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告発1
しおりを挟む「で、監査が必要かと思われますが、いかがなさいますか?」
私は、密売用に一時保存された塩の山を前に、監査官と副団長に微笑みを向けた。
せっかく教えて頂いた保管場所を教えないなんていう手はない。
「ついでに、こちらもどうぞ」
裏帳簿を渡しておく。
あれから、大収穫を得た。色々教えてもらえて本当に助かった。私のメンタルは色々な何かを失ったけれど、彼は使える人物だと信じてついて行った私を褒めたい。がんばった甲斐があった。
「こちらは、密輸用の裏付けとなる資料になります。こちらの日報は、採掘場での人員と採掘時間、採掘量などの記録になります」
この記録から読み取れる産出量と国が把握している表の帳簿を照らし合わせると、だいたいの密輸量の把握はできるだろう。
「ちなみに、これは密輸とは関係ありませんが、作業員の給与が中抜きされております。ついでに責任者の処罰と、給与の是正も必要かと思われます」
イラついていたのだ。近衛に惹かれている小芝居を続ける不愉快さ、脅されている現状。やりたくもない悪事に共感したふりをするぐらいしかできない自分の無力さ。
なにより、マッチポンプな劇場型ロマンス詐欺をされている間、どれだけ私の表情筋と腹筋が大変だったか、おまえらはわかっているのかと。
「君を守るよ」とか陶酔しきったキメ顔で言われる度に吹き出しそうになるのを、どれだけの精神力で耐えたのか! 腹筋を鍛えるのにも限度がある。
更には、ドン引きするほど恥ずかしいセリフを聞かされる度に共感性羞恥に襲われて、叫び出したくなる衝動をどれほど堪えたか。いたたまれないというか、この人が恥ずかしいことをやってるだけなのに、なぜ私が羞恥心を覚えなければいけないのかと、ほんとうに理不尽に苦しめられた。何度も、何度も、何度も、何度も!!
王都を出てからは、ひたすら耐えるばかりの、つらすぎる十日間だった。
誰もわかってくれないだろうこの大変さを語りたかった。語りたいのに語れなかったこのやり切れなさを訴えたかった! でも誰に訴えることもできずに耐えるしかなかった。
王子もよくあの茶番に付き合った物だと思う。近衛であるファロナダ様は、権力に逆らえないだろうから、まだ理解はできるのだけれど。
王子ではハニートラップが成立しないとわかったのか、交代要員にバトンタッチするにあたり、より効果を出そうとしたのだと思う。イケメン二人から取り合われる私、やら、いざというとき助けてくれる私だけのヒーローな近衛騎士、やらを演出するに当たり、王子の役割、悪すぎない?
あんな役回りを引き受けるぐらい、私の相手はいやだったということだろうか。お互い様とは言え、それはそれでイラッとする。
思い出す諸々は、どれも気分が悪くなる物ばかりだ。
心底、私は、彼らが許せない。
「あ、ついでにこれも何かの役に立つかもしれません」
そういって、近衛の彼から渡されていた指輪を通したネックレスを外して副団長に渡す。
「監視用のアイテムだと思います。盗聴か追跡系を疑っていますが、素人目には魔術具だろうということがなんとかわかる程度でした」
「……ソレル殿、魔術具の判別が付くんですね……」
「装飾に見せかけた術式と魔石の組み合わせで、なにもないと思う方がおかしいかと……」
一般的な知識ではないとはいえ、魔術具に興味を多少持っていれば、誰でも想像つくような事だ。こんな露骨な物、よく渡したなと思う。
「いえ、魔石と判断できることも、その装飾の模様が術式と気付けることも、一般的ではないです」
僕の奥さんなんて、何度教えても覚えてくれないのに……。
副団長のそんなぼやきは聞かなかったことにした。何事も興味のない人はそんなものですよ。
高価で、あんまり流通してる物でもないし、使える人も少ないし。
ただ、なんでもそうだけれど、興味あれば、違いが判別できるようになる。女性で興味を持つ人は男性に比べれば少ないのは確かだけれど、女官で生計立てる気でいる同僚の間では、この手のちょっと技術職な知識に興味持ってる人は別に珍しくない。ただ、知らないフリをした方が男性受けがいいというか、角が立たないから、わざわざ知識をひけらかすことはないせいで、女性はまず知らない、っていう感覚になるのかな。
ファロナダ様は「気付くはずがない」と思い込んだ時点で、脇が甘かった。付け焼き刃の知識では気付けないタイプの細工の物もあるのに、こんな露骨な安物を渡すなんて。そんな彼に、随分助けられた。彼がいればなんとかなると、この指輪を見て信じられた。彼は本当に期待を裏切らない男だった。
ちなみに、魔術のプロである副団長は手の中で転がしてから「恐らく盗聴ですね」と、笑った。さすが格が違う。
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