変態が紳士~憧れの堅物団長から「罵ってくれ」と迫られています〜

水瀬かずか

文字の大きさ
49 / 73

怒り2

しおりを挟む

 告発というのは、諸刃の剣だ。
 正しいことをして、間違ったことをつまびらかにして、それで物事がよくなるとは限らないのだ。
 人間は正しいことだけでは生きていけない。
 告発される側は悪者だ、と、単純に断ぜられるものでもない。物事を効率よく動かすには、ある程度の目こぼしをした方が上手くいくだなんて事は、よくある話だ。取り締まりの厳しさは、返って効率を阻害することさえある。
 何かを正すということは、膨大な人的労力と金銭がかかる。そして正す前よりも、正した後の方が弱者への負担としわ寄せがいったりもする。改善させたはずなのに、無力な人間ほど、その変化で人生が狂いやすい。
 度を超えなければ、手間や今後の継続に関してとの兼ね合いで、放置の方が楽で効率がよかったりするものなのだ。

 そういうのがキライだとか、正しいことが履行されないのが腹立つだとか、真面目な者が損をするだとか、思うところは色々ある。けれどそこを正したところで、正常化するどころか悪化することもあるのが現実だ。
 物事を正常化させるには、よほどの覚悟と労力と時間と金と人員、それから個々の精神力と能力、そして何より対抗できる権力がない限り、手は出せない。それを罰することで出る損失や被害、連鎖的に波及して苦しむ無関係で無実の人員のことを考えた上で、行動しなければならない。
 そこまでして正しても、その後を理想的な形で担える者が見つかるとは限らないのだ。結局改善したはずの事柄が破綻することさえありうる。
 結局はよい人材が揃わねば、改善とは成立しない。

 改革をする側の人員、事が成された後に配置される人員、それが足りなければ、正すどころか、悪化する事さえある。
 振りかざした正義が、正しく正義として終わるとは限らない。正しいことをして憐れな一部の者を救って、最終的に罪無き大多数を苦難に陥れ、平穏を保っていた社会を壊して恨まれたのでは、正義は成り立たないのだ。

 場合によっては、正義だったはずの行為は大多数の民衆にとって悪になり得る。一部の者に苦痛を押し付けて平和を保つのが正しいとはいわない。けれど、一部を踏みつけてでも大多数を取らざるを得ないことがある。全てをまんべんなく救うのは、不可能なのだ。

 告発するということは、その一端を担うと言うことだ。
 私の訴えがどう転ぶのか、私には想像もつかない。
 王妃がらみの事業への告発など、下手をすると、告発は握りつぶされて、そして私も消されて終わるかもしれない内容だ。
 それでも、決めたのは、ひたすらに怒りだった。

 下手に動けば被害が大きくなる? は? 知るか。私のやることで崩れるのなら、御しきれなかった団長や王妃の自業自得だろう。罪無き人が被害を被る? 私だって罪無き弱者だ。それが自分を守るために精一杯足掻いて何が悪い。
 団長がちゃんと私に指示しないからいけないのだ。私を脅して、何も言わず、どうでもいいみたいに扱われて。そんなの悔しいじゃないの。団長の思い通りに踊ってなどやるものか。

 私はここで告発する必要がないことは分かっていた。
 だって、私の心は団長に筒抜けだ。言葉にして言わなくても団長と接触すれば、なにが起こっているのかは伝えられる。そしたら、団長が解決するだろう。

 でも、本当に団長は私を助けてくれる?
 だって私を助ける理由が団長にはない。なんならいっそのこと、密輸側の協力者として一緒に処分する方が楽だろう。状況証拠的に私は協力者と断定される可能性が高い。そこで私を助ける手間をかける必要はあるのか。

 だって、私は団長に脅されている。
 団長のことは信頼している。でも、同じぐらい疑っている。私は、団長にとってただの駒でしかない可能性は、捨てていない。

 告発する覚悟を決めたとき、殺されるかもしれない恐怖に心が萎縮した。家族を巻き込む可能性もある。団長にまかせてしまおうかと何度も思った。だって、それが正しい。
 でも、守られる保障なんてどこにもない。
 団長からも、王妃側からも、ただいいように使われている私だ。助ける価値なんて、どれだけある? わざわざ無実を証明してやる手間なんて、私にかけてやる必要なんてある?

 だから、私が私を守るには、私自身が行動する方が確実なのだ。
 事実をつまびらかにして、私はそれに関わっていないことを明確にする。そしてその事実を隠せないように、できるだけ大勢の元で証明する。
 そこまですれば、団長は私を見捨てるにしろ守るにしろ、かかる手間はあまり変わらないだろう。どちらでもいいのなら、私の無実を知る団長は守る方向に動いてくれるはずだ。その程度には信用している。
 覚悟を決めるしかなかった。誰かが助けてくれるなんて期待しても、絶対なんてない。より確実に自分を守るためには、自分が動くしかないのだ。

 私の状況全てがやるせなかった。悔しくて、腹立たしくて、許せなくて。だから私は、死ぬかもしれない覚悟で行動を起こした。

 それに後悔はない。でも、そんな覚悟をしないといけないことが、悲しかった。
 団長がきっと助けてくれると期待したかった。でも、できなかった。
 団長にとって、私の価値は、なに?
 ずっと、団長は私を守ってくれていた。愛しているとさえ言ってくれた。
 でも、それが事実なら、どうして命さえも盾にとって脅したの? 
 団長の心ひとつで、私の安全が左右される。
 信じさせてくれない団長が、憎らしかった。
 私は、団長に怒っていい、そう思った。


 なのに、ここに団長が来たと、それだけで私の中にあった不信感が霧散するように消えていって、残っているのは安心感だけだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

お見合いに代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
綾美は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、お見合いの代理出席をする為にホテルへ向かったのだが、そこにいたのは!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...