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要求
しおりを挟む王妃宮への通常の連絡事項のあと、三日後の王妃の慰問と視察についての近衛と軍務の打ち合わせがようやく終わる。戻り支度をしていたところ、王妃の侍女長から声が掛かった。
「ソレル、王妃様がお召しです」
侍女長が直々に迎えに来た。
なぜ。最近、こういうのが多い。といっても、まだ片手ほどの回数だけれど。そもそも王妃様となんて、本当に関わり合いのない仕事なのに。だってこの仕事について四年以上、顔を合わせたことなんてなかった。ここに来て複数回の呼び出し。あからさまにおかしい。
でも別に何かをされるというわけでもないのよね。内容も、当たり障りがない意味のない会話か、普通に仕事。王子のせいか、団長のせいか、どっちだろう。絶対に私のせいじゃない。
王子とはもう関わり合いがなくなったというのに、まだ呼び出されるのか。居心地が悪くて嫌なんだよな。
団長と王子を思い出して、心の中でお恨み申し上げた。
今日は、王妃宮から無茶振りされた魔術騎士団の動員数についての話となった。
「このままでは妾は慰問に行けぬという。そちらで融通できぬというのは、なにゆえぞ」
なにゆえって、お仕事で人が余ってないからですよ……。
王妃様が勝手に予定を変えて前倒ししていくとか言い出すからですよ……。近衛の方の数が足りなくなるから魔術騎士団から出せとか言うから……。なぜ騎士団の方からじゃ駄目なの。
騎士団は、騎士の身分的には近衛に劣るけど実力的にはむしろ高い人が多い。
王妃の個人的な事情で予定変更したうえに、身分にこだわって人員が足りないとか、完全に王妃宮側の不手際よね。それなのにどうして私が責められるの……。ていうか、そんなこと王妃様が口出ししないで……。
王妃周辺の護衛は近衛と魔術騎士団に任せて、王妃様から目に付かない範囲の警備の方は魔術師団とか騎士団の方から引っ張っていればいいのに。通常ならそうしてるのに、たまに、そこにこだわって采配したがる女官や事務官がいるから、稀によくこんな事が起きる。今回はそれを王妃様にまで申し立てした人がいるということだろう。
王妃様は表向きは隠してるけど、なんだかんだと身分の低い護衛や警備を嫌がる人なのよねぇ。だから進言されると、当然気にするわけで。
たまにいるのよね、身分とかばっかり気にして人を判断する人。
没落して同じタイプの人間から見下されろ! と、心の中で呪っておく。
普段なら、もっと下の女官と打ち合わせする内容なのに、王妃様が口を出してきたからすこぶる面倒なことになっている。
「ソレル、魔術騎士団の予定はどのようになっているのです」
侍女長が口を挟んだ。
「王都南側のリヴィーニュの森で魔獣討伐の依頼があります」
討伐依頼は、緊急性がある上に準備もかかる為、準備次第で前倒しはできても後ろ倒しはできない。基本的に一週間以上にわたる遠征となるために王妃宮の依頼と確実にかぶるのだ。
「そちらの人員は割けないというのね。では、団長はいかがです」
「団長、ですか?」
「ええ、我が国の軍神でもある魔術騎士団長殿が護衛に付いてくれるというのであれば、護衛の数を減らすことができ、警備の方に近衛を回すことができます」
「団長の予定に関しましては、私の方で決定はできないので、今返答することは致しかねます」
なにを言っているのか、意味がわかりません。王妃様とはいえ、視察の警護に魔術騎士団長よこせって……。断る一択なんだけど、私が即決すると角が立つから、団長に丸投げしよう。
「大まかな予定だけでも構いません。団長の予定はどのようになっているのです」
「……申し訳ありません。団長の予定は、私も存じ上げないのです。折り返し返答を致しますが、遅くても明日の朝にはお知らせできるように致します」
「ソレル、無理を言うが、そなたは随分有能と聞いておる。よい返事を期待しておるぞ」
圧力かけてきますね、王妃様……!!
そんなの、私がどうこうできるわけないじゃないですか。私に団長に泣きつけって言ってるの? 泣きついてもどうにかなる相手じゃないのわかってるでしょうに……。
ちなみに、団長は監査に向かう予定となっている。団長の予定? もちろん知ってる。
いい言葉だよね「把握しておりませんので、返答致しかねます」「存じ上げず、申し訳ございません」って。
面倒そうなときは知らんぷりしたところで、末端なので、そんなものかと流してもらえる。実際、私ぐらい把握して動いてるのは半数にも満たないのが現実だ。
もちろん、そのくらい把握しておけと叱責されることもある。あるけど、知らんぷりしたい理由があってしてるんだから、その場合は叱責される方が断然マシなのだ。
一応、軍務の大まかな予定は全部頭に入っている。中でも、格別秘匿されてなければ魔術騎士団の直近の予定はほぼ把握していると思う。わかってないと王宮内を走る量が増えるから切実なのだ。王宮って、下手な村より広いのよ。
けれどそれを開示しても、私にほぼ利がない。むしろ余計な仕事が増える。
「……魔術騎士団長には、王妃様のご意向を確かにお伝えいたします」
ということで、よし、責任は団長になすり付けておこう。
「そなたは、自分で何とかしようと動く気はないというのですか」
伝言係になりまーすというと、侍女長に責められた。
そんなこと言われましても。
「もちろん、私のできる範囲での努力をさせて頂きます」
なにもできないけど。せいぜい団長の目の前で、侍女長と王妃様が怖かったから、団長がなんとか捌いて下さいって、心の中で盛大に愚痴をいうのが関の山だけど。口に出して訴えるほどの勇気はないので。
この後、王妃様が取りなしてくれてなんとか御前を去ることができたけど、その後、侍女長から、延々と嫌味を言われることになった。これ、団長の反応次第で明日から王妃宮の女官や侍女から、これ見よがしに嫌味と嫌がらせが始まるヤツだ。えげつない。王妃様自身は優しいフリして、周りを動かすのよね。
これがあるから、王宮はしんどい。
そういえば団長、王妃様の周辺にいる私を引き入れたかったんだっけ……。嫌なことを思い出した。一体何を対立してるんですか……。
巻き込まれた私、大迷惑。
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