだろうか。
いくら首をかしげようと上の言うことに従うしかないのが、一介の女官の辛いところである。
だから私は相変わらず王宮と軍部の間を行き来している。
私一人がいなくなったところで、軍務の仕事を私が請け負っているうちは女官達にとっても特に問題がない。哀れみや嫉妬の視線を受けつつ、たいした軋轢もなく移動となった。
私の移動はそれなりに話題になったが「魔術騎士団の仕事が忙しくなったため貸し出されたのだ」という説明がなされ、すぐに落ち着いた。
もっとも、貸し出しどころか私の雇用契約は完全に魔術騎士団の管轄に変更されている。絶対に言えない。
目標は婚約白紙だ。団長との婚約をできるだけ人に知られたくない。王妃宮でのどういった情報が欲しいのかはわからないけれど、どうせ私の考えたことは筒抜けなのだ。なにが欲しい情報かなんて私が知る必要はない。勝手に抜き取ってもらって、さっさとお役御免となりたい。
「つれないな」
私は何も考えないようにして、つんと顔をそらす。
さっさと来週の王妃様の警備依頼の確認をして下さい。
「対策をとれるところがさすがだ」
クククッと、楽しそうに笑って、近衛では補えない分の配置についての要請を口頭説明しつつ、確認を行う。
「君が担当になってから、疎通がしやすくて助かってるよ」
「それはありがとうございます」
そんな相手への仕打ちがひどすぎるわけですが。
「そんなに警戒をしなくても、まだ君の出番はないから安心してくれ」
「さようでございますか」
安心の要素がどこにあると。
「今日も君の厳しさが胸に突き刺さるな……」
吐息交じりに胸を押さえながら、団長は満面の笑顔だ。
「セルフプレイがお上手ですね」
私はいらないですよね?
「君が相手をしてくれなくても自分の機嫌ぐらいは自分で取れる男なんだ。相手から望む物が与えられなくても、自分で楽しみを見つける……そういう男が巷ではいい夫の条件なんだろう? つまりだ。君の結婚相手として、俺は有望と言えよう」
団長が自信満々に胸を張った。
「ええええぇ……」
物は言いようというが、なんか同意したくない……。
16
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる