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怒り
しおりを挟む私は怒っていた。団長に腹を立てていた。
東部は王妃の生家であるメディアード伯爵家の領地が多くを占める。この密輸には、王妃、もしくは王妃の実家が大きく関わっているのが、ここへ来てわかった。そして、王妃側は、軍を抑えておきたいのではないか。その為に、私に目がつけられていたのではないか。
そう考えると、自ずと答えは出た。
王妃は、私を取り込むためにハニートラップを仕掛けたのではないか。王子のことも、王妃からの度々の接触も、近衛騎士からの接触も、今回の冤罪を含め、強引に悪事に荷担させられたことも、私を取り込んで、逃げ道を無くすためではないか。
団長もまた、このために、先手を打って私を取り込んだ可能性がある。
別にそれはいい。国家犯罪の片棒を担ぐぐらいなら、団長に脅された今の状況の方がずっといい。
でも、だったら、どうして。
心の中で団長を責めずにはいられなかった。
言ってくれればよかったじゃないですか、と。
王妃側に目をつけられているのだと、そして何を探りたいのかを教えてくれればよかったじゃないですか。私が巻き込まれかけている事情を、もう少し情報開示してくれてもよかったではないですか。
任務として、仕事として、開示できる範囲で、教えてくれても良いじゃないですか。
私はなにも知らないまま足掻くしかなかった。
私が必死になっているのに、結局は団長の掌の上で踊っているであろう自分が、惨めで悔しかった。
王妃が私に急に接近してきたのも納得がいった。私を取り込む為の圧力だ。目をかけていると示し、権威を示し、精神的圧迫を与え、逃げられないのだと意識させる。もしくは、目をかけられている優越感や特別感の演出の意味もあったのかもしれない。それは王妃への傾倒にも繋がる。
通常であれば、これだけの状況が揃えば、私は告発なんて考えなかったはずだ。裏に王妃の影を感じて逆らえなくなっていただろう。もしくは、もっと王妃に目をかけてもらえると、嬉々としておもねる可能性も期待されていたのかもしれない。
王妃に呼び出されていたのは、私を引き込む布石だったのだ。
私が王妃らのやり口に流されなかったのは、団長が心を読めるという事実があったからだ。そうでなければ何を優先にすべきか判断が難しかっただろう。それほどまでに王妃という存在は圧倒的な権力なのだから。
判断ひとつ間違えれば、私の人生が終わる。自分だけでなく身近な者を巻き込んで危うくなるかもしれない。それは唯々諾々と従うしかできなくなる心理状態に陥らせるだろう。恐怖を前に、正しい判断はひどく難しい。
でも、団長には隠してもどうせ知られる。
その前提があったから、どれだけ恐ろしくても、悪事に荷担する選択肢は否応なしに消すしかなかった、それだけのことだ。
王妃からは逃げられない。団長からも逃げられない。私に残された選択肢なんて、そう多くはなかった。
恨むなという方が無理だ。
私は団長から利用され、何の覚悟もないままこの状況に放り込まれた。
こんなの、まるで、捨て駒だ。
そう思うとふつふつと怒りが込み上げた。
最初からそう言えばよかっただけのことを、しなかったのは団長だ。
だから、告発を決めた。
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