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冤罪2
しおりを挟むそこには私を冤罪に陥れた女官、それからあの時は魔術騎士団の制服を着ていた騎士、それからオターニョ宰相補佐官がいた。
「すまない、君を巻き込むつもりはなかった」
申し訳なさそうにファロナダ様が私にわびる。もう一人の近衛騎士はここにはいないようだった。
「あなたがソレルさんのことを気に入っていたから、仲間にしてあげようとしたんじゃない。感謝してくれてもいいぐらいよ」
「黙れ!」
叫んでから、彼は小さく息を吐く。
「……すまない、こうなった以上、君を守るためにも、仲間になってもらった方がいいだろう」
「……仲間?」
塩の流通は国に管理されている。東部に存在するのに、その権利は領主にはない。
けれどその利益があれば民に還元できるのだという。
昼間に見つけた給与の横領なども、民が困窮しているから起こるのだ。
現状、人員や大まかな経営は東部で請け負っているが、それに対する国からの報酬は微々たるものだ。
塩の自由貿易を彼らは望んでいるのだという。国の横暴を許せないのだと。
「君は今、魔術騎士団で女官をしているだろう。魔術騎士団は国の言いなりで民達のことなど目にもかけていない。彼らは、民を守る存在であるべきだ。彼らの横暴をただしたい。団長の情報を私に教えてくれないか」
「……」
私は躊躇ったように視線を動かしてから、結局なにも言えないまま彼を見返した。
「なにも君に密偵をしろだとか、騎士団を裏切れといっているわけではないんだ。ただ、団長の予定や仕事内容など、君の見たものを教えてくれるだけでいい。もし何かあったとき、それを知っているだけで、私たちは彼らの横暴を止められる」
「……私は、そんなに踏み込んで彼らの仕事内容をしれるわけではありません」
「けれど君は、団長の婚約者だろう?」
ハッとして彼を見る。
「婚約者が、民を追い詰める行動をしていることを、悲しくは思わないかい?」
「……それは……」
「あんな冷徹な男の元に君を置いておくのはいやだけれど、せめて、あの男が君に対してひどいことをしていないか、知っておきたいんだ」
じっと見つめてくる彼に、私はどうしようもない恥ずかしさを覚えて視線を避けた。いろんな感情が交差して体が震えた。
「……私……、その、……わかりました。あなたがそういうのでしたら、お引き受けします」
「……ありがとう、グラシアナ嬢。君を、こんな事に巻き込んですまない」
「いいえ、大丈夫です」
翌日には、私にかかっていた冤罪は、なかったことになっているのか、監査官からの聞き取りもなく、あっけなく過ぎる。
件の女官も「昨日はごめんね」と笑って謝ってきて、以前よりも親しく話しかけてくるようになった。
そして時間ができると近衛の彼が私の顔を見に来る。女官はにやにやとしながら私を送り出すのだ。
「私では、やっぱり、お役に立てないかもしれません……」
私が日常で関わる団の情報など、公開されているようなものしかない。
申し訳なさそうに、彼も知っているだろう今日の予定を話す。
「いや、大丈夫だよ。君が巻き込まれないのなら、その方がいい。こんな事になってしまって、申し訳ないのは私の方だ。私も、近衛騎士だ。王族を守るのが勤めだ。なのに、国に反することをしているのではと怖くなることもある。けれど、国を思うからこそ、自分の立場だからこそ、できることがあるんだ。その為に、がんばろうと思っている。……でも、君は、巻き込みたくなかった。こんな危険なことを、して欲しいわけじゃないんだ」
彼が手を伸ばしてきて、そっと頬を指先で撫でる。私はその感触に驚いて、思わずうつむいた。
「……いえ、だったら、私も、がんばります。もっと詳しく教えて下さい。もっと役に立つ情報を手に入れます。あなたたちが成そうとしていることを、私も、もっと知りたいです」
「……グラシアナ嬢……」
切なげに微笑む彼に、私も精一杯の微笑みを浮かべた。
怖いという気持ちはある。けれど、今のままでは私にまた冤罪がかかるかもしれない。逃げ道はない。どうするか決めなければいけないのなら、取れる道はひとつだ。
彼の顔を見ていると込み上げる感情に耐えきれず、唇を引き締めうつむいた。
震える息を吐く。
私にはこの人がいる。大丈夫。
そう信じることにした。
「……私は、あなたの力になれますか……?」
「ああ、もちろんだ!」
互いに見つめ合う。
彼の視線を受けて覚悟を決めた。体が震えたけれど、必死で耐えた。
「こんなに震えて……。覚えておいて。無理だけはしないで。私が君を守るよ。そうだ、約束のしるしに、これを……」
近衛騎士はシャツの下から取り出したネックレスを外すと、それを私に差し出した。それには男性物の指輪が通されていた。
「これは……?」
「俺の家に伝わる指輪で、……その、大切な女性に渡して結婚の時に相手から返してもらうと幸せになれるといわれていて……」
恥ずかしそうに言ったあと、耳まで赤くして彼が気まずそうにうつむく。
「そんな大切な物、私なんかが預かるわけにはいきません……!!」
慌てて押し返すと、「いや」と彼は頬を赤く染めながら私を見つめてきた。
「君に、持っていて欲しい」
「……でも」
「君を守りたい気持ちが本気なことを、わかって欲しいんだ」
そう言って彼はそのネックレスを私の首につけた。
「約束するよ。……君を守るって」
「……っ」
私は言葉にならず、震える吐息を堪えるので、精一杯だった。
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