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怒り2
しおりを挟む告発というのは、諸刃の剣だ。
正しいことをして、間違ったことをつまびらかにして、それで物事がよくなるとは限らないのだ。
人間は正しいことだけでは生きていけない。
告発される側は悪者だ、と、単純に断ぜられるものでもない。物事を効率よく動かすには、ある程度の目こぼしをした方が上手くいくだなんて事は、よくある話だ。取り締まりの厳しさは、返って効率を阻害することさえある。
何かを正すということは、膨大な人的労力と金銭がかかる。そして正す前よりも、正した後の方が弱者への負担としわ寄せがいったりもする。改善させたはずなのに、無力な人間ほど、その変化で人生が狂いやすい。
度を超えなければ、手間や今後の継続に関してとの兼ね合いで、放置の方が楽で効率がよかったりするものなのだ。
そういうのがキライだとか、正しいことが履行されないのが腹立つだとか、真面目な者が損をするだとか、思うところは色々ある。けれどそこを正したところで、正常化するどころか悪化することもあるのが現実だ。
物事を正常化させるには、よほどの覚悟と労力と時間と金と人員、それから個々の精神力と能力、そして何より対抗できる権力がない限り、手は出せない。それを罰することで出る損失や被害、連鎖的に波及して苦しむ無関係で無実の人員のことを考えた上で、行動しなければならない。
そこまでして正しても、その後を理想的な形で担える者が見つかるとは限らないのだ。結局改善したはずの事柄が破綻することさえありうる。
結局はよい人材が揃わねば、改善とは成立しない。
改革をする側の人員、事が成された後に配置される人員、それが足りなければ、正すどころか、悪化する事さえある。
振りかざした正義が、正しく正義として終わるとは限らない。正しいことをして憐れな一部の者を救って、最終的に罪無き大多数を苦難に陥れ、平穏を保っていた社会を壊して恨まれたのでは、正義は成り立たないのだ。
場合によっては、正義だったはずの行為は大多数の民衆にとって悪になり得る。一部の者に苦痛を押し付けて平和を保つのが正しいとはいわない。けれど、一部を踏みつけてでも大多数を取らざるを得ないことがある。全てをまんべんなく救うのは、不可能なのだ。
告発するということは、その一端を担うと言うことだ。
私の訴えがどう転ぶのか、私には想像もつかない。
王妃がらみの事業への告発など、下手をすると、告発は握りつぶされて、そして私も消されて終わるかもしれない内容だ。
それでも、決めたのは、ひたすらに怒りだった。
下手に動けば被害が大きくなる? は? 知るか。私のやることで崩れるのなら、御しきれなかった団長や王妃の自業自得だろう。罪無き人が被害を被る? 私だって罪無き弱者だ。それが自分を守るために精一杯足掻いて何が悪い。
団長がちゃんと私に指示しないからいけないのだ。私を脅して、何も言わず、どうでもいいみたいに扱われて。そんなの悔しいじゃないの。団長の思い通りに踊ってなどやるものか。
私はここで告発する必要がないことは分かっていた。
だって、私の心は団長に筒抜けだ。言葉にして言わなくても団長と接触すれば、なにが起こっているのかは伝えられる。そしたら、団長が解決するだろう。
でも、本当に団長は私を助けてくれる?
だって私を助ける理由が団長にはない。なんならいっそのこと、密輸側の協力者として一緒に処分する方が楽だろう。状況証拠的に私は協力者と断定される可能性が高い。そこで私を助ける手間をかける必要はあるのか。
だって、私は団長に脅されている。
団長のことは信頼している。でも、同じぐらい疑っている。私は、団長にとってただの駒でしかない可能性は、捨てていない。
告発する覚悟を決めたとき、殺されるかもしれない恐怖に心が萎縮した。家族を巻き込む可能性もある。団長にまかせてしまおうかと何度も思った。だって、それが正しい。
でも、守られる保障なんてどこにもない。
団長からも、王妃側からも、ただいいように使われている私だ。助ける価値なんて、どれだけある? わざわざ無実を証明してやる手間なんて、私にかけてやる必要なんてある?
だから、私が私を守るには、私自身が行動する方が確実なのだ。
事実をつまびらかにして、私はそれに関わっていないことを明確にする。そしてその事実を隠せないように、できるだけ大勢の元で証明する。
そこまですれば、団長は私を見捨てるにしろ守るにしろ、かかる手間はあまり変わらないだろう。どちらでもいいのなら、私の無実を知る団長は守る方向に動いてくれるはずだ。その程度には信用している。
覚悟を決めるしかなかった。誰かが助けてくれるなんて期待しても、絶対なんてない。より確実に自分を守るためには、自分が動くしかないのだ。
私の状況全てがやるせなかった。悔しくて、腹立たしくて、許せなくて。だから私は、死ぬかもしれない覚悟で行動を起こした。
それに後悔はない。でも、そんな覚悟をしないといけないことが、悲しかった。
団長がきっと助けてくれると期待したかった。でも、できなかった。
団長にとって、私の価値は、なに?
ずっと、団長は私を守ってくれていた。愛しているとさえ言ってくれた。
でも、それが事実なら、どうして命さえも盾にとって脅したの?
団長の心ひとつで、私の安全が左右される。
信じさせてくれない団長が、憎らしかった。
私は、団長に怒っていい、そう思った。
なのに、ここに団長が来たと、それだけで私の中にあった不信感が霧散するように消えていって、残っているのは安心感だけだった。
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