46 / 73
告発1
しおりを挟む「で、監査が必要かと思われますが、いかがなさいますか?」
私は、密売用に一時保存された塩の山を前に、監査官と副団長に微笑みを向けた。
せっかく教えて頂いた保管場所を教えないなんていう手はない。
「ついでに、こちらもどうぞ」
裏帳簿を渡しておく。
あれから、大収穫を得た。色々教えてもらえて本当に助かった。私のメンタルは色々な何かを失ったけれど、彼は使える人物だと信じてついて行った私を褒めたい。がんばった甲斐があった。
「こちらは、密輸用の裏付けとなる資料になります。こちらの日報は、採掘場での人員と採掘時間、採掘量などの記録になります」
この記録から読み取れる産出量と国が把握している表の帳簿を照らし合わせると、だいたいの密輸量の把握はできるだろう。
「ちなみに、これは密輸とは関係ありませんが、作業員の給与が中抜きされております。ついでに責任者の処罰と、給与の是正も必要かと思われます」
イラついていたのだ。近衛に惹かれている小芝居を続ける不愉快さ、脅されている現状。やりたくもない悪事に共感したふりをするぐらいしかできない自分の無力さ。
なにより、マッチポンプな劇場型ロマンス詐欺をされている間、どれだけ私の表情筋と腹筋が大変だったか、おまえらはわかっているのかと。
「君を守るよ」とか陶酔しきったキメ顔で言われる度に吹き出しそうになるのを、どれだけの精神力で耐えたのか! 腹筋を鍛えるのにも限度がある。
更には、ドン引きするほど恥ずかしいセリフを聞かされる度に共感性羞恥に襲われて、叫び出したくなる衝動をどれほど堪えたか。いたたまれないというか、この人が恥ずかしいことをやってるだけなのに、なぜ私が羞恥心を覚えなければいけないのかと、ほんとうに理不尽に苦しめられた。何度も、何度も、何度も、何度も!!
王都を出てからは、ひたすら耐えるばかりの、つらすぎる十日間だった。
誰もわかってくれないだろうこの大変さを語りたかった。語りたいのに語れなかったこのやり切れなさを訴えたかった! でも誰に訴えることもできずに耐えるしかなかった。
王子もよくあの茶番に付き合った物だと思う。近衛であるファロナダ様は、権力に逆らえないだろうから、まだ理解はできるのだけれど。
王子ではハニートラップが成立しないとわかったのか、交代要員にバトンタッチするにあたり、より効果を出そうとしたのだと思う。イケメン二人から取り合われる私、やら、いざというとき助けてくれる私だけのヒーローな近衛騎士、やらを演出するに当たり、王子の役割、悪すぎない?
あんな役回りを引き受けるぐらい、私の相手はいやだったということだろうか。お互い様とは言え、それはそれでイラッとする。
思い出す諸々は、どれも気分が悪くなる物ばかりだ。
心底、私は、彼らが許せない。
「あ、ついでにこれも何かの役に立つかもしれません」
そういって、近衛の彼から渡されていた指輪を通したネックレスを外して副団長に渡す。
「監視用のアイテムだと思います。盗聴か追跡系を疑っていますが、素人目には魔術具だろうということがなんとかわかる程度でした」
「……ソレル殿、魔術具の判別が付くんですね……」
「装飾に見せかけた術式と魔石の組み合わせで、なにもないと思う方がおかしいかと……」
一般的な知識ではないとはいえ、魔術具に興味を多少持っていれば、誰でも想像つくような事だ。こんな露骨な物、よく渡したなと思う。
「いえ、魔石と判断できることも、その装飾の模様が術式と気付けることも、一般的ではないです」
僕の奥さんなんて、何度教えても覚えてくれないのに……。
副団長のそんなぼやきは聞かなかったことにした。何事も興味のない人はそんなものですよ。
高価で、あんまり流通してる物でもないし、使える人も少ないし。
ただ、なんでもそうだけれど、興味あれば、違いが判別できるようになる。女性で興味を持つ人は男性に比べれば少ないのは確かだけれど、女官で生計立てる気でいる同僚の間では、この手のちょっと技術職な知識に興味持ってる人は別に珍しくない。ただ、知らないフリをした方が男性受けがいいというか、角が立たないから、わざわざ知識をひけらかすことはないせいで、女性はまず知らない、っていう感覚になるのかな。
ファロナダ様は「気付くはずがない」と思い込んだ時点で、脇が甘かった。付け焼き刃の知識では気付けないタイプの細工の物もあるのに、こんな露骨な安物を渡すなんて。そんな彼に、随分助けられた。彼がいればなんとかなると、この指輪を見て信じられた。彼は本当に期待を裏切らない男だった。
ちなみに、魔術のプロである副団長は手の中で転がしてから「恐らく盗聴ですね」と、笑った。さすが格が違う。
15
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます
りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。
初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。
それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。
時はアンバー女王の時代。
アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。
どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。
なぜなら、ローズウッドだけが
自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。
ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。
アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。
なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。
ローズウッドは、現在14才。
誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。
ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。
ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。
その石はストーン国からしか採れない。
そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。
しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。
しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。
そして。
異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。
ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。
ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする
矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。
『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。
『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。
『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。
不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。
※設定はゆるいです。
※たくさん笑ってください♪
※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!
結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!?
本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる