変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

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意図3

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 王子から逃げてきたところを団長に見つかったとき、結局いわれたとおりにしているのがいたたまれなくなった。わかってなかった自分が恥ずかしいような、悔しいような感情が込み上げて、思わず顔を背けた。
 備品を入れたカゴを持つ手に、力が入る。

「これから魔術師棟か?」
「……はい」

 カゴの中にある新しい魔術師のローブに気付いたのだろう。指令書を持って行きついでに、軍務棟に足を運びたくない女官からこうした雑用も度々頼まれる。
 団長が私に歩調を合わせて並んだ。団長がいれば王子も追いかけてこない。その事に安堵しながら、お礼を言うのも癪に障って黙り込んだ。

「……薬が、効きすぎたか?」

 苦笑した団長の声が腹立たしい。

「……いいえ、大変勉強になりました」
「殿下には俺が嫉妬深いと、よくよく言っておいてくれ」

 適度に自分を利用しろと言外に云う団長に、悔しいようなやるせなさがこみ上げる。

「……ありがとうございます」

 こうして話していると、何でも先を見越して行動を起こす団長に、またもやじわりと腹が立ってくる。
 団長に襲われかけたあの日を思いだし、やり方が最低すぎる、と心の中でなじる。
 けれど、実に効果的だった。

 今、私は軽く男性不信気味になって、以前平気だった官吏との距離感にすら危うさを覚えている。
 おそらくそれは「私は男性には敵わないのだ」と実感しなければ、直せない慢心だった。
 頭でわかっていても、実感が伴わない知識は、気をつけようといても確実に隙が多い。自分は大丈夫と思っていれば、なおさらだ。
 わかっていて気をつけていても、至らない物がある。痛い目を見て、身にしみてようやく身につくものが、存在する。
 襲われるような事柄は、実際に起こってからでは手遅れだ。

 おそらく、感謝するべきなのだろう。
 頭ではそう思う。注意はしていた。でも足らなかった。口頭でも注意された。でも気付けなかった。
 でも、思い知らせるのにあんなやり方はあんまりだという気持ちは拭えない。
 ……悔しい。
 カゴを持つ手を持ち直し、胸に抱くように力を込める。
 自分の至らなさを突きつけられたようで、ぶつける先のないやり切れなさが胸を巣くう。
 団長の思惑に腹を立てたらいいのか、感謝したらいいのか、上手く感情がまとまらない。

 あれは、私をからかったわけでも、私に詰られるための度を超したいじわるでもなかったのだと。
 団長の目から見て、口頭での注意では足りなかったのだ。事実、何度も注意されていた。なのに私は団長の言葉を軽く捉えていた。
 もっと恐れるべきだと、もっと警戒しろと、私に思い知らせる為にわざとやったのだ。
 考えが足りなかった自分を思い知るのは、どうしようもなく悔しくて、恥ずかしかった。


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